22・極光の聖女と汚れた剣
「また対照的そうな二人だな」
かたや極光の聖女。
かたや汚れた剣。
うまく仲違いさせて分散させれば、一人一人、楽に料理できそうではある。
でも、まだ戦闘になるかどうかも、なんなら本当に来日するのかさえわかってないんだから、そこまで考えるのは気が早いか。
「極光とか聖女とかってのは、なんとなくわかるよ。能力とか特性とかに由来してるんだろうなって。でも、汚れた剣ってのはちょっとあやふやすぎるな」
毒とか塗ってんのかな刃に。
もしくはうんことか。
騎士ともあろうものがそんなことしたら確かに汚いよな。卑怯だし刃も汚れるしで、二重の意味で汚い。
「単純に素行が悪いのですよ」
武器がどうとかではなく性格面だったか。
「しかし才能には人一倍恵まれていました。人によっては彼女のことを『汚れた天才』とも言います。だからこそ、高慢になって……性格も次第にねじ曲がっていったのかもしれません」
「天才と呼ばれるだけあッテ、剣の腕はかなりノものデスよ」
「我々でも一対一では勝てないでしょうね」
「デスね。私とアリサの二人三脚デモ、難しイのではないかト」
「だろうね」
一対一では勝てないってのに、わざわざハンデありにしたらそりゃね。
「そうですね」
あらま、とうとうツッコミや訂正すんのやめちゃったよ相方さん。
てっきり「それを言うなら二人がかりでしょう?」とか言うのかと思ってたのにな。めんどくさくなったか?
「それだけではありません。類は友を呼ぶ……ということわざはあなたも知ってると思いますが、騎士アンジェリカも、その例に漏れなかったようです」
「…………ああそういうことか。ろくでもない異能者やエクソシストとつるみだしたワケだ」
シスター二人は、無言で頷いた。
「残忍なサディスト、一匹狼、行き過ぎた信仰心から暴走する者、組織の手に余る問題児……騎士団の内外にいる厄介な人物と交流を深めてたようで」
「よく騎士団クビにならんね」
「ひとえに本人の実力によるものです。言動に難があれど、あの才能を手放すのは惜しい……という感じで、お偉方も困っているのだとか。今は若気の至りに過ぎず、いつか更生して敬虔な信徒と化してくれるだろうと、そんな楽観的な方もおりますが」
「時がくればやがて悔い改めるんじゃないかってことか。はかない願いに思えるけどな」
「私もです」
「デスね」
シスターたちも同意見らしい。
「で、ピカピカ光りそうな聖女さまや、物騒な連中と天才が仲良くいっしょに俺退治に来るのは……確定なのか? 俺的にはそこんとこ一番大事よ?」
あの療養所での宝探しから、もう十日ほど経過している。
十日もあれば準備を整えてからこちらに向かうこともできるだろう。
来るのか来ないのか。
来るとして、何人来るのか。そこを知りたい。
「それがですね……その……」
シスターアリサは、一呼吸置いてから、こう言った。
「……二人とも行方をくらましたと、バチカンから連絡があったのです。二人の取り巻きや仲間も、同様に消えたと……」
──場面は変わる。
とある廃村にポツンと残された、コンクリート多めの建物。
第二特別救病療養所。
モラルの欠如した研究者たちの巣のひとつであったが、何らかの抜き差しならない理由によって廃棄された実験施設である。
一階は象でも暴れたかのように何もかも蹴散らされ、二階は、一階ほどではないにしても、窓側の壁が爆破されたように無くなって吹き抜けになってる部屋すらある。
原因が何かは読者諸君は既にご存知だろう。今さら説明などはいるまい。
その建物に、何人もの男女が集っている。
時刻は深夜十二時。
車やバイクで肝試しにきた学生……ではない。雰囲気も服装も、甘っちょろい者達のそれとは雲泥だ。
これは──天外優人が、加狩霧香と風船屋にトレジャーハンティングに誘われてから、一週間後の出来事。
二人のシスターが天外優人と公園で待ち合わせた日の、三日前である。
全員が、療養所の屋上にいる。
屋上のほぼ中心に立つ人物に、他の者たちの視線が集中していた。
「…………穿て七天の槍、いと力強き万軍の王の光よ……」
聖なる言葉を唱え、祈りを捧げる女性。
流暢な日本語である。
女性は祈りを終え、組んでいた両手をほどいた。
不意に。
屋上が明るくなった。
真夜中でありながら、太陽が現れたのではないかと錯覚するほどのまばゆい光が、
彼女を、
周りの者たちを、
屋上を、
そして建物自体を包み込み──浄化した。
「終わりました」
女性が淡々と言った。
年齢は、二十五。
顔の上半分は、兜のような仮面で隠されているが、見えている下半分だけでも、掛け値無しの美人だとわかる。
柔和な感じと凛々しさの混じった美貌だ。
ウェーブのかかった、金糸のような、腰まで達している髪。シミひとつない白い肌。細くなめらかな指。
服装はというと、質素な白のローブの上から、細やかな刺繍の入った、こちらも白のケープを羽織っている。
この女性こそ、バチカンの有する最大戦力の一角。
聖女──極光のコルテリアであった。
「いや、凄いね。凄い凄い。さすがは聖女さま。この不快な気で溢れる建物を、いともたやすく清めるなんてさ」
と言って、別の女性が、パチパチと拍手した。こちらも日本語を使っていた。
「…………」
その褒め言葉に、特に応えることなく、コルテリアは静かにたたずんでいる。
この療養所に満ちていた、悪しき力。
腐敗をもたらす力。
それよりも濃い魔力を宿している一振りの剣を、拍手した女性は背負っていた。
歳は、聖女よりもふたつ下。
二十三歳。
灰色混じりのくすんだ黒髪のショートヘアが、鋭い赤の目付きと相まって、狼めいた印象がある。
こちらは、青のスーツに、ファーのついた黒のコートという装いだ。そして背中の剣。
『汚れた剣』『汚れた天才』などと呼ばれし、騎士アンジェリカである。
「あんたがこんな丸ごとやれるなら、地下行ってクソデカいハエなんぞ倒さなきゃよかったわ。やって損した」
「いいえ、そうでもないです」
「そうなん?」
「大物がいたままだと、浄化したところですぐ元通りになりますから。必要な行為でしたよ」
どうやら、騎士アンジェリカはこの建物を蝕む呪いの元を断ってきたらしい。
騎士クラウスが成し得なかった最期の任務。
それを代わりに行った聖女と騎士。
無論、この二人が、それだけでさっさと帰国するはずはない。
まだ大きなしこりが残っている。
「んじゃ、肩慣らしも済んだし……お次はいよいよ──元人間の化け物退治にいくか」
不敵に笑う騎士アンジェリカ。
負けず劣らずの笑みを、聖女以外のこの場にいる誰もが見せたのだった。




