58・極光の破門
ちょっと違う作品に浮気していて更新が遅れました。めんごめんご。
「貪欲な魔物であるあなたが、我が法術『極光の破門』をどう凌ぐのか、しかと拝見させてもらいましょうか」
「どうしようかね。期待に応えたいとこだけど」
しかし一筋縄でいきそうにない。
欠点を突きたいのだが、情報が足りなすぎてわからない。
まあ、普通に考えて無敵のカウンター能力なんてあるわけないし、仮にあったとしても……そんなとてつもない力、人が使えるものじゃないよな。
だからつけ入る隙がある。と思う。
だとしても──どこにその隙があるのか。
わからん。
さっぱりだ。
糸口すらつかめないよ。
自分の術に全幅の信頼を置いてるこの余裕。物理的な攻撃だけじゃなく、霊的な攻撃や魔術の類いも弾き返せそうな感じはある。
この術……もしかしたら、真正面からでは崩せないのかもね。
困ったときの詳細不明砲を試し撃ちするのはやめとくか。
俺に戻ってくるならまだいいけど(よくはない)そこの白髪姉ちゃんに飛んでった結果ブチ切れられて怒りの一対三になったら嫌だしなー。
「悩んだところで打開策など見つかりませんよ。この法術に弱点はありません」
聖女が高らかにそう言うが、聞き流す。
まともに受け取るべき言葉じゃない。
ハッタリか、あるいは、これまで打破されたことがないので、そう思い込んでいるだけだ。
弱点がないわけない。
でもその弱点が見つからないんで、結果的に弱点がないのと同義になってるから困ってるんだな、これが。
「そんなチートじみた能力、この世になんか無いと思うけどな」
チートじみた存在ならここにいるけど。
「そう思うのは結構ですが、しかし現実に起こっているこの素晴らしき反射を、徹底した拒絶を、どう解釈します?」
「痛いところを突くね、聖女さま。それを言われると弱いよ」
ただ、悪い状況ではない。
今の状況はこうだ。
邪剣の使い手は、白髪の乱入者と睨み合い。
槍使いは、俺が壊して戦闘不能。
全身鎧の大男は、天原さんとの戦いで死亡。
鎌使いは、天原さんの足止め。
植物系の魔女は、俺たちとまともに戦うことを避け、どこかでこの緑豊かな結界の維持に努めている。
あと、フリーなのは手足が凶悪な切り裂き妖精くらいだけど……それは外にいる間狩たちが何とかするはずだ。というかそのくらいしてくれ。こっちは取り込み中なんだ。
つまり、この無敵反射使いな聖女さんが、今回の騒動における──最後の難所ってわけよ。
ここさえ凌げば、まず勝ち確。
あとは、邪剣さんを白髪さんと二人がかりで、鎌使いは天原さんが、切り裂きは間狩たちが倒す。
そして一人残った森ババアをみんなで囲んで棒で叩くのだ。
そんなわけで。
今の状況と、これからの戦略はこんな感じ。
じゃあどうやってその難所を攻略するかだが……そこが問題だ。
これさえ解決すればいいのだが、逆にいうと、これが解決しないとどうしようもない。
もし解決できたら、そのついでに、俺が人間をつい食べたこともうやむやにしたい。
特に間狩に知られたら困る。
また怒りを買う。
罪のない一般人じゃなく敵なんだし、俺が殺したんじゃないんだし、お腹空いてたんだし、このくらいはノーカンだろ、無効にしてよと天原さんにすがり付いて頼めば……。
「…………ん?」
なんだろう。
今、何か、突破口が開いたような、妥当の鍵穴が見つかったような……。
アイデアのきっかけが、チョロッとだけ姿を見せてくれたような……。
どこだ……?
