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復活したら人食いチート怪物と化していた天外優人、その奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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33・嵐姫、リベンジ開始

「……本当によろしいの?」


 手出し無用、一対一でやりたい。

 そんな玉鎮の申し出に、御華上は確認のため一応訊いてみた。


「当然」


 たった一言。

 とても敗戦後とは思えぬ力強い言葉が放たれ、御華上の耳へと届いた。



 ──訊くだけ無駄なのは、わかっていた。

 あるいは野暮と言うべきか。


 彼女の性格上、一度やると決め、宣言したことをそう簡単に思いとどまることなど、ほぼない。

 自身に落ち度があったり、よほど先行きの見えないことをやろうとしているのならともかく、そうでないなら、テコでも己の考えを曲げないのはこれまでの付き合いで理解している。


 が、それでも。


 やはり心配になって、つい念押ししてしまったのだ。

 『本当に任せてもいいのか』と。

 どんな返事がくるか、わかっていながらも。


 ……まあ、こうなったら、何度訊こうと答えは変わりそうにない。

 好きにさせてやろう。

 またしても負けたところで、そのときは、自分がこの男を倒せばいいだけだ。

 時間稼ぎは我ながらお粗末なものだったが、それでも、玉鎮の体力や肉体はそれなりに回復してはいる。そうでなければ、彼女も再び一対一の勝負に挑むはずがない。

 気をつけなければならないのは、彼女が負けた時に、また復帰されてはかなわないとトドメを刺されるかもしれないことだ。

 その時は、わたくしとしても、全力で阻止させてもらう。


 しかし、この第二ラウンド。

 どうなるのか。


 彼女の鉄槌が壊され、武器として用いることができなくなったということは、それはすなわち──


(……まったく、危ない橋を渡るのが好きなんだから……)


 こればかりはわたくしや間狩さんが何度お説教しても治らない。根ノ宮さんですら駄目だった。

 無茶をやる度に気を揉んでいる周りの身にもなってほしいものだ。


 ……と、そんなわたくしの心配など露知らず。


 指をパキパキと鳴らしながら、玉鎮さんがロシアの殺し屋だという棒術使いの男性と向き合う。

 もう、止める術はない。

 祈ろう。

 彼女が、少しはコツを掴んで、自身の力の制御が上手になっていることを──



「馬鹿だな」


「あぁ?」


「二対一なら、まだ勝ちの目もあっただろうに……」


 イヴァノヴィッチが、静かに、淡々と言った。

 本心である。


 いくら玉鎮の身体にダメージが蓄積しているとはいえ、無傷の御華上と挟み撃ちにされては、実戦経験でこの二人を上回るであろうイヴァノヴィッチといえど不覚を取りかねない。

 正直なところ、彼はエミリーを見捨てて逃げることも考えていた。

 護衛すべき者を放置して撤退。悪評が立つには十分な失態だが、敗北するよりはずっとマシである。他人からの評価は取り返しがつくが自分の命は取り返しなどつかないのだから。


 そう思っていた矢先の──朗報。



 敵は、懲りずに一対一での対戦を望んできた。

 なんという好都合だろうか。そちらからハンデ無しの戦いを挑んでくるとはな。

 この鉄槌使いの少女が抜き差しならない窮地に陥れば、さすがに針使いの少女も助太刀するとは思うが……それまでは横槍を入れてくることはあるまい。


 しかし、油断は禁物だ。


 この二人のやり取りがブラフの可能性もある。

 手出しするなというのは、逆に、ここぞというところで手出ししてくれという意味かもしれない。

 ふふ……どちらにしても、最初から二人がかりで挑まれるよりは楽ではあるがな。



 イヴァノヴィッチは、心の中で笑っていた。

 目の前の敵──赤と黒のオッドアイでこちらをじっと見据える少女の愚かさと、自身の幸運に。


「嬉しそうだね、おっさん」


「?」


 イヴァノヴィッチは訝しんだ。


「口。端っこがちょっと吊り上がってるよ」


 玉鎮が右手の人差し指と中指で、自分の口の端を、くいっと吊り上げてみせた。

 どうやら、内心がわずかに顔に出ていたらしい。イヴァノヴィッチらしからぬ不覚であった。


 イヴァノヴィッチは特に言い返すこともせず、無言で、唇と心を引き締めた。


「ハハ、おしゃべりの時間は終わりってことかい。んじゃ、こっからは……拳で語り合うとしようか」


 玉鎮が、腰を落とし、両の拳を強く握り締める。

 足元のあたりに転がっているハンマーだったものを手に取ろうともしない。

 このまま。

 素手でいくつもりなのだ。


(どういうつもりだ?)


