Box.9 弱点
『…始め!!』
僕は大和君と対峙する。ここに来る途中、マイカさんは『教えとかないと、あんたとチームで何かするときに危なっかしくてしょうがないじゃない?全員がリブじゃないのよ』と言った。当然だ。ルドを殺したのは僕だ。あんなことが起こるなんて考えたこともなかった。この能力は躓いて誰かに倒れこむだけで、その人を殺してしまうかもしれない。そうだ。
「僕はここで力を学ばないといけない」
『何か言ったか?』
「いえ。よろしくお願いします。」
『殊勝だな。まぁ俺も死ぬ気はない』からからと笑う。九州男子だ。
『ただ、何もできずに終わっては、沽券にかかわるのでな』
『俺の能力は重量操作だ。知っているか?』
「あー。確か力強い、としか。」書いてなかった。
『その言い方、リブだな』『そういう風に見えるのだな』
『まぁいい。見せる方が早い。行くぞ。構えろ』
「は、はい!」実際、僕に構えなんていらない。少し重心を落とすだけだ。
『始める前に言っておくが…』『バリア能力に最初から突っ込む馬鹿はおらん』
『遠距離からの攻撃でバリアの強度や範囲を測るのが定石』
「僕でもそうしますよ」
『…では、そうしよう』
大和君の攻撃が始まった。手始めに横にある岩を僕に向かって蹴り飛ばす。音が軽い。とんでもないスピードで飛んでくる岩が、いつかの紙屑みたいに僕の輪郭に沿って抉られ、後ろに飛んでいく。『ドガァァぁア!!』
思わず後ろに振り向く。なんだ、あの重い音。半分抉られているはずなのに、それでも地面に大きくめり込んでいる。えぇぇぇぇ。
二発、三発、四発、なんでこの重量のものをたやすく打ち込めるんだ?これが能力!?冷や汗と共にぞくぞくする感覚を覚える。さて、僕が勝つにはどうすればいいんだろう。倒してマウンティングでも取るのか?この体格差で?
「ふむ。単純な防御力は大したものだ。」「更に展開中も動けるか」
どうやら、当たった衝撃も届いていないのか。盾のようなただの障壁なら、後方に押し込むぐらいはできるものだが、三日月のように抉れたあの岩の跡はなんだ?ふむ、これは確かに警戒に値するな。だが、こういう強いバリアは何がしか条件があるものだ。回数限定の完全防御であったり、効果範囲が全身を覆えないものであったり、他には…
「制限時間が極端に短いとか、な」試してやろう。
『ぬうぅぅぅうん!!!』初めて聞いたわ、そんなうなり声。
地面を割るほどの衝撃とともに、舞い散る岩石、小石。あんなに高く?砂ぼこりで視界が遮られる。これまさか全部!?…とんでもない質量を与えられて、落ちてきた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!
はぁぁ?何も影響がないとはいえ、殺意高くないこれ?僕でなければ必殺じゃん。リブはどうにかできるの?これ。10秒、20秒。絶え間なく続く絨毯爆撃。砂ぼこりがすごいな。目に埃が入ることはないけど…呼吸が、まずい。体の中に、能力は展開できない。このまま重い埃(なんだそれ?)を吸ったら、体が内側から引き裂かれるんじゃ?こんなに早く僕の弱点が見つかるなんて。どうする?慌てて砂塵からでたら、この状況がまずいことがばれる。
30秒、40秒、50秒。そろそろ限界だと思ったころに、砂埃が晴れて周りが見えていた…耐えきった。マイカさんの隣に座っている委員長が唖然とした顔でみている。はっとして立ち上がった。
『時間よ。そこまで』
『耐えきられたか。ふむ。』
危なかった。耐えきれなかったらどうするつもりだったんですか。
『桐生、交代だ』
『朝霧君、インターバル取るけどどうする?』
「大丈夫、行けます」息は整った。
『では次、桐生君』前に出る、最悪くん。
「いくで、転校生」
…砂埃が晴れ、無傷で現れた、すかしたやつ。わいは見た。あいつが無傷なことやない。あいつの服が土で汚れていることや。何でバリア能力なら汚れが付く?発動に条件があるんやろ。あの弾幕で服に傷がついとらん。効果範囲は間違いなく全身やし、カウンタータイプやと、あの数の攻撃は対応できんで能力が焼き切れる。つまり、あいつのバリアはまず間違いなく常時全身発動タイプや。このタイプはレアもんや。出力コントロールが下手くそやと日常生活がままならんし、まともに生きられんやつもおる。にも拘わらず、あいつは普通に歩いて、ここに来た。教壇を触っとったし、先生も普通に背中を押していた。…答えは分かったで。予想通りなら、わいの―Transcendence—なら対応できる。ま、予想が外れててもどうにかなるやろ。チャンスは1st contactや。
『始め!』
『まずは握手しよか、転校生』
手を差し出してくる。差し出された手を握る。次の瞬間、最悪くんはやっぱり最悪だったと思い知る。
『ええ子や。』『悪いな。勝たせてもらうわ』
「よろしくおねがいしまぁぁっぁぁ、ぃたっ」握った手を支点に、そのまま地面へ落された。そして衝撃!!!
