24話
取り敢えず、バジルに接触して…… ナラクに返すものを返して…… あとはその場その場で考えよう。
「私、何でこんなことやってるのかしら?」
「まあ、なんとなく雰囲気で偉い立場の人間がリーダーになる事くらいあるでしょう」
そんなものなのかな……
「変な思想を持ってる人が権限持つより…… いや、知識のある人が上にいた方が便利だからね」
「そこを言い直す必要ないでしょ!」
「大丈夫? 法律変えてAIと人間の共存都市作ろうとか言い出さない?」
「無いって!」
……やばい、一瞬良さそうだと思ってしまった。気を紛らわすように支度をしてドアを開け放つ。
「ちなみにご主人、他の地区の調査はやめました」
「やめたの? なんで?」
「他にも大規模な集まりが複数観測できたからです」
「? なら、接触しても…… あぁ、敵になるかもしれないのか……」
「そうですね。敵とみなされた場合、ほっとくだけで勢力を伸ばし放題な我々は、いきなり攻め込まれたりしてめんどくさいことになります」
どこが一番強いのか分からない以上コソコソしてなくちゃいけないのか。なんだか肩身が狭いな。
「まあ、ぶっちゃけ仮に殴りかかって来ても勝てそうだけどね」
「戦争とは生産力を測るだけの儀式である…… って言葉があります」
まあ、どんな物でもあっという間に自動化できるこちらと、AIが止まったまま頑張ろうとする連中なら、流石にこちらが有利ではあるか。
「とはいえ、集まりができてそこに留まっているのなら、なんだかんだちゃんと暮らしていけてるってことだろうし、接触は無しにして、在野の人達を取り込む事を優先したほうがいいかしら……」
「同意します」
我ながら、よくもまあこんな規模の飛躍についていけるものだ。自分の住んでた場所を安全にしようとしただけなのに、いつの間にか対外の方針まで考えないといけなくなるとは。本音としては、どこかの管理塔にまた行ってみたいのだが。
「……丸一日経ってないのに、なんかすごい事になってない?」
防衛システム、なのかこれは? 見えてきた風景は、昨日と全く異なっていた。なんか浮いてるんだけど。空の色と同化するような水色の膜ができている。これは防御壁みたいなやつかな?
「いやあ、爺さん達がはしゃいで速度上限を外しちゃって。このまま使うと人の身体が持たなくなるから、色々やることが増えちゃって…… それでこれをつけて対策を、と」
頭が痛い話だった。というか、随分元気だな。遠目で見てるだけなのに声がこっちにも聞こえてくる。性能まで盛っちゃって。
「やることができた途端にこんなにはしゃいじゃって……」
「ご主人、人の事言えませんよ」
……人って案外単純なのかも。
「バジルは昨日は向こうにいたのに、なんで今日はこっちにいるのかしら」
「あの人、機械そのものをいじるのも結構行けるみたいだよ」
「秀才タイプというやつですね」
色々出来る…… となってしまうと、能力から身の上を推測するのは無理かな。そのまま近づいて行くと、地面の感覚が変になってきた。妙に柔らかかったり、動いていたり。ちょっとくらくらするな。動いていく地面の裏側に手のひらにギリギリ収まらない程度の機会が隙間なく敷き詰められていくのが見えた。
「おい、転びたいのか?」
ん、この声は。振り返って視線を少し下に向けると、昨日見た女性と目が合った。茶髪から少しツンとくる匂いがする。高い機器からしがち匂いだ。これは少し好きなんだよな。
「おいじゃないわ。私は氷川よ」
「バジルだ」
昨日から薄々感じていたが、虚勢を張っているような印象を受けるな。女性がこんな話し方しないだろう…… いや、寧ろ他人を真似てるのか?
