21・リリアとアリサ再び
先日いろいろありました。
去る者いれば来る者あり。
激闘制して勝ち残り。
手元にお宝舞い込みました。
使いきれない額の金。
まだ学生のこの俺が。
三億抱えてほくそ笑む。
だいぶ説明をはしょったが、まあだいたいこんな感じ。
見ての通り浮かれてる。
しかし考えてもみてほしい。
定職どころかバイトすら未経験の高校一年生が、毎月のお小遣いと年始のお年玉しか収入のなかった未成年が、降ってわいたような大金を得たのだ。
三億だよ三億。三万とかじゃないんだぞ。
生き腐れの呪いをかけられたり、
助っ人が死んだせいで海の向こうの騎士団の恨みを買ったかもしれなかったり、
ブルドーザーに潰されかけたり、
相応に酷い目には合った。
合ったが、終わり良ければ全て良しだ。
ひとつ、厄介というか困ったことがあるとするなら……苦労して手に入れた大金を、銀行とかに預けることが難しいという点かな。
十六歳の高校生が口座作って三億預金とか、ただ事ではない。そもそも高校生が口座作れるのかという疑問もある。
家に置いとくにしても場所がない。
自分の部屋の押し入れやベッドの下しかないんだけど、もし母さんに見つかったら大変だ。
息子の部屋から何億もの大金が出てきたらたまげるよな。
言い訳一切しないでどんな犯罪を犯したのか洗いざらい白状しなさいと、家族会議で吊し上げられること間違いなし。
だから(一億を機関に納めたついでに)根ノ宮さんに頼んで、俺が成人するときまで機関で預かってもらうことにしたのだ。未来への遺産というべきか。
大人になるのがスゲー楽しみ。
そして、また退屈な日常に戻る。
次は、どんな奇怪な現象や奇特な人物や、面倒で刺激的な出来事に出会えることやら。
「こんにちは」
「お久し振りデスね」
「……どーも」
──いつもの公園。
シスターコンビと俺は、向かい合って挨拶していた。再登場だな。
少し時間をさかのぼろう。
俺が、いつものように、あまりやる気なく授業を全て終え、帰り支度をしている最中。
スマホに一通のメッセージがきた。
『あのクジラみたいな遊具のある公園で待っています』
メッセージの送り主は誰かと思ったら、それがシスターコンビの片割れ、アリサだったのである。
黒髪ポニテの日本人女性のほうだ。
もう一方、リリアのほうは薄めの金髪に碧の瞳の白人女性である。東欧系? そういうのよくわからんな。
別段急いでるような感じのするメッセージでもないので、特に慌てずスマホをしまい、いつものペースで下校して、その途中で公園へと向かうと──既にもう来ていた。
二人でベンチに座っている。
武器は……持ってきていない。大剣も槍もない。
(手ぶらかよ)
驚きだ。
友好的とはいえ異国の化け物と会うのに武器なしとかマジかい。
最初の頃と比べ、警戒心が薄れたとでもいうのか……態度が軟化してる。初めて遭遇したときなんて問答無用で殺しにきたのに。
あと、誰が俺のスマホの番号教えたのかだが……どうせ、グロリア先輩か根ノ宮さんだろう。
それについてはまあいい。
二人は俺の姿を見るとベンチから立ち上がり、数歩近づいてきた。
そして話は今に戻る。
「で、どんな用件なんだい?」
あちらのほうが何歳か年上っぽいし、関係も穏やかになってきてるから敬語にしようかとも思ったが……まあ、タメ口でいいだろ。
「そうデスね……長く話をすることもありませんのデス。単純直接に言いマスね」
「単刀直入でしょ」
「いいんデスよそんなこと。意味が通じれば大丈夫なのデスから」
「漫才はそのくらいにして、どうして俺を呼び出したのか聞かせてもらえませんかね。ひょっとして何かお困りとか?」
「困るのはあなたデスねェ」
「そうなりますね。恐らく……いや、確実に」
「えぇ……」
いっぱいお金入って幸せな気分を満喫してたらすぐこれだ。
いいことと悪いことって交互に来るのかな?
「……聖オリヴィエ騎士団の逸材、騎士クラウス。彼ほどのものが、遠く離れた、東の果ての国に流れ着いた悪霊を打ち倒すことができず、しかも命まで落とした……」
「それを知って、私タチも耳を疑いましタ。彼の評判についてハ、他の騎士団でも話題になるほどデシたから」
「そんなに」
あの苦労人みたいな兄さん、有望株だったんだなー。
「それだけなら、力及ばずとも騎士団の一員として誇りある殉教をした──そう決着もできたのですが……ある疑惑がわき起こりました」
「疑惑ね」
「はい。その疑惑とは──任務に協力していた異教の術者の中に混じっていた、ある土着の怪物。それが、かの悪霊と共謀して騎士クラウスを陥れたのではないか──というものです」
「えっ…………えっ?」
「つまり、あなたと悪霊が手を組んで騎士クラウスを殺したと、ソウ考えてる者たちがいるのデス」
「才能や実力もあり、聖剣をたまわることまで許された彼が、呆気なく異国の地で果てるなどあり得るはずがない。きっと卑劣な罠にかけられたに違いない……と、そんな感じらしいです。誰が言い出したのかはわかりませんがね」
「でも本当に呆気なかったぞ。目を離したら死んでたし」
振り返ったらもう腐ってたからな。
「そう言われても、正直、私たちもいまだに信じきれませんよ」
「あなたが邪悪な存在ではないのハ、そこについては……信じていいノかもしれませンが……」
「……妙に俺の肩をもつね。好かれるような事した覚えないけどな」
「グロリア嬢から話は聞いていますから。あなたが退魔師としてまともに仕事をこなしていると。ついこないだも、悪しき力を持つ人形を滅ぼしたそうですね。グロリア嬢は、彼は善良とはいえないが邪悪ではないと、そうおっしゃっていましたよ」
「ンなこと言ってるんだ」
そういや、こいつらって隣町に住んでるんだったな。
隣町といえばグロリア先輩の実家があるところだ。今シスターアリサが言った人形騒ぎのときに寄らせてもらったことがある。
これは想像だが、きっとこの二人は七星機関だけでなく先輩の実家からも何かしらの援助でもしてもらってるのではないだろうか。だからグロリア先輩の意見を尊重──
「イージスの名を持つ方ガそう言うのナラ、信用しても良いのかなトハ思いますがネ」
あ、そっちの家も有名なんだね。
今度間狩にでも聞いてみるか。
「話を戻しましょう。なぜあなたが窮地に陥るのかもしれないかと言うと、かなりの大物が動いたからです」
「ほう。どんな?」
俺がそう訊くと、シスターアリサは、一度深く息をついてから、こう言った。
「一人は、聖女コルテリア。バチカンが有するエクソシストの最大戦力──通称、極光のコルテリア」
そして、シスターアリサの言葉を、シスターリリアが引き継ぐ。
「そしテ、もう一人の大物は──聖アストルフォ騎士団に属すル、騎士アンジェリカ。『汚れた剣』の異名を持ツ、天才騎士デス」




