表と裏の魔王様
ビッチェロ
サキュバスとして人の世界で一番大きな国である帝国、その中で一番の賑わいを見せるフレグランス街の夜経営者。
昔からの知り合いで、力関係で自然と魔王になった私にとって、立場抜きで話せる存在である。
「ところでノルタが魔王様..ハルファスが面白いことを企んでるって私に連絡して来たのって...」
力なく笑うと察してくれたらしい。
「また調子に乗ったんでしょ〜?」
「うぬぬん...しかしお前なら何かいい案の一つや二つ貯めているのであろう?お前の嗜虐心にもガス抜きを、と思ってな」
「内部工作?それとも情報収集?欲張りな魔王様ならどっちもかしら?」
「全くその通りじゃ!うぬは変身魔法も得意であろう?それを持ってして大規模な計画は可能か?」
その問いかけにビッチェロは床に座り足を組んだ、少し考え込むように目を細め口を開く。
「勇者育成機関...」
「勇者育成機関......ああ、人間界のあれか?聖教会が運営してるという例の学院?」
うん、と頷くと具体的な計画を話し始めた。
「変身魔法の精度自体は問題ないわ。私の術なら外見も魔力の質も完全に人間に偽装できる。ただあそこに入るには身元保証が要るわ」
小難しい手続きの羅列に自身のやる気を削がれてしまわぬようビッチェロに説明を求めた。
「ッ!簡単に言えば...?」
「紹介状、推薦人、出自の記録。全部揃ってないと門前払いよ?」
「しかし、わざわざ危険を冒して人類の中枢区域に潜伏したとして..何をすればいい?」
楽しそうにビッチェロは語り出す。
「このまま育成機関を放置すれば、大局的に見ると痛手を負いかねないわ、潜入をして私は少なくともそう思った。」
確かに、最近は絶え間のない人類からの攻撃に疲弊を強いられている。
大きな敵を妾が自らの手でやらねば前線が危ないという点で見ても正論だった。
「勇者と成り得る有望な個を把握して……暗殺するもよし、引き抜くもよし...それは妾のアナタ次第ということよ」
"歴史において出し抜く" つまり人間側の最大戦力である勇者そのものを無力化する。
育成機関を内部から食い破れば、未来の英雄は生まれない。
それを聞いた自分は息を呑んだ。妾よりもよっぽど魔王らしい壮大な計画に感動する。
それからゆっくりと口角が上がっていく。
「なるほどね.....芽を摘むか、根こそぎブッこ抜くか...中々に悪辣、お前らしい計画じゃな?フフッ」
ふっと笑って。
「ねえハルファス、もしかして私にその学院に入れとか思った?思ってんでしょ?」
「流石じゃ」
我が親友ビッチェロの中で全てが繋がったらしい。
策の骨子が明らかになるにつれ、互いの中で魔王としての血が騒ぎ始めていた。
こうして"二名の人間"を乗せた馬車が、魔王領地から人の国の最大地点、帝国へ車輪を回し始めた。