「呆けた顔をして、どうしたのですか? とうとう現実を直視できなくなりましたか?」
「いや、ちょっとね、色々と思い返してて」
「思い返す、ですか。もしかして懺悔でもする気になりましたか? だとしても、したところで許されませんが。子羊の魂は許されても、魔物の魂は許されず、滅びるべきものですからね」
聖女のくせに口が悪いなこの女。
「……いや、そんなつもりはさらさらなくてさ。そんなくだらないことより、別のこと閃いたんだよ」
そうだ。
あることを、
ある方法をこう、たまたま閃いたんだ。連想したんだ。俺のシナプス頑張った。
「そうですか。全く悔いることないその態度、どこまでも罪深いですね。それで、どのような下劣な発想を思いついたのです?」
「あんたを倒す方法さ」
「わたくしを? ……フッ、フフ」
「おかしいかい?」
「フフッ……ええ、とても面白いですね。わたくしの無敵の法術にどう立ち向かうのか、興味が尽きませんよ」
「興味持ってもらえるのは嬉しいけどさ、でも、まだ机上の空論にすぎないからね。これから試してみようかなと」
「どうぞご自由に。好きに試してみてください。──その浅はかな発想とはかない希望が、重い絶望に変わるまで」
ハグを受け入れるように両手を広げ、歌うように、詩的な煽りをいれてくる聖女コルテリア。
その余裕さも今のうちだ。
わからせてやんよ。
……俺のアイデアが、見事に効果出たらの話だけど。
ところで謎の乱入者と騎士の勝負だが。
「あっちも煮詰まってきたようだし、てめえと顔突き合わせてんのも飽きてきたよ。……なあ、そろそろやらないか?」
「ハハハ、なぜそんなことをいちいち聞く? やりたいなら無駄口を──」
瞬時に。
邪剣の使い手、騎士アンジェリカが距離を詰めた。
刃が届く間合い。
人に致命傷を与えられる間合いだ。
剣が振られる。
「──そう、それでいい」
振られたが。
ガギンという固い音がして、邪剣が止められた。
「……クソッ、うまくいかなかったか」
騎士アンジェリカが、不愉快そうにぼやく。
不吉そうな雰囲気をたっぷりと漂わせているでかい剣が、グリムヒルデという得体の知れない女の右手に、がしりと掴まれていた。
「そう悲観することもない。いい一撃だった。間合いの詰め方も、踏み込みも、一撃の重さも一流だ。以前よりもな。お世辞ではないぞ? やるかどうか呑気に聞いておきながら先手を打つのも悪くない。いい不意打ちだった」
「ケッ、お前なんぞに褒められても、嬉しくもなんともないね」
「そう言うな。褒め言葉は素直に受け取っておけ。たとえそれが、自分の命を奪う相手からの冥土の土産だったとしても──」
白い、霜のようなものが、グリムヒルデの右手から溢れるように放出されてきた。
ドライアイス……ってことはないよな。
「おっと、そうはいくか。そうくるのはお見通しだ」
剣から一層強烈な邪気が放たれ、グリムヒルデの手を弾き、そこから出てきている白い煙のようなものを蹴散らした。
季節外れのひんやりした風が、霜の残滓を乗せてこちらにまで届いてきた。
「ハハハ、慌てて振りほどいたか」
「剣ごと冷凍食品にはなりたかないんでね、私としても」
そういうことか。
冷気系の特殊能力か、術の使い手ね。
だとしたも、剣を素手で受け止めたりしたのと、先ほどのワープが気になるが……まあ、それはいいか。後だ後。
今はこちらに集中しないと。
「観戦もそのくらいになさい」
聖女に怒られた。
まあ、意中の女性をほったらかしにして他の女性に目移りしてたんだから、怒られて当然だね。
「そんなに勿体ぶることでもないでしょう? 徒労に過ぎない、愚かな振る舞いだとわかりきっている行為を」
「そうだな。待たせて悪かったね。あんたも焦れてきたようだし……んじゃ、やらせてもらうよ」
邪剣使いと冷気使いのバトルの行方も気になるけど、そろそろこちらに本腰入れないとな。
俺は、実験に近い、あるプランを胸に、聖女のほうへとすたすた歩いていき、そして──
「? 何の真似です?」
右手を伸ばし、聖女の左腕を掴む。
手首の剣はしまっておいた。出しっぱなしだと攻撃判定されそうかなと思って。
そのせいなのか、普通に掴めた。
「ああ、打撃などは駄目だと判断したのですか。しかし無駄なこと。私の無敵の法術は、握り潰そうとしたり、ねじり折ろうとしたりしたその瞬間に発動するのです。──掴んだだけでもね」
バチッ、バチバチバチッ!
「うおお、まぶしっ」
火花が飛び散る。
左腕を掴んでいる手を弾こうと、熱と電気と衝撃が右手に襲いかかってきている。
「でも、そこそこだな、やっぱり。攻撃じゃなくてただ掴んでるだけだと、反射ダメージもいまいちらしい。それでも普通の人間なら、手が焼けて、ちぎれ飛びそうだけど……」
俺はこのくらいどってことない。熱々の中華まんといい勝負だ。
背中に輪っかを出す。
「光輪? 魔物の分際でそのような──」
光らせる。いつもの無効化発動だ。
「あら?」
右手を襲っていた、熱と電気と衝撃が消えた。バチバチしなくなった。
つまりそれが意味するのは、
「よし、うまくいった。触ればできるんじゃないかと思ったよ」
『極光の破門』攻略成功♪
邪悪な影響や呪いだけでなく、こうした術の効果も解けるのでは、引き剥がせるのではないかと、
これまでのやりかたの応用で、無効にできるのではないかと思ったんだ。
それが成功した。
実現した。
なら、このあと、俺がやることは、
「あ、あら、あらら、ちょっとお待ちな──」
「食らえ腹部攻撃!」
ヘルメットみたいな仮面のせいで表情がいまいちわからない聖女が、たぶん顔色変えてそう言っているんだろうけど、俺がそんなこと聞き入れるはずもなく。
また法術使われて元の木阿弥になる前に、
無防備の極みみたいになった聖女の、
そのお腹めがけ。
俺の(煽られて軽くムカついてたけどそれでも一応加減した)拳が、吸い込まれるように綺麗に命中した。