「がっ…はっ」内臓を内側から思い切り蹴り飛ばされたような衝撃が走る。
「おぇぇ、、は、がは、が」声にならない。呼吸ができない。何をされた?
『悪いなぁ、転校生』『思った通りやったわ。』
地面にはいつくばって『最悪くん』を見上げる。
『お前のバリアはどうも、一定以下のスピードでぶつかるものには反応せぇへん』
『だから、消えずに服の汚れが残るんや』『知っとったか?』知らない。
『と言うことは、ゼロ距離から打ち込む<勁>には弱いんちゃうかと思ったわ』
勁?そんなもの、現実にあるのか?と思う必要もないことは、痙攣する腸が教えてくれている。
『万が一腕が消え始めても、ワイの能力の超反応ならまぁ最悪、皮一枚持ってかれるくらいやろ、ってな。』
完全にやられた。能力の解析が早すぎるし正確だ。これが経験の差…。
『ちょっと、ちょっとストップ!』委員長が駆け寄ってくる、が、
『————っ!』その前に白い稲妻が突っ込んできた。リブだ。バチバチと放電しながら、両腕と白い髪を幾重もの剣に変えて、『最悪』に向ける。こないだのはまるで本気じゃなかったんだ、と一目でわかる。
『ちょっと!そっちもストップ!やめなさい!』
『ルカ君』ばちばちばちばち。空気が変わる
『これ以上やったら』がいーん、がいーんと、金属の擦れぶつかる音。
『私…怒るよ?』
ちょっ、なんでリブが出てくんねん。まずい。このままやと刻まれる。
「あ、いや……」「…悪かったな、転校生」お、ばちばちが少し収まったか?
「ヒカルやったな?」
『はぁ、はぁ、がはっ!』動きはせぇへんが、目線はこっちを睨みつけとる。まだまともに息できんみたいやな。さすがにやりすぎたか?
「お前、モヤシみたいで、ほんま放っといたら死にそうやから、教えたったわ」
「精進しー」こわ、睨んでくるこいつの目力、なんか飲まれそうになるのぅ。
『ルカ君?』
あかーん。ばちばちがまた強なった!けっ。何やねん、あの甘えんぼ。腹立つわー。
「カナエ、そいつ診たってくれ」
『もう診てるわよ』『今、呼吸筋の麻痺を半分こっちに移してる』
なら、死にはせんやろ。このままステージからとんずらや。
『見事だ』『やるではないか』グータッチを求める大和。
「不意打ちと、半分以上お前のおかげや。先鋒、助かったわ」
『俺は勝つつもりだったがな』がはは、と笑う。
なに負けた感じになってんねん。正直、お前とぶつかったら、わいは勝てる気がせぇへん。…こいつも立派な化け物や。
『うわ、息しにくい。しんど』『なんてもの打ち込んでんのよ、アイツ』
『はい、仲良しタイム終了~。教室に戻りましょうか』
マイカさん、どこが仲良しタイムだよ。委員長のおかげで、息は出来るようになったけど、胃腸が踊り狂っている。動くと吐きそうだ。結局、僕はその日の残りの授業を、教室の隅(楊の後ろ)で横になって過ごしたのだった。
昼休み、食欲はあるはずもなく、突っ伏しているとリブと委員長の声が聞こえた。
『ひ~か~る~、私が後ろだったのに~!』
『今日は無理よ、そっとしておきなさい』




