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復活したら人食いチート怪物と化していた天外優人、その奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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60・終戦

 俺を討伐するため西から来た一団との決着は──死人が何人か出てはいるものの──まだついていない。

 しかし、ついていないとはいっても、もう時間の問題だ。

 均衡は破られた。

 あちらは詰みかけている。


「痛かったよ、お腹痛かったよぉ……なんでこんなことするのぉ……」


 ベソをかいて嘆いてる聖女コルテリア。

 最大戦力の一人であるこの女がこんな調子で使いものにならなくなった以上、俺とやり合える者はいなくなった。

 いい流れだ。ゲロ以外は。

 現状は事前に予測していた通りのことが起きている。ゲロ以外は。


 邪剣の使い手・騎士アンジェリカは、冷気を操るショタ好き女・グリムヒルデと対決。勝負はついてない。つーか、つきそうにない。

 鎌使いの少女は天原さんの足止め。こちらもグダグダしてる。天原さんが意図的にそうしてる気もするが本気でやってる可能性もなくはない。

 魔女はこの空間の維持につきっきりらしい。全く姿を見せない。

 手足の爪がすごいことになっている女がまだ外にいるが、そいつと間狩たち四人が交戦してるかどうかまではわからない。とりあえず、してることにしよう。


 よって、ここからの展開だが。


 手の空いた俺が加勢して個別撃破していけば、多少手こずりはしても、最終的には全部叩きのめして完勝できるんじゃないかな。

 ……なら、どこから手をつけるかだが……それは悩むまでもない。

 そんなの決まってる。

 真っ先にやるのは、そこの口が悪いボケ女騎士だ。


「メンタルくそ雑魚すぎんだろ……」


「ハハハ、才能に頼りきり、忍耐を磨かなかったツケをここで支払わされたか。まるで幼子だ。噂に名高い『極光の聖女』も、存外、大したものでもなかったようだな。アハハハハハハ!」


 悪態ついてるボケ騎士ことアンジェリカと、高笑いしているグリムヒルデ。

 小手調べの攻防を繰り広げていた二人の手はすっかり止まり、戦意すらも衰えている。もう戦闘再開する空気じゃなくなってるようだ。白けたからやめとくかって感じ。

 せっかく暇になったんだから二人がかりで汚れ騎士をやっちまおうとしたが、この様子じゃ誘っても乗ってくれそうにないな……。


 なら鎌使いのほう潰すか?

 見た感じ接近戦向いてなさそうだし、近づいて殴ればええやろ。そのまま殴り殺して食らいたいけど周りの目があるのでそれは我慢しとく。今更だが。


 ……それにしても、言われたい放題だな聖女さま。

 言われても仕方ないけどさ。

 二十歳過ぎた大の大人がゲーゲー吐いて大泣きしてんだから、見苦しいを通り越して哀れに思えてくる。俺ももう何も言いたくなくなった。


 なんかこう……年上にこんなに泣かれると、気の毒とかより、とにかく引く。

 追い討ちの言葉をかける気にもならない。

 ゲロまみれにされて気分落ち込んでるのもあってなおさらだ。


「ひどい、酷いよぉ……うぅ…………」


 まだ言ってる。しつこいな。

 もうほっとこう。

 しばらくは立ち直れなさそうだしね。

 立ち直ったらその時はまた腕掴んで腹パンすりゃいい。腹パンは正義。またぶっかけられるのは御免だけどさ。


「あー、着替えやシャワーしたいなぁ。気分良く仕切り直したいよ。けど、でもやることはやってしまわないと…………ん?」


 なんだ?

 何が、起きてるんだ?

 目がおかしいぞ。


 景色が……ぼやけてきた?


「気のせい……じゃない、よな」


 そうだ。

 気のせいとか錯覚とかなんかじゃなく、確かにぼやけている。

 周りの風景が、壁や天井や床が、水で薄められたような曖昧な感じに見えてきてるんだ。


「疲れ目……なわきゃないよな、これ。う~ん、一体どうなってんの?」


 俺の目にしかそう見えないとか?

