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ジェノサイダーたる所以

 病院に着くとすでに封鎖は完了しているのか、警備隊が中の者たちを外へ誘導していた。その合間を縫い、Gチームの車両の横へとたどり着くと作戦室となっている車内に向け、声をかける。


「アルファ1、現着した。スーツは必要そう?」


「いえ、着替えている時間はないですね。チャイルドは四体、うち二体は鈴木さんが撃退済みですが、まだ中にキャリアがいます。このままだと増える可能性もあり。すぐに向かってください」


 隊員が伝えながら装備一式をウィルへ差し出してくる。「ラジャー」とうなずき防弾ベストとサブマシンガン、ハンドガンの予備を受け取った。無線を耳に取りつけるとノイズの後に飛び交っている交信を拾った。


 キャリアは祐基のことを指している。まずい状況だと理解して返事もそこそこに、ウィルは病院へと即座に侵入した。



 薄暗い廊下を身をかがめて走る。銃は構えたまま、室内を細かくクリアリングしていくがいずれも姿はない。小型ライトの電源を入れた。非常灯のみが点灯しており、視界は緑色になっている。


 ホラーゲームみたいだが、ゾンビが出てくるわけじゃなくてよかったと緊張感がゆるんだ。無線から連絡が入って余計な思考を咎められたのかと肩が跳ねた。


『こちらアルファ2、エレベーターは使える。五階まで来てくれ』


「了解」


 ウィルは誘導されたエレベーターに乗り込み、装備の確認を再度行った。ふぅ、と緊張感を一瞬だけ外に出す。


 汗を拭いつつナイフを取りだした。刃こぼれなし、問題なく使えそうなのを確認する。回して感触を確かめてから腰に付けた鞘に戻した。


 それにしても、病院に怪獣が出るなど前代未聞だ。


(薬の鎮静が間に合わなかったのか? たしかに少し症状が出やすいみたいだとは思ったけど、そっちの方面のプロが揃っているはず)


 一体なにが強いストレスになったんだと肩をすくめる。勉強会をしているときは特に変わった様子はなかった。怪獣が複数体も出てきてしまうほどの精神的な苦痛を与えたなんて責任問題になる。


 そもそも彼にはまだほとんど現状を説明できていない。それも良くなかったんだろうか。


 ウィル自身も祐基に対してどう接するか考え中だった。


 逃げ出していたから急ピッチで検査が進められており、合間合間にいろいろと準備を進めていたせいで、教えられたのは自分が監視も兼ねて身の回りの世話をすることだけだ。


 さっさと救出と駆除を終わらせてゆっくり話し合う時間を設けよう。なんとなく、相当やっかいな案件だとは認識していた。


 ジェノサイダーを罹患者のそばに置くことは委員会含めてほとんどのヤツらが反対してきたはずだ。なにせ駆除と一緒に殺しかねないなんて揶揄されてきたし、それが覆るなんてよほどの事態に決まっている。


