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同居人

 マンションの鍵を開け、中に入ると嗅ぎなれない匂いがした。積みあがっている段ボールは道を狭めていて、何とか通り抜けると広い間取りにたどり着く。ため息が出た。


 厳重な警備が施された高層マンションにこれから祐基と二人で住む。パートナーに選ばれた以上は患者をつきっきりで監視しなければいけない。


 もともと住んでいた家から大慌てで荷物をまとめて運んできた。幸い祐基の物はあまりなく、ウィルの筋トレ用の道具やらが多かった。


 自分のものを部屋に押し込み、軽く整えてからリビングのソファに沈み込むように腰をかける。


 もっと抵抗するかと思ったが、祐基はパートナーという制度をあっさりと受け入れた。彫られたバーコードを思い出し、ウィルは顔をしかめる。


「どうするんだよ、これから……」


 自然と声が漏れてしまう。アメリカから来たときの契約はあくまで〝怪獣対処〟のみだったはずだ。


 それがまさか監視が加わるとはつゆにも思っておらず、考えることは山ほどあった。チームのみんなにも申し訳なさが込みあがってくる。


 本来であればパートナーになるためには自己推薦の上、厳しく選定される。なにせデリケートな患者の相手をするのだから、心理学やらいろいろな資格を持ち、なおかつ戦闘もできる超エリートが必要だ。


「俺ができるのは戦うことだけだっての。子守なんか甥っ子の世話ぐらいしかしたことないよ」


 上着を脱ぎ、ガンホルダーからハンドガンを取り出して弾数を確認する。ガチャン、と弾倉を戻して壁に照準を合わせた。なにがあるかわからないから武器の携帯は許可されている。


 基本的に実動部隊が対応するのは中型怪獣からだ。その際には特殊なスーツを用いる。しかし、ウィルたちエージェントはそのまま肉体のみでも怪獣に対処できるよう、さらに特別な処置が施されていた。


「あの子のことも何も知らないしなぁ」


 銃を机に置き、天井を見上げた。光に手をかざせばうっすらと青い光が肌の奥に走る。ぐ、と拳を作れば光が一瞬手の中に爆ぜた。


 ウィルの肉体、骨のほとんどは怪獣からの贈り物に換えられている。そうすればただの人間では出力不可能なパワーを得られるからだ。トラックくらいならば片手で止められることも可能だ。


 それが欲しくて軍からテラス・アスピタへ行くことを志願した。


 とにかく怪獣をぶっ飛ばしてやりたかった。だから自分の体を弄るのなんてまったくためらいがなかった。


(この体のことを詳しく知ったらまた逃げ出しそうだな。なにせ俺たちはカイジュウニウムを使った人工骨格を埋め込んでるわけだし)


 よし、と膝を叩いて立ち上がった。片づけをとっとと済ませて祐基を迎えに行こう。あくまで任務は護衛と監視なのだから、彼のことを知ろうが知らなかろうがプロなら任務を遂行するものだ。


 銃をホルダーに戻した所で、ジャケットに入れていた携帯がけたたましい音を立てた。


 ハ、と急いでポケットをまさぐり取り出すと『至急』の文字が大きく表示されている。すぐに玄関から飛び出した。


「こちらアルファ1。状況は」


『アルファ2、お前のパートナーがやらかした! 小型の〝チャイルド〟が複数体だ、いま確認している』


「すぐに向かう」


 連絡を切り、ウィルは即座に駐輪場へ入ると留めていたバイクにまたがった。

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