 いや、まだそう考えるのは早いな。

 他の奴らはどうなんだろ。もし見えてるなら動揺してそうだけど。


「ま、まさか……!?」


「血相が変わったな、お嬢さん。フフ、どうやら魔女の身に何かあったらしい。死んだか、それとも逃げたか」


 鎌使いの少女が動揺し、天原さんが冷静にそう言った。

 言ったんだ。

 なら、見えている。

 二人ともこの景色見えてるよ。

 俺の目玉がおかしくなったってことじゃなく、やっぱり、他の人にもこの空間に起きた異変が見えてるみたいだ。


 天原さんに言わせると、あの年増魔女の魔術が、本人の死で解けたか、逃亡して術が維持されなくなり破綻したかのどちらかだということだが、まあそうだろうね。

 でも、死んだとは思えない。

 結界に集中しすぎててうっかり殺されるようなババアかねアレが。どうせ逃げたんじゃないの。


「まあ、そちらはほむら達に任せよう。そのくらいはしてもらわねば、何のために連れてきたのかわからん。こちらはこちらの後始末をやらねばな」


「後始末? キヒッ、気の早いことだね。その状態で何をどう始末できるのか、是非とも教えてほしいねぇ!」


「そうか、なら遠慮なく……」


 天原さんが、黒い手のようなものが絡みついてくるのを無視して、身体をねじり、握り拳を振り上げる。

 ピッチャーの投球フォーム……いや、それよりも砲丸投げのフォームに近いか。

 握り拳なんだからパンチしたいんだろうけど、あの体勢で、いったい何を殴るつもりなのか。

 鎌使いの少女とは離れている。どうやっても拳が届く距離じゃない。

 どうする気だよアンタ。


「──ふんっ!」


 拳が、振り下ろされる。

 足元の床へと。



 足元に渦巻く、真っ黒い沼へと。



 激突音。


 飛散音。


 そして破壊音。


 鎌使いの少女が作り出した足止めの黒い沼が、何の抵抗もできず消し飛び、無数の黒い飛沫になった。

 しかし、パンチの威力はそれだけにとどまらない。

 床がぼこりとへこみ、ちょっとした小型のクレーターが出来上がった。


 こうして、天原さんは束縛から解き放たれ、自由の身となったわけで。

 ということは、つまり言うまでもなく。


「さて」


「ヒッ!」


 ──天原さんが、すっと立ち上がり。

 鎌使いの少女が、おろおろと後ずさる。


 今の今まで押さえつけていたものが消え失せたのだから、もう少女と天原さんの間にわずらわしい障害はない。

 あの子を守るものはもはやない。


「見ての通り、こんな、痴漢しかできない水溜まりなど、その気になればこうして打破できる程度のものだったわけだが……どうする? まだ続けるかい? 私としてはそろそろ観念してもらいたいのだけど、どうしてもというなら、まあ、最後まで付き合うのもやぶさかではないけどね」


「…………ぐうぅ」


「ああ、それはやめたほうがいい。二度も同じことをやらせるほど私は寛大じゃないよ。無限ループはお断りだ。もしやるならその前にお仕置きだね」


 またしても黒い鎌を作り出そうとしていたのか、手元に黒いもやのようなものを発生させ始めていた少女が、天原さんに指差され、ビクリと震えた。

 悔しそうな、悲しそうな顔で、両手をだらりと力なく下げる。諦めたらしい。

 黒いもやが、薄れていく。


 跡形もなく消えた。


「……それは、降参とみなしていいのかな?」


 鎌使いの少女は、うなだれた頭を、何も言わず縦に振った。


 そうしている間にも、広間の風景はさらにぼんやりとした、わかりづらいものになり──



「──あれ?」



 それは唐突だった。


 このままのろのろと結界が薄れ、崩れていくのかと思っていたが、いきなりきた。

 どうも、結界というのは限界に達すると突然無くなり、中にいた者たちを外に吐き出してしまうようだ。


 まあまあ蒸し暑い、外の空気。

 どこまでも広い、壁も天井もない場所。

 暗くなってきた空と、沈みつつある夕日。



 元々、ここに結界が張られていて、それが解けたからこうなったのか。

 それとも、別の場所に張られていた結界が崩壊して、ここに転移したのか、転移させられたのか。


 詳しいことはわからない。

 が、確実にわかっているのは──俺たちがいる場所が療養所の屋上ってことだ。


 それと。


「……逃げ足の早いことで」


 いったい、どのタイミングで消えたのか。

 邪剣を使う女騎士も冷気を使う白髪女も、共に、影も形もなくなっていた。


 片腕を失った少年騎士。

 戦意を喪失した少女。

 ボロボロになったスーツ姿の美女。

 涙とゲロにまみれた聖女。

 ゲロにまみれた化物。


 屋上にいるのは、死体をのぞけば、それらの面々だけだった。

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 天原さん、なんか某作品で作者お気に入りと言われてる893みたくなってて草。まぁ自分もどちらかと言われたら好きな部類のキャラですが(笑)
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