 イヴァノヴィッチが、怪しんだ。



 本当にそのままやるのか?

 武器有りで勝てなかったのに、なぜ、素手で挑んでくる?

 素手でこそ本気が出せるとでも?


(……まさかな)


 そんなわけがない。

 なら最初から素手でやればいいだろう。素手のほうが上なら、あのような鉄槌など用いる意味など皆無のはずだ。当然だ。

 となると、打撃ではなく……接近して体を崩し、地面に投げ落としてくるか……あるいはタックルから寝技に持ち込み、腕か足、それとも首を折りにくるか……。


 だとしても、構わん。

 別に俺は棒しか使えぬわけでもない。サンボも嗜んでいる。寝技ならこちらのテリトリーだ。

 逆にこっちが関節技をかけてくれる。

 自身の骨がへし折れる音を、この少女に聞かせてやろうではないか。



 過信。

 結論から先に言うと、それがイヴァノヴィッチの判断を誤らせた。

 あらゆる可能性を考慮しつつ、その場の状況に合わせて正解を導き出さねばならぬのが戦闘であるというのに、この経験豊富な殺し屋はあることを見落としていた。


「オラァッ!」


 二、三のフェイントを混ぜてから、本命の拳をイヴァノヴィッチに当てにいく玉鎮。

 回避はできるが体勢が傾く。

 そこから掴まれて投げや寝技に移行されると、両手で棒を持っている分、対応が遅れてしまう。そうイヴァノヴィッチは判断した。

 だから、愛用している得物である『ヴォーリャ』で攻撃を受けた。

 鉄槌の猛攻を防ぎ切ったこいつなら、たかが拳ひとつ、軽く受け止められる。むしろ拳のほうが砕けかねない。


 そう、過信した。



ビキィッ!!



 何か固いものが砕ける──とまではいかない、ヒビが入ったような音が、激突した棒と拳から鳴った。


「ぐっ……やべやべ、ギリだった!」


「…………!?」


 音がしたのは、

 安堵した玉鎮の拳ではなく──イヴァノヴィッチが持っている金属棒のほうからだった。


「なっ、なんだと……!?」


 イヴァノヴィッチが、その強度や性能に絶大な信頼を置いている『ヴォーリャ』に、一目でわかるほどのヒビが入っている。


「おー、いてて……」


 一方、玉鎮はというと、パンチを放った右手をヒラヒラと振って痛がってはいるが、深刻なダメージを受けたようには見えない。


「なぜだ。なぜ、こんな真似が……!」


 動揺を抑えきれない、イヴァノヴィッチ。


 無理もない。

 多少手こずりはしたが、イヴァノヴィッチはほとんど完封といっていいくらい玉鎮の攻めを受け、防ぎ、捌ききって一度は勝った。

 ハンマーで地を叩いて震動を起こし、それによって動きを封じる『地竜轟』。

 玉鎮の得意技だが、それさえもイヴァノヴィッチは、ヴォーリャを地面に刺して霊力を放つことで相殺した。


 それなのに、ただのパンチ一発で、

 これまでいかなる攻撃も意に介さなかったヴォーリャに、痛烈なダメージが入ったのだ。


「それならば、最初から──」


「鉄槌など不要ではないか──とでも、仰りたいのですか?」


 イヴァノヴィッチの言葉を引き継いだのは、御華上だった。


「それがそうもいかなくてね。アタシの異能はクセが強くてさ。加減が難しくて難しくて」


 玉鎮が苦笑する。


「うっかり揺らしすぎると、てめえの身体までヤっちまうんだよ。だから、普段はそこのハンマー使ってたんだ。道具を用いるとあんま揺らせないから、かえって丁度よかったんだけどさ……あんたにオシャカにされちまったから、こーして自前の鉄槌を使うしかなくなっちまったんだよ」


 拳と拳を打ちつけ、また笑う。

 今度の笑いは自虐的なものではない。獲物を前にしている獣の笑いだ。


 その獰猛な笑いを前にして。

 絶句しているイヴァノヴィッチの首筋から、一筋の冷や汗が流れた。


「おしゃべり嫌いなんだっけ? なら、話はこのくらいにすっか。勝負再開だ。アタシが制御ミスりまくって自滅するか、それより先にあんたがボコボコになるか……乾坤一擲(けんこんいってき)、いっちょ遊ぼうぜ……!」

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