「昨日、改めて調べてみたのよ」
「それで?」
「ログを漁ってみたら、コンフィー地区の施設に、似たログがあったというものだけは把握したわ。そこで使われてる可能性が高い、とだけ」
「AIに調べさせれば良かったんじゃないのか?」
「無茶言わないで、動かなくなったから今の有様なのよ。急造したものでそんなうまく調べられないわ」
「その割には、他の作業は順調だな?」
「当たり前でしょ。優先順位ってものがあるのよ」
うちのとこで見つかった、なんていって、無駄に調べられて私に飛び火してほしくはない。疑り深い相手だな。敵意が剥き出しだ。……でれば、私も体面を気にせず聞きたいことを聞いてしまうか。
「……ところで、樹冠盟って知ってる? 今回の騒ぎ、あそこが怪しいと踏んでるのよね」
言い終わるや否や胸倉を掴まれた。小型のドローンが、彼女の肩をポンポンと叩く。
「何も知らねえくせにクソを散々垂れ流しやがって! 道理で臭いわけだ! 便器に顔を突っ込むのも程々にするんだな!」
「ふふっ……」
しょうもない事を言うものだ。つい、私の穴から余計な音が漏れてしまった。仕方ないだろう、これが笑わずにいられようか。殺した側がこんな事言ってるんだから。
「ははは、笑えるわねぇ」
溜飲はちょっと下がったし、反応からして樹冠盟が繋がってることもほぼ間違いなさそうだし。これらは同一と見てもよさげだな。ヤクミも嘘をついていたわけでは無かったか。
罵詈雑言を後ろから浴びつつ退散する。ナラクは何処だ、と考えつつ歩こうとしたが、少ししたらすぐに、道の向こうにまばらに並んだ人の影に、彼の姿が混じっていた。
「あぁ、ご主人が昨日公開してた連絡先に話が来てたので、こっちに来るよう言っときましたよ」
「向こうからも話があったの?」
「はい」
何か耳寄りな話でも持ってきたのだろうか。
「これ、返しといてだって」
「あれっ……」
「大事なものっぽそうだけど」
「気を使って貰わなくても良かったんだがなぁ……」
残念そうに振舞うナラクは、そんな事より、とでも言いたげにメモ帳を渡してきた。開いてみると、人名と識別番号らしきものがずらりと並んでいた。
「これは?」
「昨日、一通り様子を見たんだ。そこに書いた者達は、お金などに関わらず、心の底からAIにハマっている人々だ。不特定多数に話をしても聞いてくれないという心配が有るだろうが、彼等なら心配いらない」
「そんな、人の心が分かったような事を言われても。どうやってそう判断したの?」
「表情、声と話の内容…… あとは、色だ」
「色?」
「色だ。真に好きなものを持たない人間には、色がない」
「それは、視覚的なもの?」
「まあ、視覚もあるが…… 纏う空気が違うんだ。望むものがある人と、無い人、或いは手中にある者」
そんな事、あるのか? しかし、理屈で説明できない事なんて、私もひとつやふたつくらいあるしな。
「うーん……」
「暇な時はぜひとも構ってやってくれ。この通りだ!」
「わかった、わかった……」
こっちは凄く腰が低いよな。まあ、暇になったらやってみればいいか。
「ところで、人のいない他の地区ってなんかない?」
「管理塔ですか?」
「そうそう、気晴らしに行きたくなって来ちゃって」
「あれが気晴らしになるの狂ってますよ」
「イカれてるね」
いくらなんでも言い過ぎでしょ。
「とはいえ、行動パターンは良い感じに掴めました。あの、オラクルとかいう連中、一度出現した場所には二度と出てこない可能性が非常に高いです」
「……じゃあ、もうほとんど出てこない?」
「今の見立てだと、そんな感じだよ」
「おお、グッドニュース!」
「とはいえ、我々は未知の集団に挟まれている立地にいるので、どこでも漁り放題にはなりません」
「嫌な場所ね」
「ということで、行きたいなら、コンフィ―地区がよいでしょう」
「おっけー、すぐ行くわよ」
監査君以外にも、施設から色々情報が得られるかもしれない。早速向かってしまおう。




