27・双頭の蛇剣使い、リシェル
さあ今から始まろうとしています、時間無制限・遊歩道バトル一本勝負!
対戦相手は、聖オリヴィエ騎士団に所属する天才少年──リシェルくん!
人呼んで、『双剣のリシェル』!
まだ十四歳でありながら一人前の騎士として認められた逸材であります!
ツインなんちゃらという、刃が伸びる剣の二刀流で、チートモンスターことこの俺天外優人に挑むつもりのようだ!
剣!
やはり騎士だけあって剣がメインウェポンなのか! 冷静に考えると騎士なら槍が第一な気もするがそこはこの際忘れましょう!
腰の右側に下げていた剣も既に左手で抜いています!
左腕を軽く降ると、そちらの剣も刃の部分が長く伸び、怪しくくねりだしました! もはやどちらの蛇も臨戦態勢だ!
少年の面構えには自信と余裕がありありと見て取れます!
『魔女のお遊びに捕まるような奴に負けるはずもない。慌てず急がず、できるだけ楽しみながら仕留めようかな』とでも思っているのでしょうか! 隠しきれない高慢さがありありと顔に出ています! これは生意気だ! これは是非ともわからせたい!
敬愛する先輩騎士を無惨に殺された(誤解)ことへの恨みつらみはいったいどこにいったのか!
どうしたリシェル! 復讐するんじゃなかったのかリシェル!
なんてことだ、これではクラウスさんも浮かばれなーい!
──と、まあ、昔のプロレス実況風の状況確認はこのくらいにして。
俺は少年騎士と戦うことになった。
観客は四名。
ただし場合によってはこの三名は参戦してくることもあり得る。
その四名とは、魔女、泣き女、隠れてる女、そしてナユタだ。
魔女と泣き女が参戦するケースは、俺が圧倒した場合だ。
その場合、二人が「これはヤバい」と判断して、三対一に持ち込んで数の差で押し切ろうとするんじゃないかな。もしくは隠れてる女も加わって四対一か。
ただ、そうなるとナユタも黙っていないかもしれないので、最終的には四対二になりそうである。
それでもいいのだが、問題なのはナユタが洒落にならない異能を持っているという点だ。
死の力。
それをナユタが安易に使って、まわりに被害が出たら一大事である。
遊歩道の木々や草花が全滅するくらいなら大したことないが、親子連れとかジョギング中の人とかペットと飼い主とかをチリも残さず殺し尽くしたらどうなるか。
その場に居合わせたのに止められなかった俺の責任になりかねない。
……いや、きっとなる。
だから、ナユタには極力、動いてもらいたくない。(もう手遅れな気もするが)俺のゴタゴタに巻き込ませたくない気持ちもある。
……なら、どうするかだが。
リシェル少年が思いのほか強く、俺が苦戦するようなら、他三人が焦って参戦したりはしないだろうから気にしない。
俺の楽勝で、他の三人が慌てて加わってくるだけならまとめて倒すだけのこと。
もしナユタも加わろうとしたら、できる限り防御メインのやり方に留めさせる。積極的に力を振るうのは厳禁だ。
「どうしたんだい? せっかく宙ぶらりんの状態から助けてあげたんだ。自由に動けるだろ? 何かしたらどうかな?」
リシェルが退屈そうに伸びた剣を動かす。
俺がじっとして思案にふけってるのがお気に召さないらしい。
かかってこいと言っているのだ。
「と言っても、逃げるのは無しだよ。僕は危険な化け物と死闘を繰り広げるために来たのであって、悪知恵しか取り柄のない臆病な雑魚を狩るためじゃない。みっともない真似をするなら、こちらもそれなりの対応をさせてもらうよ?」
「へぇ、具体的にはどうすんの」
「なぶり殺しかな。手足を一本、また一本と切り落として、最後に首を……ね」
少年が、容姿の美しさもかすむ、残酷な微笑みを見せた。
「その年でサディストとはね。将来が心配だな」
「人より自分のことを心配しなよ」
「自分の心配ね……」
その言葉をそっくりそのまま返してやりたいところだが、やめとくか。
こんな口喧嘩を続けても何の特も意味もない。
もう戦略は決まった。どう攻めたらいいか頭をひねり続けるプロセスはとうに終わりを告げている。
ここから先はそれを実行するだけだ。
が、その前に。
確認しておきたいことがある。
「ところで、ひとつ聞きたいんだけど」
魔女のほうへ視線を向ける。
「なにかしら。手の内を教えてほしいなんて質問ならお断りよ?」
「いや、あの子のこと」
くいっと、親指を立てて、後方にいるナユタを指差す。
「狙いは俺なんだろ? あの子は関係ないんだから、帰らせてもいいんじゃないか?」
「うぅ~ん……本来ならそうしてもいいんだけどねぇ……」
