65・人ならぬモノたち、神に挑む
二度目の神との戦い。
そう、二回目である。
一回だけでもとんでもない話なんだけど……それをまさか、一年も経たないうちにまたやることになるとは。スパン短すぎ。
神ってさ、こんな気軽に戦う相手じゃなくね?
神話や伝説が身近で幅を利かせてた大昔のバトルじゃあるまいし。
今は現代。
科学絶好調の時代だぞ。
いくらオカルティック業界に属している身の上とはいえ、これは時代錯誤過ぎるだろ。少し加減してくれよ運命の女神さま。
怪物と神のガチンコって、そんなに頻繁にやっていいものなの?
歴史は繰り返すって聞いたことあるけど、だったら一周回って神話の時代がまた来たりするわけ?
ヤバいだろそれ。
あの人は──根ノ宮さんは、この思いがけない緊急事態を、よその神さまがまたしても日本に降臨したのをわかってるのだろうか。
把握できているのか。
……いや。
わかってないよな。
俺が絡むと星を詠むのが難しくなるとか、見えにくくなるとか、そんな風に言ってたことあったからな。
だけど、ここまではっきりと洒落にならない事態になったら、いくら俺のせいで普段は見辛いとしても、もう察知できてるはずだ。
具体的なことはわからないとしても、何か想像を絶することが今起きてると。
だから足手まとい寄越さないでね頼むから。
「んー…………確かに、神っちゃ神だな。この感覚、この肌のざわつき……否定のしようがない」
神を騙ってるだけの存在なら良かったのだけど、この感じではその可能性は無い。
でも、神っても、これ邪神とか悪神とかそっち系だな。神々しさもあるが、タチの悪い雰囲気もある。
「……まあ、あまりいい神さまじゃないらしいな。雰囲気がちと禍々しいよ」
「そういう不遜なことは言わないほうがいいぞ、少年。確かに『蝿の王』の成分が強めだが、しかし、ここにおわすのは、れっきとした神格だ。古きローマのね」
冷気使い・グリムヒルデが俺をたしなめてきた。
肉付きのよいボディは、傷んだぬいぐるみかフランケンシュタインの怪物みたいに、雑にあちこちパッチワークされている。
その手に持つ大剣の、前の持ち主にやられたのだ。
今は亡き、不良女騎士アンジェリカに。
「さいですか」
古き神か。
……ってことは、厄介そうだな。新しめの神より昔の神のほうが強いだろ年季的に。
アポ……アポミュイオスとかいったか。
こんなのがお出ましになるなんて、ディバイン連れてきちゃったのは失敗だったかもしれないね。
いくら戦闘人形でも神と戦うのは心身両面でしんどいよな。
「という事らしいから、いいんだぞ引き下がっても」
横にいるレオタード姿に、返事のわかりきってる言葉をかける。
「……お言葉に甘えさせてもらうべき、なのだろうね。だが…………私はディバイン。誇り高きアサルトマータが一体だ。我が光と意思にかけて、どうしてもここは引けない」
「神が敵でもか?」
「そうだ」
「今度こそ滅びるかもしれんのに?」
「……だとしても、だ。恐怖はある。不安もある。しかし──迷いはない。この剣に全てを賭けるのみ」
あー、駄目だこりゃ。
俺がそこの白髪美人とくっちゃべってる間に決意固めてやがった。いらん時間与えてしまったか。
……やむを得ない。
俺も、腹をくくることにしよう。
この単純な箱入り娘に危ない橋を見事渡りきらせる、その覚悟を持つとしようじゃないか。
いまだに原理も詳細もわからないチートモンスターの力をこれでもかと見せてくれるわ。
『分に過ぎた力持ちし、人の子よ……そして、その脇に立つ、卑猥なるヒトガタよ』
「……っ、だ、誰が卑猥だ誰が!」
神相手にディバインが吠える。
見た目をエロいとか言われるのはこいつにとって禁句なのだ。
「どいつもこいつも何なんだ。口を開けばいやらしいだのエロだのと……心外な! 私のどこに劣情をもよおす要素がある!」
鏡見ろよ鏡。
異様に整った美しさもあるけどさ、スケベ要素も強いんだよお前。見た目だけなら箱と剣持ったエッチなお姉さんやん。どこのソシャゲの女キャラだよ。
ま、それはそうと、
このやり取りのせいなのか、心なしかディバインがリラックスしたように見える。
(……なんか、怒りでいい感じに緊張がほぐれた? マジ?)
