迷えるモンスター
固まった祐基を一応拘束するためにタオルを持ってきて、腕をくくる。その前に服を着替えさせた方がよかったと気づき、がっくりと肩を落とした。
おそらくこの後、部隊と医療班がこのホテルにおしかけてくるはずだからだ。
「よかったね。パートナーは俺だよ。それじゃおとなしく戻ろうか」
「うそ、そんな、たしかに声かけたら捕まるに決まってるじゃん……。そんなことも考えられなかったんだ、俺、ばかになっちゃった……」
祐基の様子がおかしくなっていることにウィルは最初気づけなかった。隊長から返ってきた連絡を確認するために彼から一瞬目をそらす。
だが、その瞬間に祐基が小さく咳をした。
あ、とウィルは即座に祐基に視線を戻す。口を押さえた彼がより一層顔を青白くして震え始めている。恐怖に支配された顔だ。
慌てて肩を掴んで「落ち着いて!」とウィルは叫ぶ。祐基がカヒュ、と乾いた呼吸をした。
「ど、どうしよう、咳が止まらな、げほ、ごほっ」
苦しそうな咳が出始め、ウィルも冷汗を垂らしながら肩を擦る。怪獣症のものが咳をするのは非常にまずい状況だ。
なにせそれで怪獣が生まれてしまうからだ。
ウィルは頭の中に叩き込んだマニュアルを探し回り、対処法を急いで思い出す。
そうだ、薬を持っているはずだと彼の持っていた荷物を遠目で確認するが、少ない荷物を見るにあまり期待はできなかった。
「大丈夫、呼吸を意識して、ゆっくりでいいから。シー、落ち着こう。薬は持ってる?」
ふるふると首を横に振られ汚い言葉が出そうになった。寸前のところで堪え、とにかく咳を止める方法を考える。精神的なストレスが加わったせいで症状がでたのだろう。
ウィルは一度腕の拘束を解いてやり、呼吸をうながすのに集中する。しかし目の焦点がブレているせいでこちらの声に反応はない。
どうする、と部隊の到着時間を計算してみるが、彼の咳が思ったよりも重くなる方が早い。
「クソッ」
「息、くるし、ごほっ、ん、んん⁉」
とっさの判断力は現場ではいつだって求められる。それは思考している暇はなくほぼ脊髄反射で行うものだった。
ウィルは祐基の顎を掴んで上にあげると、そのまま唇を合わせ、舌で無理やりこじ開けた。
咳をしようとしたタイミングで祐基の舌を絡めとり、口づけを深くする。
かさついた唇の感触も久方ぶりで意思とは関係なくうっかり堪能しそうになる。
バカやろう、と自分を罵りあくまで救助だと邪な感情を払った。けれど短く喘ぐ彼の苦しそうな声に血が熱くなっていく。
背中に手を回して体を密着させ、さらに口を押し付ければ祐基が唾をごく、と唾を飲んだ。心拍数が上がっていたのも肌越しに伝わっていたが、脈拍の速度が落ち着いていくのも確認できた。
唇を離して、ほっと息を吐く。祐基の咳はきちんと止まった。これで怪獣が出てくることはいったんのところはない。本来は手や道具を使うのだが、勢いでキスをしたのは反省しなければ。
彼があとでしゃべらないように釘をさしておくべきかもしれない。
「よし、止まった。さすがにこんな室内じゃうまく対処できないからな。もしなにか聞かれても口で止めたっていうのは内緒で、げっ」
「キスされた、キス、抱いてくれなかったのに!」
「お、おい、まだその気があったの⁉ いまのは医療行為だよ! 忘れようか、一回記憶を飛ばしてくれ!」
「できるかぁ!」
驚愕してつつ提案すれば思い切り頬をぶん殴られそうになる。けれど祐基の方がケガをしかねないので慌てて拳を受け止め、へたりこんでしまった彼を支えた。
隊長からあと五分ほどで現着すると連絡が携帯に入った。
「あー、なんだ。ほら、結局流れでセックスしなくてよかったじゃないか。ね? これからよろしく……」
「さっさと抱いてくれた方がよかったよ! やっぱり死んだ方がマシだ!」
バタバタと外が賑やかになってきた。さて、どう隊長たちに報告したものかとポカポカ殴ってくる青年を抱き留めながら、アルコールが抜けた頭が真剣に考え始めていた。




