不安×怪獣
病院がどこかのジェノサイダーのせいでめちゃくちゃになってしまったので、祐基は本部の医療室に運ばれていた。一時間もせずに目を覚ましたもののなにがあったかはよく覚えていないらしい。
対処中の姿が見られなくてよかった、とウィルはなぜかほっと安堵していた。
彼を怖がらせるようなことをするのはまずいと本能的に感じている。きちんと髪も体も洗ったし、服も新しいものに着替えた。臭いだって消した。大丈夫、と何度も鈴木たちと確認した。
不安そうにうつむいた祐基の肩を撫でてやれば、強張っていた力が緩んだのが手から伝わってきた。
「ちゃんと俺たちが片付けたから、あの怪獣たちは誰も傷つけていないよ。医者になにか相当嫌なことをされた?」
「子供に聞かせるみたいな言い方はやめてくれる? 大人しく言われた通りに薬を飲んだだけなのにすごく苦しくなって、咳が止まらなくなって、──気づいたら周りに怪獣が生まれてた。騙したな」
「まさか。なるほど、つまり薬が合わなかったってことか。まずいな、あれが症状に一番有効なはずなんだけど……」
「ならやっぱり俺は一生モルモットになるんだ。ここの地下に非人道的な実験施設があるんだろ。そこに閉じ込められて好き放題体をいじられるんだ」
「待った、緊張しちゃだめだよ、パートナー。そんなことするわけないから。気になるなら好きなだけあとで調べてくれ。でもまずはどうすれば落ち着くか考えよう。好きなものは? 食べ物でも音楽でも、なんでもいいから話してみて」
ウィルの提案に祐基の顔が不機嫌な方へと変わった。しかし本人も症状が出ることに恐怖心を抱き続けているらしく、薬が効かなかったことがショックだったようだ。
慰めるようにウィルは肩を擦り続ける。その感触が気持ちいいのか、睨んできているけれど邪見にはされなかった。
「……考えてみる」と祐基は小さくつぶやいて自分の手をじっと見つめ始めた。しかしその手が震え始めたのが見え、ウィルは急いで自分の手を重ねた。
まさか精神的苦痛を感じるトリガーがそんなところにもあるとは予想もしていなかった。震えが収まったのを感じ取り、ウィルの緊張もほどける。
「ごめん。一度なにも考えない時間も必要だったみたいだ。前みたいに深呼吸しよう。大丈夫、俺もついているし病院みたいなことは絶対に起きないから。約束する」
「ないんだ」
「え?」と祐基の顔を再度確認すれば、黒目から光がなくなっていた。
「好きな食べ物も思いつかない。音楽もあまり聞かないし、楽しいことって? 俺には、なにもなくて……」
「祐基、」
「ずっと求められてきたことだけをしてきたのに、病気だからって捨てられて、全部失わされて、いまさらなにを楽しめって言うんだよ!」
叫んだ祐基が胸元を押さえて苦しみだす。そのままうずくまって口元を手で覆った。
ウィルの額に冷汗が浮かぶ。背中を擦りつつ、医師を呼ぶか判断を一瞬迷ってしまった。
その間に祐基はなんとか咳を我慢しようと唾を飲みこみ、ウィルの襟元を掴むと自分の方へ引き寄せた。わ、とウィルもいきなり体勢が崩れたのに驚く。
至近距離に二人の顔が近づいた。また目の端にバーコードが見えた。
「パートナー、って何なんだよ。なにをしてくれるのさ。俺はどうなるんだ。この病気って治るの? 俺、もう一生このまま化け物を生み出し続けて、人に迷惑をかけていくの?」
必死な声だった。子どもがぐずりながら問いかけるように、祐基がすがりつく。二人の間に緊張感が走る。このまま祐基が不安がっていればまた良くないことが起きるのは明白だ。
落ち着かせようとしたのに裏目に出てしまい、ウィルもなにも言葉を返せなくなった。調子のいいことなんか言っても慰めにはならないだろう。