「駄目に決まってるだろ。あんな、見てるだけで鳥肌が立つほど危険な気配の持ち主なんて、邪悪なものだと相場が決まっている。生かしてはおけないね」
余計なことを少年が抜かしてきた。
死にたいのかこいつ。
お前の信仰の相場で勝手に邪悪だの何だの決めつけてんじゃねえよ。わざわざ虎の尾を踏もうとすんな馬鹿が。
「らしいわ。残念だったわねぇ。でも、そう嘆くこともないわ。そこのお嬢ちゃんとは冥府で再会できるでしょうから、あなたは一足先に行ってるといいわ。そう待つこともないと思うわよ?」
「後悔するぞ」
「安い脅しねぇ…………ふぅ」
魔女が、額に手をそえ、わざとらしく溜め息を吐く。
「その手の情けない言葉は聞き飽きてるのよ。ただで済むと思うな、こんな真似をしてどうなるかわかってるのか、誰々が黙っちゃいない……つまるところは『後から酷い目に合いたくないなら俺を殺すのはやめてくれ』っていう、強がった命乞いなのよねぇ」
また身振り手振りを交えながら、面白そうに魔女が語り出した。
「カサブランカ。つまらない、やり取りは……そのくらいにしたらいい。やる気がないなら……私が、やる……」
「あら、どうやら彼女が焦れてきたみたいねぇ。じゃあ、話し合いはもう打ち切るとしましょうか」
「そうだね。僕もしても、あちらの攻めを待つのも飽きたし……始めようか」
と言って、リシェル少年が、何気ない仕草で右腕を振った。
しゅるり……
どういう原理かわからないが、たったそれだけの動作で、長く連なる刃が俺の周りを囲むようにくねり──
──右後方から、首の付け根……いやもっと横、肩甲骨の辺りを狙って突っ込んできた。
死角からの刺突。普通は攻撃がくることなどわからず、当然避けられない。そこに目玉はついてないから。
でも俺は化け物だ。
地面から伝わる動きと揺れ。
剣から腕、腕から胴体、胴体から足、足から地面──その振動と脈動が、どこをどう狙ってきているのか、見えなくてもわかる。
「ふん」
当たっても少し刺さるかどうかだろうが、くるのがわかってて食らうのも馬鹿げてる。
ちょっと身体を右まわりに動かし、右腕を振って、手の甲でタイミング良く刃の先端を弾いた。
キィンという固い音。
さして重さのない一撃は、あっさりと別方向に飛ばされた。
「へ……?」
本気で仕留めるつもりではなかったにしろ、ノールックで自分の剣をいとも簡単に防がれたのがショックだったのか、
リシェル少年が、目をぱちぱちと、何度もまばたかせる。
「いや、まぐれでしょ」
その言葉は誰に向けたものでもなく、自分自身に向けたものか。
「まぐれかどうか、試してみたらどうだ?」
「言われなくとも……!」
今度は、右だけでなく、左の剣も振るってきた。
これで凌げるならもう偶然ではないと、そう判断するための同時攻撃か。
「ふんふんっ」
まあ、ね。
あっちが二本の剣を使うなら俺も左右の腕を使えばいいだけなんでね。
右手の甲でカキン。
左手の甲でカキン。
またしてもあっさり弾いた。
「え、えぇ……?」
まぐれではないとわかってきたのか、少年の表情が引き気味になってきた。
危機感をさすがに覚えてきたかな。
リシェル少年はまだ俺が地面を通じて動きを読んでることをわかってない。わかったところで飛ぶか浮くかしない限り対処できないのだが、それでも、行動がバレてることを知ってるか知ってないかだけでも違いはある。
無駄に動かず、瞬時に、研ぎ澄ました一撃を繰り出すとかやられたら、俺の読みも間に合わないはずだ。
「どうした、もう試すのはやめたのか?」
煽ってみる。
これでプライドを刺激されて雑な戦い方になれば、楽に倒せるのだが。
「…………あ、あれぇえ? へ、へへっ……?」
予想に反して、変な反応が返ってきた。
「ん?」
なんだその顔。
びっくりしつつも嬉しそうな顔なのは、どういう感情の現れなんだ。
そうやすやすとは倒せない怪物に出会えて喜んでる……ってことか?
だとしても、こんなニヤケ顔するか? 美人が台無しとまではいかないが、けっこう気持ち悪いぞ?
「もしかしたら、そうなのかな……? 本当に手強いのかな? 偶然ではなく、まぎれもなく、そうだとしたら……フ、フフ、フフフフフッ……!」
うーむ……。
この反応、やっぱり強い奴と戦えて嬉しいのか?
魔女や泣き女もなんか困惑してるようだが……もういいや。
おそらく戦闘狂なんだろ。そういうことにしておこう。深く関わる気もないし関わったところで勝ち負けに関係ないだろうしな。
リシェル少年の雰囲気が変わっていく。
おふざけ気分が抜け、やる気になってきているのが、俺の喉元へと行列をなしている戦意の矢印からよくわかる。
つまり、ここからが本番だ。




