無理やりばかりだ
「ごめん」と素早く謝って立ち上がり、祐基の横に移動した。
状況がつかめずにいる祐基の背に腕を回す。抱きしめながら引き寄せてまたキスをした。ドクドクと彼の心臓が早く脈打っているのが伝わってくる。
押し付ければ首の角度がななめになった。開いた口にまた舌を入れて、うなじを撫でると祐基の舌が恐る恐る伸びてきたので軽く噛んだ。
「ふ、うぃ、うぃる、息できな、い」
「鼻から吸うんだ。そう、上手。困った、もっとしたくてたまらない。嫌なら殴ってくれ。助けを呼んでもいい。叫ぶならいまのうちにした方が……、こんな覆いかぶさったら逃げ出せないか」
「待って! そんなことしないから、でも、ウィルは俺のことそういう目で見ないって、ぁむっ」
言葉を遮ってキスを続けた。体から発する光は強さを増し、腕だけでなく顔にも線が浮かんでくる。必死に餌に食らいつく獣のように祐基の口をむさぼった。
ごく、と唾を飲み込んでから離れれば糸が引いた。呆けたパートナーはウィルの頬を撫でて力なく壁にもたれかかった。深呼吸をして閉じていた目をうっすら開き、ウィルの拳の上に手を添えた。
「すごい光ってる。戦ってないのに俺が必要になったの?」
「違う、違うんだよ。ごめん、本当にどうにかしてるよな。頭がおかしくなりそうだ」
「骨が変になったんだ? それを押さえようとしてあんな、ことを」
言いかけた祐基の顔がゆでたこのように赤くなった。やめてくれ、と心の中で叫んでからウィルは自分の太ももを殴る。キスしたくなった衝動を抑えようと思考を総動員させたが、すべてにGOサインを出されて迂闊だった。
(いつからだ。好きだと言われたときはまだこんな気持ち抱いちゃいなかったはずだ! だったらこの一か月でそうなったのか? ……いや、まさか、はなから骨が欲していると思っていたのが間違いで、最初から?)
考えがめぐったおかげで血行が良くなったのかウィルの顔も赤みが増していく。いますぐ目の前にいるやわらかい雛を抱きしめたくなった。
認めちまえよ、と骨がキシキシと鳴る。笑われているみたいで怒りが湧きかけた。
けれどなにに怒っているのかわからない。まるで好きな子を友人に言い当てられている高校生みたいだ。
そうか、と突然腑に落ちた。
骨が反応しているのは、自らが生んだ感情によるものだ。求めているのも、落ち着くのも、──祐基に対して気持ちを抱いたから。はぁ、と込みあがってきた熱を息とともに吐いた。
キャリアとパートナーとして接しようと努めていたのに大きな誤算が生まれてしまった。こんなこと前代未聞だろう。ウィルは手を挙げて首を横に振った。
「わかった。降参だ」
「さっきからどうしたんだよ!」
「一目ぼれ」と口から零れる。首を傾げた祐基の頬に手を当て、反対側に軽く口づける。
「質問してきたよな、一目ぼれはあるのかって。言う通りだったよ。きみが正しい」
「つまり、その、えっと」
「我慢比べは俺の負けだ、完敗。喜びたまえ。……それで、俺はまだきみとベッドに行くためのチケットを持ったままかな」
あ、と祐基は一度顔をそらした。さすがにウィルがぐるぐると百面相していた理由がわかったようだ。なのですかさず答えをうながすために彼の指を絡めとり、ちゅ、と手の甲にキスをした。みるみるうちに祐基の全身が桃色になってしまった。
「自信がない。教えてくれる?」
「も、持ってるよ! バカ、まだ来たばっかりだからゆっくりするんだろ! 夜まで盛ってればいいんだ、筋肉バカ!」
「はは、そうやって罵倒されるのもたまらないな」
不意打ちに口をまたくっつけると祐基が黙った。彼から香る大好物のドーナツの甘さが、さらに愛しい気持ちを倍増させてくる。
そのあとは、結局駐車場が無料になる二時間ギリギリに車を出発させ、来た道を戻った。
ずっとドキドキと緊張と溢れそうな想いを跳ねさせながら、なぜか沈黙を貫いた。たまに手をつないでみれば、お互いの肌の温度に驚くのを繰り返していた。
レンタカーを返したが家まで待てず、近くのホテルに急遽入ることに決める。
初めて会ったときにひきずられていったホテルとは別だったが、祐基の顔はあのときよりも恥ずかしそうに赤くなっていた。エレベーターが上がっている間も肩を抱き首筋に唇を這わせる。口を必死に結んで耐えていた。その姿がかわいすぎていますぐ狼になりそうだ。
これ以上のことをしようとしてるのに彼が爆発してしまいそうで心配も同時に湧く。
「準備してくる。ま、待ってて」
部屋に入るなり祐基はニンジャが隠れるような速さで浴室に向かった。待ってる間にウィルは水をかっ食らっておいた。ベルトをゆるめ、中を確認すれば元気そうで安心してベッドの上に腰を下ろす。
テレビ画面をいじれるくらいには待った。それでも熱はまったく落ち着かず、そわそわと浴室に視線をやったりそらしたりを繰り返す。
しばらくすれば祐基が出てきて、ガウンの前を一生懸命引っ張り、胸元を閉じながらウィルの横に座った。すぐに腰に手を回して引き寄せる。
「待て中の犬みたい……」
「そんな可愛いものかな」
「ねぇ、本当にいいの? 俺、怪獣を出すんだよ。ウィルが衝動に駆られるほど憎んでるものだろ。だから俺のことは好きになってくれないってずっと思ってたのに」
「怪獣と祐基は別だ。そうだな、まだちょっと自分でも信じられないが、どうも俺自身よりも骨の方が素直だったみたいだ」
ゆっくりと祐基を押し倒して覆い被さり、手を握る。
「恋人みたいなことをするなって注意されたときに気づけばよかった」
「え? どういうこと?」
「たぶん無意識にそういうのを求めてたんだ。きみに。で、いまは抱きしめるよりももっと満足感を得たい。つまりきみの中に俺のをぶち込みたい。ごめん、優しくするつもりはある。でも俺が実は凶暴なのも知ってるだろ」
「う、」と祐基は息をつめた。そして覚悟ができたのか、何度かうなずいて全身の力を抜く。
「俺だってずっと、ウィルに壊してもらいたいって思ってた……。俺の〝完璧〟をあのときめちゃくちゃに壊してくれたあなたのことが好き。俺のことを優しく見守ってくれてるあなたも。全部ウィリアムなの、大丈夫、ちゃんとわかってるから」
髪の毛から額、鼻、口に洗礼のようにキスを落としていく。そして祐基のガウンの前を開き、湿った肌にウィルは吸い付いた。




