アルファ1、現着
帰ってきてからねだる祐基に負けて、結局彼を抱いた。おかげで少し寝不足だ。
しかし朝早くに端末に出動のサインが入ってしまった。安心しきっているかわいらしい寝顔を名残惜しく感じながら、家を出てバイクを走らせる。昨日のふらふらと彷徨っていた夜とは違い目的地にまっすぐ向かった。
中型の怪獣が出たと座標が端末に送られてくる。有明の方だ。スピードを上げた。近づくにつれ複数の車が道路に往生しており、パトカーや救急車、報道車などが道を封鎖してしまっている。空には報道ヘリまで飛んでいる始末だった。
チ、と舌打ちをしてバイクを近くのパーキングに停めた。だが歩道も避難してきた人々でごった返している。空いている道を探してもどこも逃げている者たちで埋まっており、逆方向に進むのは難しい。
「クソ、運が無いな!」
悪態を吐いてからとにかく道路へとなんとか出ることができた。怪獣出現による渋滞でクラクションやサイレンが鳴り響いている。
ウィルは唾を飲み、汗を拭ってから覚悟を決めた。一台の車の上に飛び乗り、そのまま屋根伝いに走り始める。
「ごめんな、市民のみなさん……! これも緊急事態だから大目に見てくれ!」
報道のカメラがこちらに向けられた気がするが、確認している暇はない。隙間ができているところは思い切りジャンプした。巨体が飛んだせいで後ろの車体が激しく揺れ、ひっくり返りかけていた。
なんとか現場までたどり着き、チームの仲間たちと情報共有を済ませスーツに着替えた。体に密着する感触は苦手だ。
武器を装備してほかのチームたちとも連携し怪獣が暴れている地点に急ぐ。張り巡らされた規制エリアに入った瞬間、骨が強く痛みだした。無視したおかげで仲間たちにはバレなかったが、昨晩の血を思い出し体が重くなる。
だが今はそんなことを危惧している場合ではない。
ビルの陰から今回のターゲットを確認した。
対象は鱗ではなく柔らかい毛、いや羽で覆われていた。体型はずんぐりむっくりとした恐竜型だ。
腕には翼が生えているが、小さいのか飛ぶことはできないらしい。ドードーに似ているが、地表で長い尻尾をぶんぶんと振っているから鳥とは思えない。その尻尾は建物の一部や地面を破壊していた。とんだ暴れん坊のようで、薄桃色の羽は動くたびにあちこちに散らばり視界が邪魔される。
「二体もいるなんて最悪! 複数チームが来るわけね」
「初めて見るやつだ。どれだけ羽毛布団が作れるんだろうな!」
女性隊員への返事のつもりか鈴木がおどける。彼女とウィルは鬱陶しそうに羽を払ってから無線でほかのチームを誘導した。
「飛べそうにないのが救いだ。でも油断はできないぞ。個体によっては急速に変化する場合もある。ぐっ」
怪獣の姿を見たからか、右腕に痛みが走った。あまりの痛さに肌を押さえてウィルは息を短く吐く。骨が早くもキンキンとけたたましく鳴き始めている。
足の底から上がってきた熱が内側から発火しそうなほど燃え滾っていて爆発しそうだ。
「レックス? どうした、スーツの調子が悪いんだったら後方にさがれ」
「いや、……なぁ、鈴木。変なことを訊くんだが」
「あ?」と鈴木は苛立ったような声を出したが、ウィルの真剣な雰囲気を感じ取ったのか、早くしろと合図を送った。
「骨の鳴き声が聞こえたことはあるか。内側から、耐えられないくらいうるさいやつだ」
「骨? ……すまん、俺は聞いたことがない。まさか、するのか」
「あぁ。いまもしきりに叫んでるよ」
「ドクターたちには報告は? いつからだ。パートナーができてからとか言わないよな」
だが会話は続かなかった。司令部から対処を開始するようにと連絡が入ったからだ。ウィルたちは雑談を切り上げ、気を引き締める。
そして全員が配置につき、エージェントたちが行動を開始した。Gチームは前衛で怪獣をトラップ地点まで誘導することになった。
怪獣も人間たちの動きを察知したのか、匂いを嗅ぐような仕草をとってから「キシャア!」と咆哮をあげた。
そして一発の銃弾の音が響き、戦闘が始まる。
暴れるしっぽを避けながら特攻するウィルたちはマシンガンの弾をヒットさせ続ける。しかし柔らかそうな見た目に反して皮が厚いらしく、すべて弾かれていた。
スナイパーライフルの銃弾が怪獣の頭蓋を狙って飛んでくるが、勘がするどいらしく、わずかな動きで避けられてしまう。これでは誘導どころではない。
「なにかおかしくないか……?」
ライフルへ弾倉を装填し直しつつ零した。いままでの怪獣は本能に従って力を暴走させていたのに、目の前のモノたちは一味違うようだ。連携し合い、人間と遊んでやっているつもりなのかもしれない。
先に走っていた鈴木が振り上げられた腕に狙われいるのに気づく。急いで手りゅう弾のピンを抜き投げつけると、腕に当たり爆発が起こった。ひるんだすきに鈴木を救出し、銃弾でけん制しながら後退する。
「ブラボー3から連絡、キャリアはすでに確保済みだ! くそったれが、お前の予想通り進化してるんじゃないのか⁉」
「だとしたらノーベル化学賞ものだよ!」
どんなに撃っても羽がひらひらと邪魔をする。しかも当たっても皮膚の奥には届かない。これまではとにかく銃弾を浴びせれば鎮圧に成功していたのにまったく効果がないという焦りがエージェントたちの腕を鈍らせる。
そして合図があり、戦闘が停止した。




