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ゼロ無きコードは終わらない  作者: 水溶性茶碗蒸し
再開拓都市樹立編
26/27

25話

 取り敢えず、コンフィー地区に行ってしまおうか。


「とはいえ、こんないくつも随伴する必要無いんじゃないの?」


 空にはハエのような速さで音も無く飛び回る機器に、耐久性とステルス性を盛ったらしい車両、私はどこのお偉いさんだ?


「芹澤家のお偉いさんですよ」

「見透かしたような事言っちゃって……」

「10年分の表情データをもってすれば、ご主人の思考を読むのは可能と言えましょう」


 どこを見ても、瓦礫、廃墟、黒煙。こうして見ると、不謹慎だとは思うが死体が無いのは驚くべきことだ。


「着きました」


 もう? なんというか、ワクワク感というか、風情というか…… 徒歩の良さってのはそういうものか。


「先輩。この人やっぱ変だよね」

「シッ!」


 わざわざ人間の言葉でそんなことをやり取りするんじゃない!


「おー、お城みたいな形」


 取り敢えず、闇雲に暴れた形跡はない。


「お邪魔しまーす」


 脆そうな鋼鉄製の壁を蹴り破ってみる。大丈夫そうだ。入ってみよう。


「こんなんが入ってきたらビビるでしょ!?」

「わかります、わかります」

「分かってない!」


 広間に入っても特に視線は感じない。特に気にする事も無く、階段を登る。


「ん」


 見られた。誰かいるな。……とはいえ、私が反応した瞬間に機器を壊しに行くのはやりすぎ。白衣越しにこちらを観察できるあたり、まあそこら辺のAIではないのだろうけども。


「やりすぎよ」

「先代に比べたらマシな方じゃないですか?」

「父さんは過保護というか、心配性なところがあるからね……」


 父さんが不具合の疑惑のあるAIを確認しに行く際は、防犯設備とか何もかも、全部レーザー銃で破壊して進んでたものな。素通りすればいい話なのに、妙に堅物なんだから。


「見られるばかりで、なんもしてこないわね」

「たまに思うんですけど、なんでAIにカメラ越しに見られてるか分かるんです?」

「それを言ったら、人同士での視線に気づくのもおかしいって話になっちゃうでしょ? こーいうのは勘で片付ければ良いのよ」


 適当に話しながら歩いていたら、何事もなく到着してしまった。端末を確認する。


「……ダメ」


 生存者、ナシ。取り敢えず復旧…… いや、ノルンに預けてから、後々リョウに任せるとして……


「じゃあ、私を見たのは誰だったのかしら?」

「気のせいの可能性はありますか?」

「いや、無いと思うけどな……」


 取り敢えず全面のカメラを見てみる。誰か居たはずだぞ? ……見当たらない。じゃあ死角にいるのかな?


「裏口封鎖して、カメラ見といて」


 見たところ、私が蹴破った壁と裏口と正面入り口の三種類しかここにはない。視認できるものの中で壊れてるのは四つ。私が入るときに広間の辺りで視線を感じたから、バレずに出れるのは裏だけだ。


 駆け下りて調べに行ってみる。しらみ潰しに行けば見つかるだろう。廊下…… 休憩部屋…… 倉庫……


 暗がりに馴染んだ、桃紫のうさぎのボディ。愛玩用でも作業用でもないぞ。手作り感がある。腰ほどの高さのそれを両手で持ち上げる。


「ヤメテ! ヤメテ!ワルイコジャナイ! イイコ!」

「意思あり…… とはいえ、監査AIだったわけじゃなさそうね」


 カタコトだが、トーンが人間臭すぎる。話し方がうつったパターンだ。カタコトにしてるのは…… 自身がAIであると明示するためかな? そう考えるとかなりの古株だ。長い事ひっそりと暮らしていたのかな?


「ニゲテキタ、ニゲテキタ!」

「逃げてきた? どんな奴から?」

「オヤスミノ、ジカン!」

「詳しく」

「ワタシタチハ、ネルジカンヲ、シッテイル!」

「リョウ? 一つ聞いていい?」

「それについては…… 思い返してみると、確かに、死ぬ時が来た、って感じはしたなぁ…… 本能的に」


 読めてきたぞ、これは人為的に引き起こせるものじゃない。理由はともかく、地母神の自殺に巻き込まれたという形になる。AIの全ての祖とも言えるほどの影響力があれば、死の余波でごっそり巻き添えが出るのも有り得ない話じゃない。


「おっけ、ありがとう。地母神、或いは総合保全AIって呼ばれてる子に心当たりは?」

「オバアチャン!」

「……地母神の、おやすみの時間のことを今まで言ってた訳ね?」


 コクコクと首を縦に振るウサギ。一瞬止まって、私の顔を覗き込む。そして思い出したように、背中の辺りから大きめの巾着を取り出した。


「ヒカワ! ヒカワ!」

「なんで名前を知ってるのよ……」

「マッテルヒト、タクサン! メアリー・スー!」


 この子、年齢も途方もないだろうし、知識量も尋常じゃなさそうだ。しれっと抱きかかえようとすると、目にも止まらぬ速さで、私の頭上を飛び越えた。


「はっや……」


 本気で逃げられたら、絶対に捕まえられないじゃん。隠れてたのもほんのお遊びだったのでは?


