宿敵
「おや?すごい美人......!」
馬車にノックもなく入ってきたのは一人の少年。
緑色の長いローブを羽織っていて、男性とは思えない色白の肌に若干のピンク色をした唇。
「女性の乗る馬車に無断で乗り込んで口説くなんて、不躾ね...」
「それはごめん!」
わざとらしく軽薄な様子で手を合わせて謝罪した。
堪忍に触れかけるも気を取り直してやることに値する。
「アナタもここの生徒さんになるのかしら?それなら新学期を飾る者としてよろしくしたいわ」
妾が気を遣った完璧で紳士的な対応を嘲笑うかの如く、ハハッと腹から笑いはじめる...が、すぐに答えた。
「生徒?まっさか〜!違うよ♪ 僕はただの演奏家さ!君たちの試験への挑戦を祝い舞い降りた一人の詩人♪ 」
(なんだこの奇怪なヤツは...終始マイペースにふざけおって...ッ!!...さっきからこの声もッ...?!)
魔王である妾でさえ、目の当たりにした覚えのないイラつき、しかし覚えているイラつき...不思議な存在であり油断ならないと本能が訴え始めた。
「それはそれとして君はここの生徒さんになるんでしょ?ならよろしくして損は絶対にないよ〜♪」
言葉は妾の耳に届かなかった、いや...より奥に響いたというべきだ。
「勇者...!」
「すっごぉっ!めちゃくちゃ勘が冴えてるッ...けど何その顔ぉ〜プッハハ〜!」
微かに酒の甘ったるい匂いが馬車内に充満した。
その佇まい...細かなところで予測の立たない突飛な所作。勇者という言葉は自然と口に出ていた。
「あらあら、図星なの...不躾だからすぐにピンときちゃいましたわ」
(そうじゃとも!この声を耳にしてからずっと!!神経を逆撫でされておったわ…...!!!)
その声による神経を逆撫でする感覚が、魔王城での忌まわしい記憶と自然に符合した。――平静を装ってなお、敵意の滲む返答をしてしまうほどに。