 そろそろ目的の五階に近づいてきたタイミングで、体の中の骨がきしんだ。金属がぶつかる音に近いものが耳朶を打つ。


 腕をひと撫でしてから見てみれば、青い光が肌の奥からにじみ出ていた。迎撃対象がそばに来ていることを埋め込んだ怪獣の骨が知らせているのだろう。


 ウィルは再び緊張感に顔を強張らせつつ、ハンドガンを構えた。


 ドアが開くと同時に「キシャアア」と咆哮が聞こえ、外に目を凝らした。薄暗闇の中でチカッと光がわずかに反射する。


 ためらわずにトリガーを引けば、銃弾が固いものに当たって弾けた音がした。すぐに踏み出しエレベーターを出る。


「対象二時の方向、こちらで誘いこむ! 合図に合わせて撃て、一、二、ファイア!」


 鈴木の声だ。ウィルは迷わず指示された方向に銃口を向け引き金を引く。


 ヒットしたのか、悲痛な叫び声が耳に届いたが、気にせず目の前へ走り出していた。


 目が慣れるよりも先になにか物体を肘で殴り飛ばした。腕の中の光が衝撃とともに強く爆ぜる。


 ゴツゴツとした鎧みたいな感触は典型的な鎧竜だろう。四つ足を床につき、平べったい背中にはコブがいくつも生えそろっていた。


 すぐさま鞘から抜いたナイフをうっすらと見える小型の怪獣〝チャイルド〟の体に向かって振りかぶった。


 切っ先が突き刺さった瞬間に噴き出した青い血が一斉にウィルの顔を含め全身にかかる。すぐに刺したナイフを抜き至近距離から弾丸を三発、傷に向けて撃った。


 倒れた敵を足で押さえつけつつ、振り返りもせず今度はナイフを後ろへ投げる。


「ピギッ」と背後でなにかが鳴いた。そのまま倒れたのを気配で確認し、サブマシンガンを左手で構えるとやはり視線も送らずトリガーにかけた指に力を入れる。


 ダダダ、と連続した銃声が室内に響く。吹き出した血が激しく飛び散り壁を染めた。そこに続けざまに銃弾が穴を開ける。非常灯にもかかり、部屋は暗闇に包まれた。異臭が漂い始める。


 細切れになった肉片がべちゃべちゃと壁や床を汚した。


「レックス!」


 足元の〝チャイルド〟がまだ動いたのがわかり、チ、と舌打ちをしてハンドガンを構え直した。ひっくり返り、柔らかい腹部分をウィルへ晒していた。


「とっとと消えてくれ。何度も何度も起き上がってくるな。うるさいんだよ」


 ──殲滅しろ。その言葉が頭の中を埋め尽くし、筋肉も骨も熱を持ち始める。


 エンジンがかかったように熱さは増していき、骨が鳴らす金属がぶつかる音も激しくなる。


 それは怪獣の喚き声のようで、ウィルはたまらなく嫌なのだ。耳障りで仕方ない。


 こいつらを完膚なきまでに叩きのめせば鳴き声が収まる。その衝動に駆られ、もう二発を怪獣の脳天にぶち込んだ。


 頭だった部分が無残にはじけ飛び、完全に動きが停止する。だが少しでも形が残っているとまだうるさい。マシンガンの弾は十分に片方の怪獣をミンチにした。


 そいつに刺しっぱなしにしていたナイフを抜きとり、逆手に持ち直して、足元に残ったもう一体を切り刻んだ。飛び出してきた内臓らしき物体も、肉も、骨もすべてぐちゃぐちゃにかき混ぜる。


 もはやそれはどんなものだったのか跡形もない。〝怪獣の骨〟がようやく黙り、ウィルも一息ついて顔を拭った。金色だった髪の毛が真っ青に変わったまま乾燥している。


 ぽた、と滴った汗が銃に落ちた。


「もう十分だ、レックス! そこまでにしろ!」


 銃声が止んだおかげで呼びかけていた鈴木の怒声がやっとウィルに届いた。電気がつき、声の方へ目をやれば端の方で毛布にくるまれた何か丸いものを抱えている鈴木がいた。


 微動だにしない塊は人の形に似ている。もしかしてあれは祐基だろうか。だが考える前に鈴木がみぞを殴ってきたのでうめいた。


「節約って言葉を知らんのかバカ野郎。バカスカ撃ちやがって、おかげでめちゃくちゃだ。あー、こちらアルファ2、ブラボー1、聞こえるか」


 無線の声はウィルのインカムにも入った。やれやれと首を振った鈴木から自分で報告しろと手で指示を飛ばされ、辺りを確認しウィルは顔を引きつらせた。


 同僚の無線を引き取って小声で報告をあげた。


「チ、チャイルド四体のうち二体は殲滅。もう二体の回収を要請する。場所は、本館二階。いや、その、また俺ですね。キャリアは、」


 鈴木が毛布を指さした後にサムズアップした。うなずいて無線の呼びかけに返す。


「無事鎮静済み。目が覚め次第経緯を確認する。オーバー」


 毛布の塊を鈴木から渡されそうになるが、全身が血でびしゃびしゃに濡れているのを思い出し、苦笑してから断った。

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