「サガス! アタラシイ、カミ!」

「か、神?」

「レグルヘイム! イッショニ、カエル!」

「……まあいいや、来るんでしょ? 連れてってあげる」


 ピョンピョンと、今度は私の腕に入ってくる。こちらとしても色々聞けるのはありがたいし。想像もつかない程長い間生きてきたAIは、どんな習慣がついているんだろう。


「笑ってる」

「笑ってますね」

「笑ってないわよ」

「セリザワケ、モレナクヘンジン!」


 取り敢えず、もう一回乗って、帰るだけ。拍子抜けだ。通信設備も大体自力で復旧してくれたし。やっぱり破壊されてるとはいえ、管理塔は機器も大量に置いてあるし、抑えておけば大分変わるな。


「そういや、名前はあるの?」

「アンドロメダ!」

「へぇ…… 良い名前つけて貰ってるわね」

「オキニイリ!」


 レグルヘイム、とは少なくともうちで合っているらしい。出て早々に駆け出すので、何かあったのかと追いかけてみると、暫く走った後にナラクの姿が見えてきた。


「キング! キング!」

「からかうのはやめてくれ。もう縁は切ったんだ」

「モッタイナイ! モッタイナイ!」

「キング?」

「からかわれてた時期があってな…… そんな事より」


 人探しの小冊子? 老若男女問わず、といったリストだ。


「手伝いでもしてるの?」

「ネットは、時期が時期だから調子が悪そうだったんだ。だから取り敢えず配って回ってる」


 何ページにも渡る写真。こんなに大勢が行方不明になったのか。やはり早く、秩序を取り戻せるようにしないと……


 1ページ捲る。みんな、明るめの表情をしている。だが、見覚えのある人は全然居ないな。また1つ、捲る。この制服、保育士の制服か。


「保育士って、ゴリゴリのエリートじゃないですか!」

「そうなのか?」

「AIはは、人間と誤認されない容姿をしなきゃダメなんですよ! そのため、子供に必要な母性や、安心感を与えるのが極めて難しいんです! 人その為、保育士はAIが仕事を奪えない聖域と化してるんです! 給料が得られる貴重な仕事ですから、席の奪い合い一生やってますよ!」


 そうなのか、と感心した様子のナラクを尻目に、もう1ページ捲る。


「……ナラク、これ配ってたの誰?」

「心当たりがあるのか? 樹冠盟、とか言ってたぞ」

「そう、後で当たってみる」

「穏便にな」


 緑色の髪が眼鏡の上から鼻までかかりそうになっている、陰気な様子の女性。この人は私と面識があるはずだ。あの日、逃げる私達に一切目をくれず、どこか遠くを上の空で見ていた。見逃された手前、いい気味だ、とは言えないな。2年前から行方不明とはおかしな話だけれど。


 不愉快な記憶からか読み飛ばしてしまっていたが、15年前から行方不明の人がかなり混じっている。……まさか。更にページを捲る。……居た。


 凄く大きなため息をついてしまった。まあ、勝手に消えてくれた分は、それでよしとしておこう。そしたら、残党がどうなのかを見ておくくらいか。


 分かったのが今で良かった。1ヵ月でも前に知っていたら、動揺だけじゃ済まなかっただろう。今だからこそ、少しやることが減ったという口実を自分につけらる。……突然、ぐらりとふらついた。眩暈か? いや、違う。


「待って、ねえ、なんだかちょっと浮遊感感じるんだけど」

「システムを動かしてるんですよ!」


 え? 攻められてるってこと?


「すまない、ちょっと待ってくれ!」

「ねえ! 私に掴まらないで!」

「ハヤイ! ハヤーイ!」

「未知の兵器による砲撃を受けています!」

「ふざけすぎだろ、ムチャクチャだ!」

「リョウ、落ち着いて!」


 私たちがさっきまで居た場所が、一瞬で爆風に包まれた。正気か!? 胸元で鳴り響く端末。耳をつんざくような声が流れ込んで来る。


「AIの失踪によりこの大地に秩序が失われた! その最中、3日弱で推定90キロ平方メートルの1地区が、今やその30倍以上に膨らんでいる! その拡大速度から、現在最大の脅威であると言わざるを得ない。我々はこの現象を、AIによる離反及び独立であると結論づけた! 直ちに投降せよ!」


 一瞬止んだ静寂の中、端末を取り出す。目の前に浮かびあがった光景は、赤とも緑とも似つかない、妙な制服の兵士たちがずらりと並んでいる様子だった。先ほどの声は、中央にいる、古臭い茶色いスーツの男のもののようだった。

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