怪我の功名か、瓢箪から駒か。
……いや、リラックスしたからって、それでどうにかなる相手でもないんだけど……それでも、心や体が固まってしまってるよりは雲泥の差だ。
とにかくね、機能停止するほどのダメージを負わなけりゃそれでいいんだよお前は。
頑張るのはいい。
でも、無茶だけはやめとけ。
無謀な選択はチョイスするなよ。余裕持って戦うんだ。いいとこ俺に見せたいとか思わなくていいから。
そしたら、後から俺が、身体中の穴という穴から活力を吹き込んで直してやる。
俺の楽しみも兼ねて、グデングデンに柔らかくしてやるから。骨無しディバイン肉の一丁上がりだ。
「フッフフ……燦然と輝く我が光明、消せるものなら消してみるがいい──いにしえの神よ!」
予告ホームランするようなポーズで、ディバインが半人半蝿の神に剣の切っ先を突きつける。
まるで私のほうにかかってこいと言わんばかりの威勢の良さで。
……なにやってんのこいつ。
なぜ引き付けるの。
「バカ、いらん挑発やめろっつーの!」
だからさ……お前がタゲ取りしてどうすんだよ……見た目からして防御薄いお前が。
台無しやん。
……もうさ、わかったから、余計なこと言うのは許すからさ……お前は離れたところからレーザーでも撃ってるか股間のレオタードの食い込みでも気にしてろよ!
「バカとはなんだバカとは!」
「うるせーバカ! バカなことしてるからバカって言ったんだよ悪いかバカ剣士!」
「四度も言いおったな! それでも私の相棒か!」
「だったら言われないように努力……やばっ!」
まずいまずい。
この状況そっちのけで売り言葉に買い言葉なんてしてる場合じゃねえ。
お前らの口論なんぞ知るかとばかりに、古き神が鎌を振り上げ──
「話は後だ、くるぞディバイン!」
「言われずともわかってる!」
『もろく儚き炭となるがいい、人のまがいものよ』
──振り下ろすと、
まばゆく輝く雷の斬撃が俺……違う! ディバインのほうだ!
だから言わんこっちゃない!
「──万物両断、レーザースラッシュ!!」
勢いに乗ってほざいた口から出任せかとも思ったが、来るのがわかっていたのは確かだったらしい。
反応が早かった。
加減のできない必殺技で堂々と迎え撃とうとしたが──果たしてそれで太刀打ちできるのか!?
切り裂く雷。
切り裂く光。
分の悪い賭けだが、どうだ、どうなる!?
「おお!?」
防いだ。
防いだぞディバイン! やりやがった!
多少は押されはしたものの、そのまま押し切られることなく、あちらの攻撃を無事に相殺できた!
「見たか、我が必殺の一閃っわわわっ!?」
一発目が届かなかったことなど気にも留めず、すかさず追加の雷をお見舞いするアポミュイオス神。
鼻高々になっていたところに飛び込んできたその二発目を、ディバインがギリギリ回避した。危なっ。
「……防ぎきったのは、まあ見事だったが、今のおマヌケでチャラってところだな」
「ぐぬぬ……」
出し惜しみなどしてられず、背中の輪っかや右手首の剣をさっさと具現化した俺の皮肉に、ぐうの音も出ないディバインであった。




