19・激闘!不死身のチートモンスターVS頑強無類のブルドーザー
「無茶やりやがるぜ……!」
そんな言葉が思わず口をついて出てきた。
率直な感想だった。
皮肉など込める余裕はない。落下中だもの。
このまま何もせず、まともに大地と式神の挟み撃ちを食らったらどうなるのか。
潰れたトマトみたいにはならないだろうが、いくら丈夫な俺でも無傷で済んだりはしないと思う。骨とか折れたりするんじゃね。
手足が折れたらまずいな。
身動きとれなくなったら──あ、もう地面が来る。
逃げようにも手が捕まっていて離れられない。状況に流されながらあれこれ考えてて腕の手錠を外すの忘れてた。
鍵などないから力ずくでちぎろう。
ちぎった。
しかし逃げるのはもう無理。手遅れ。地面がそこまで──
ドォンッッッ!!!
「────────ふんぬぅううう!!」
やり投げのごとく斜めに地面へと突き刺さるような落下。
俺は潰されまいと、両足だけでなく触手も全て地面に向け、着地しようとした。
要は自分に突っ込んできた地球を足で受け止めるようなものだ。
「ぐぐっ……」
流石にこれは俺の化け物パワーでもしんどかった。
触手が数本、衝撃と重量に耐えきれず……みち、びち、と音を立て、内側から弾けるように裂ける。まばらに雑草の生えている地面が、降り立った俺を中心にぼこりと円形にへこみ、クレーターができた。
そこまでの威力だったのだ。
それでも、足はなんとか無事だった。
しかし、もし触手を使ってなかったら両足もやられていたかもしれない。クッションの役割を触手が果たしてくれたみたいだ。
が。
「くそっ……こちらはアウトかよ」
両腕は駄目だった。
二本ほどこっちにも触手を回せばよかったかもしれないが後の祭り。
どちらの腕も、手首と肘の間の骨が折れ……皮膚を突き破って白い尖ったのが飛び出ている。
まぎれもなく重傷だ。
(でも痛くないんだよな……)
くすぐったいというか、ぞわぞわした感覚がある。
化け物になったからそんな感じだが、もし人間のままだったら絶叫してのたうち回っていただろう。
いや、その前に着地できず、ペチャンコになってるか。
いずれにしても無駄な仮定だな。
俺は化け物であり、今の攻撃を凌ぎ、両腕を折られた。その事こそが重要であり、その事だけが真実だ。
『……これで、死なないんですか?』
唖然としているのか、ドン引きしているのか。
更地崎の、やっと喉から出せたような声が──スピーカーを通して聞こえてきた。
「ピンピンしてるよ。多少は傷ついたが……命に別状はないってやつだ」
『化け物ですね、本当に』
「そんなこと承知してたろ? 何を今更。ずいぶんテンション下がっちゃったみたいだが……おっと」
重い音を立てて、装甲大増量ブルが地面に降りた。
いくらなんでも折れた両腕で、しかも斜めにこのデカブツを持ち上げ続けるなんてできるはずもない。
それにしても、よく中にいる更地崎は平然としていられるもんだ。これだけ派手に動いたらGとか衝撃が中にも伝わるだろうに。
普通の乗り物ではなくあくまで式神だからそれらの影響も受けないとか、そんな特性でもあるのかな。
ま、それはいいや。わかったって戦況にプラスになることでもない。
『……それでも、ダメージは受けてるのは確か。その折れた両腕で、どうやって僕のノンストップの突撃を凌ぐと?』
またブルドーザーが排気管から黒い煙を吐き出した。今度こそひき殺す気か。
そうはいくか。
「こうやるんだよ」
と言って、両腕を突き出し──たかったんだけど、折れてるんでうまくやれない。おかしな方向に手の平が向いてしまう。
触手を巻きつかせて無理やり突き出した。
『はぁ? 何の真似ですかぁ?』
余裕が戻ってきたらしい。
式神ブルドーザーの使い手が、また、あの軽くイラッとさせられる喋り方になった。
「その反応だと、風船屋から俺のことをあまり詳しく聞いてないみたいだな」
『だから、何の真似かと聞いて──』
その言葉を最後まで待たず、
俺は、いつものやつを両手撃ちした。
光と衝撃が、ブルドーザーの前面にある平たいブレードにぶつかり、弾け、爆発する。
「近すぎたー!」
爆発の勢いで吹っ飛ばされた。
てことは、突き抜けなかったわけで、つまりこのブルドーザーは、俺の詳細不明砲両手撃ちを耐え切ったことになる。
両腕が折れていたせいで威力は多少落ちてたが、だとしても、よく耐えたもんだ。
耐えたといえば俺の腕もだ。
この距離で撃ったのだ。真っ先に爆発の威力を食らうのは突き出した両腕だ。
しかも折れている。
衝撃で両方ともちぎれて宙を舞ってもおかしくなかった。そうならなかったのは両腕が折れていたからだ。怪我の功名ってやつか。
かくして式神ブルドーザーは俺の一撃を凌ぐことができた。
それでも──代償は大きかったようだが。
ブレードはこっぱみじんに砕け散り、前方部分は半壊に近い。
だがキャタピラは無事だし、エンジンもまだ生きているようだ。黒煙吹いてるし。
普通のブルドーザーならここで戦意喪失だろうがこれは普通のブルドーザーではない。式神だ。
霊的な力で破損箇所の修復くらいはやりかねない。
なのでその前に終わらせる。
ブルドーザーが再び動く前に駆け寄り、飛びかかってしがみつく。
裂けた触手や折れた両腕も総動員だ。
ケガしてるからって休む理由にはなりませんよ忠実なる我が手足たち!
『は、離れなさい!』
「誰が離すか!」
ばきり!
ドガッ!
べき!
乱暴な音をたててガタのきた装甲を、割り、壊し、剥がしていく。
目指すは運転席だ。
おそらくそこには防衛手段はないだろう。こんな鉄塊に乗ってれば、そんなものは不要に決まってる。
そんなことにリソースつぎ込むくらいなら性能向上させるはずだ。
『や、やめ──』
やめません。
……さらに破壊と進撃を進め、
そして、とうとう、
「…………ご対面」
最後の装甲を引き剥がし、このイカれた重機の運転手にして式神使い──更地崎の姿を目の当たりにすることができた。
「やっとお互い、遮るものなくオフで会えたわけだが……これは、また……」
運転席に座り、こちらを睨み付けている女性。
それは。
左腕が肩と肘の中間から、両足が膝の真下くらいから無く。
右目を、眼帯で隠した。
俺より三~四歳くらい年上に見える──長いストレートヘアーを乱雑に伸ばした美女だった。




