↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
窓拭きよりも世界を旅する呂いる  作者: Kしずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/3

気づくと少年を助けていた

 荒れ果てた草原の中で、俺は放心して座っていた。かつて自分の家があった場所をぼんやりと見つめ、先ほど天使と交わした内容を反芻していた。あれほど活気あふれていた村も、今は人の気配一つない。ふと視線を動かすと、普段母さんが愛用していた黄色いハンカチが瓦礫に引っかかり、ひらひらと舞っていた。もうここには何もない、自分が愛した家族も、村も。自分自身さえも消失してしまったかのようだった。



「こりゃひどいなぁ。

 おーーい!!!こっちもだめだ。一体何が起きたっていうんだよ・・・」


 爆発からしばらくして、近隣から人が集まっていた。爆発の被害状況を確認し、救助活動をしていた。しかし、いまだに生存者は発見できず、救助は難航していた。


 隣村からは、卸先の店主やタク爺さんも訪れて、俺を気遣ってくれた。しかし何を話したのかは全く覚えていない。それどころか、放っておいてくれないことに対する怒りが込み上げてきた。



 夜になると、俺を残し、村からはだれもいなくなった。すでに涙は枯れ果てて、感情がなくなっていた。俺はひとりでに歩き出した。このまま村に残っても、再び強烈な悲しみが込み上げてくるだけなので、一刻も早く村から離れたかった。





「静かにしろ!!

 ったく、ただでさえこんな薄気味悪い森を抜けようってのに、魔物なんかと出くわしたら最悪だ。」


「だがよ、今回は収穫なかったな。

 希少種のガキなんか見つかればよかったが」


「だな。とりあえずさっさと市場に売りにいこうぜ」


 二人の男は薄暗い森の中で馬車を引いていた。馬車は天幕で覆われ、外からは何が入っているのかわからない。ただ時折、小さな呻き声が聞こえるだけだった。



「ん?・・・・おい!あれ見ろよ」


「あぁん?魔物か?」


「わからん。動きが鈍いな、人か?」


「あれは・・・・・」



 俺は村を出て、あてもなく放浪していた。いつの間にか森に入っていたらしく、あちこちから鳥の声が聞こえ、夜になると不気味な鳴き声や、ひゅうひゅうという気持ち悪い風の音が聞こえていた。途中、中型の魔物と出くわすことがあったが、返り討ちにしてやった。もちろん武器はない。目を抉(えぐ)り、内臓を引き裂く。すると、どんな魔物もぴくりとも動かなくなった。



「おい!あいつ人間だぞ!」


「ほんとうか?全身血だらけだぞ」


「13、14くらいか。まあ、悪くはないか」


「ああいった年頃の男を欲しがるやつも少なくない。

 よし!連れて行くぞ」



 どうやら話し声が聞こえる。だが、そんなことはどうでもいい。俺は足を止めずに歩き続ける。しかし、男たちが近くにやってきて、俺の手と足に鎖を繋いだ。抵抗する気もなかったし、空腹で動ける状態ではなかった。俺はされるがままに、男たちに連行された。




 ここは朱雀京都という大都市の中にある大市場である。さまざまな店や商人、観光客たちで昼夜賑わっている。そんな市場の隅に、分厚い首輪を繋がれた少年少女が並んでいた。俺もその1人である。時々裕福そうな人が来ては、自分の顔をまじまじと見てくる。何人かはすぐに連れていかれてしまった。どれも10歳にも満たないような子供である。


