表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日を捨てた夜に、君を拾った  作者: なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/6

2 猫でした

第一話を読んでいただき、ありがとうございます。


昨日までただの猫だったはずなのに、翌朝には人間になっていた――。


そんな常識では考えられない出来事に、主人公は当然ながら大混乱です。


今回の第二話では、人間になった猫との初めての会話や、猫らしさ全開の行動をお楽しみいただければと思います。


果たして主人公は、この信じられない現実を受け入れることができるのでしょうか。


それでは第二話をお楽しみください。


「いや、誰ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


俺の叫び声が部屋中に響き渡る。


女性はきょとんとした顔でこちらを見ていた。


「ご主人、朝から元気だね」


「元気じゃねぇよ!」


思わずツッコむ。


というか誰だ。


なんでいる。


鍵は閉めていたはずだ。


泥棒?


いや、泥棒が朝ごはん作るか?


しかもエプロン姿で?


頭が追いつかない。


「お前、誰だ?」


女性は不思議そうに首を傾げた。


「猫だけど?」


「そうじゃない」


「猫だよ?」


「そうじゃない!」


会話にならない。


女性は少し考え込むような仕草をしたあと、ぽんと手を叩いた。


「あっ!」


何か分かったらしい。


「昨日拾われた猫!」


「いやそれは分かるわけないだろ!」


そう叫んだ瞬間だった。


女性はムッと頬を膨らませた。


そして――


「にゃっ!」


なぜか威嚇した。


完全に猫だった。


「……」


「……」


沈黙。


俺は昨夜の猫を見る。


女性を見る。


首元の鈴を見る。


もう一度女性を見る。


「……本当に?」


「本当に」


「猫?」


「猫」


「昨日の?」


「昨日の!」


満面の笑み。


頭が痛い。


理解したくない。


だが首元の鈴も、琥珀色の瞳も、どこか猫と重なる。


なにより――


女性は突然テーブルの上へ飛び乗った。


「高いところ好き!」


「降りろ!!」


完全に猫だった。


「降りろ!!」


俺が叫ぶと、女性はびくっと肩を震わせた。


そして不満そうに口を尖らせる。


「なんで?」


「なんでじゃない! テーブルは乗る場所じゃない!」


「でも猫の時はよく乗ってたよ?」


「今は人間だろ!」


「人間?」


女性はきょとんとした顔をした。


どうやら自覚はないらしい。


いや、自覚がないとかそういう問題じゃない。


なんなんだこの状況。


夢か?


そうだ、夢だ。


きっと疲れているんだ。


昨日もろくに寝ていない。


そう思いながら頬をつねる。


痛い。


普通に痛い。


夢じゃない。


「ご主人?」


「……」


「大丈夫?」


「大丈夫じゃない」


即答だった。


女性は少し考え込んだあと、テーブルから飛び降りた。


着地は驚くほど軽やかだった。


まるで本物の猫みたいに。


そして当然のように俺の足元へやって来る。


「朝ごはん食べよ?」


「いや、その前に説明しろ」


「お魚焼いたよ?」


「説明をしろ」


「焦げてないよ?」


「そういう問題じゃねぇ!」


女性は首を傾げる。


本当に話が通じない。


いや、通じてはいるんだろう。


ただ優先順位がおかしい。


猫だから。


たぶん。


「……お前、本当に昨日の猫なのか?」


そう尋ねると、女性は嬉しそうに笑った。


「うん!」


即答だった。


迷いが一切ない。


「昨日雨だったでしょ?」


「……」


「寒かった」


「……」


「ご主人がタオルで拭いてくれた」


俺の喉が詰まる。


確かにその通りだった。


「ご飯もくれた」


「……」


「嬉しかった」


女性は当たり前のように言った。


まるでそれが世界で一番大切な出来事だったかのように。


胸が少しだけ痛んだ。


俺はただの気まぐれだった。


どうせ死ぬつもりだった。


最後の気まぐれ。


それだけだったはずなのに。


「だからね」


女性はにこっと笑う。


「ご主人のこと好き」


「ぶっ!?」


思わず盛大にむせた。


「な、何言ってんだ!」


「好きだよ?」


「簡単に言うな!」


「猫だから?」


「そういう問題でもない!」


顔が熱くなる。


女性はよく分かっていないらしく、不思議そうに首を傾げていた。


その仕草が妙に猫っぽくて余計に困る。


すると彼女の視線がふと部屋の隅へ向いた。


「あれなに?」


俺の心臓が跳ねた。


視線の先。


そこには昨夜買ったロープ。


まだ袋に入ったまま置かれている。


女性は興味津々で近づいていく。


「おい、触るな」


慌てて声をかける。


しかし彼女は先に袋を持ち上げていた。


「縄?」


「……」


「何に使うの?」


その無邪気な問いに言葉が出なかった。


何に使うのか。


分かっている。


昨日の俺なら迷わず答えられた。


でも今は。


女性は俺の顔を見上げる。


琥珀色の瞳がまっすぐこちらを見ていた。


何も知らない目だった。


「ご主人?」


「……なんでもない」


絞り出すように答える。


女性は数秒見つめたあと、ふっと笑った。


「そっか!」


そしてロープを置くと、俺の腕を引っ張った。


「ご飯食べよ!」


「は?」


「冷めちゃう!」


「いや……」


「早く!」


ぐいぐい引っ張られる。


強引だった。


でも不思議と嫌ではなかった。


テーブルの上には味噌汁。


焼き魚。


卵焼き。


どれも見た目は少し不格好だった。


だけど――。


「いただきます!」


女性は満面の笑みで手を合わせる。


その顔を見ていると。


昨夜まで確かに終わらせるつもりだった人生が、ほんの少しだけ遠くに感じた。

第二話を読んでいただき、ありがとうございました。


ようやく主人公と人になった猫がまともに会話をする回となりました。


……まともな会話だったかは怪しいですが。


見た目は大人の女性なのに、中身は猫。


そのギャップを楽しんでいただけていたら嬉しいです。


また、今回のお話では主人公が隠している「ロープ」の存在にも少し触れました。


人になった猫にとってはただの縄。


しかし主人公にとっては違います。


この二人の時間が、これから主人公の心にどのような変化をもたらしていくのか。


少しずつ描いていければと思っています。


次回は人になった猫に名前が付くかもしれません。


ぜひ続きをお楽しみください。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。


面白かったらブックマークや感想を頂けると励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