「あらごきげんよう。

 今日の品揃えはどうかしら。」


「いや、どうもどうも奥様。

 いつもお買い上げありがとうございます。

 本日の目玉商品は売れてしまいましたが、こいつなんてどうでしょう。」


「ふむ・・・・・」


「もともと結構な金持ちの出身でしてね、

 礼儀作法も心得ているので、使用人にぴったりですぜい」


「そうねぇ・・・・・

 この子は?」


「あぁ、こいつはたまたま森で拾ったんですがねぇ、

 聞いても答えようとしない不良品ですよ。

 家族を亡くして彷徨っていたんでしょう。

 顔は悪くないのでこうして並べていますがね。」


「いいわね、ではこれと、さっきの子を頂戴」


「へい!かしこまりました。」


 俺ともう1人の少年は、男にどつかれ、婦人の後について行く。これから別の場所へ向かうらしい。


「まったく悪趣味な醜女だぜ。

 かわいそうなガキどもだ・・・・」




 化粧が厚い貴族の婦人に連れられ、俺は屋敷へと向かっていた。


「うふふ・・・・・

 そろそろ入れ替えをしようと思っていたのだけど、

 いい商品が手に入ったわ。」


 俺たちを買った婦人は上機嫌で馬車に乗っている。俺たちは重い足を引きずりながら、馬車の隣を歩く。森で男たちと遭遇してから、もう何日も何も食べていない。歩くのがやっとである。このまま倒れてしまうのもいいか、そうすればこの苦痛から解放されるかもしれない、そんなことを考える。



 しばらく歩くと、大きな屋敷が見えてきた。自分の集落ほどの大きさであり、いかに婦人が裕福なのかが分かる。屋敷に行けば食料をもらえるのだろうか、俺はこの後何が起こるのか、全く理解していなかった。



「奥様、おかえりなさいませ。」


 中から黒い衣装でぴちっと決めた紳士が出てきた。


「ただいま。早速湯浴みにするわ」


「えぇ、準備は整っています。」


「お前たちはこっちだ」


 粛然とした態度の紳士に連れられてきたのは使用人部屋のようだ。俺ともう1人連れてこられた少年は、その男が纏っているものよりも高価そうな衣装を渡された。


「お前たちはこれから、使用人用の浴室へ向かい体をきれいにする。

 そのあとは奥様のお相手だ。」


「・・・・・・・」


「ここでは返事をしない者に与えるものは何もない」


「・・・・・なにか、食べるものをもらえますか?」


 俺は男に尋ねると、男は小さく咳払いをしてから、


「体を洗ったらこの部屋で待つように。

 部屋に食事を置いておくからそれを食べるといい。

 服を汚すなよ。」


 男は軽くあしらうように言った。


「・・・・・・はい」




 体を洗って部屋に戻ると、パン2つと牛乳が2つ置かれていた。俺はすぐに飛びついて平らげた。少年は手をつけずに啜り泣いていた。


「君、名前は何て言うの?」


 俺は少年に聞いた。


「・・・・ぼく・・・ぼくは・・・・ぐすん・・・

 レオ・・・・ぐす・・・・」


「つらいのは分かるが、なにか食べた方がいいよ。

 ほら。」


 俺はレオにパンをあげた。レオはパンを受け取ると、泣きながら食べた。時々喉を詰まらせるレオに牛乳を渡し、背中を軽くぽんぽんと叩く。大丈夫、大丈夫と優しく語りかけると、レオはさらに涙を流した。


「困ったな。」


 


 レオが落ち着く頃にあの紳士がやってきた。


「鳴き声が廊下まで響いていたぞ。奥様が入浴中だったから良かったものの、もし聞かれていれば犬の餌にされていたところだ。お前たちはあくまで奴隷として連れてこられた。身を弁えるように。今後こういうことはないようにその子に言い聞かせろ。」


 男は呆れたように言い放った。俺はこくん、と頷いた。




 俺たちは豪華な寝室へ案内された。カーテンは閉じていて、水晶のように煌めく照明が怪しく室内を照らしていた。言い伝えに聞いたことがある、生贄の間のようだった。


 今後何が起ころうとも、俺は動じないだろう。なぜなら失うものは何もないのだから。寧ろ、息をしているだけであの時の光景が蘇ってくるし、誰か自分を殺してくれとさえ思った。



 俺たちは室内の中央にある巨大なベッドのそばに立たせられた。それからしばらくして、純白のシルクを羽織った婦人がやってきた。俺は自然と今後の展開を察した。



「さあ、坊やたち。私をベッドに案内して頂戴。」



 俺とレオは目を合わせ、そして婦人の手をとりベッドへと案内した。


「今日は特別な日になるわ。

 なんせこんなに安く奴隷を入手できたんだもの。

 お祝いをしなくちゃね。」


 婦人は不敵な笑みを浮かべている。


「さあ、こっちへきなさい。」


 婦人は怯えるレオの腕を強引に掴み、ベッドへと引き摺り込もうと力んだ。


「いやぁっ!!!!!!」




 レオの嫌がる姿が目の前にある。自分には関係ないと思っていたが、気づくと俺は婦人を押し除けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。