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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす


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8/27

Box.8 クラスメート

 月曜日。月曜が好きな人は世の中にいるのだろうか。新しい一週間に希望を持てる人、残念ながら僕はそちら側ではない。今日はマイカさんが送ってくれることになっている。ということは、彼女もついてくるのだろう。

 リブ。思い返しても僕は彼女に好かれるようなことは何もしていない。強いて言うなら制服をきれいにしてあげたくらいだ。それが彼女の向けてくれる好意(だよな?)とどうにも天秤の帳尻が合わない、分からない。どうせああいう子はクラスでも人気者だ。皆に同じように接している可能性が高い。勘違いして痛々しい目を見ない様に気を付けよう。



 朝8時前。支給された制服を着て、マイカさんと待ち合わせていたロビーで合流。後ろにはリブ。ふりふりと手を振っている。思わず顔が赤くなった気がして、慌てて顔をそらす。ちょっとすねたような顔になるリブに僕は気付かない。マイカさんはそんなリブに、お姉さんのような笑みを向ける。

 マイカさんが運転するのはEVのスポーツカーだった。

『地下で排気ガスは出せないわぁ』

「ごもっとも」 

『そもそも車なんていらないのにね』『マイカちゃんなら一瞬でしょ』


 さすがにそれはない。寮の目の前にあるマイカさんの家と学校までの距離は変わらない。実際に一昨日はバスで寮まで帰ったわけだし。…また顔が赤くなった。

『管理責任者の権限を使えば一瞬で行けるけど…怒られるわ』

 誰に?助手席のリブは分かっているみたいで、けらけらと笑う。


「朝はこの時間でいいんですか?」

『部活をしている子はいないからねー。野球やサッカーしようにも人数が足りないくらいしか学生がいないし、基本的に能力を鍛える学校だから、スポーツが能力を鍛えるとは限らないの。体力や筋力は否定しないけど、それだけじゃない。イメージを鍛えるには、知識も必要。ね?リブ?』

『むー』今度は僕が笑う。今日初めて笑った。


 10分で学校についた。僕らのIDカードは寮も学校も共通だ。下見の通り正門から入り、簡単な手続きの後、廊下を渡り、三人で一緒にあの教室へ入る。8時25分。後ろから僕たちを追い抜いて、リブはとことこと窓際三番目の席へ。先頭に座っている女の子と軽くハイタッチをして席に着く。あ、あの子が代表の子か。えっとカナエさんだったか。


『少し早いけど、全員揃ったので、朝礼を始めます。起立』と、カナエさんが号令。

『おはようございます』

 学級委員長みたいなものか。クラスが一個だから代表になるわけだ。あれ、でも先生は?


『はい、おはよう』マイカさん…あんたが先生かよ。マイカさんがいたずらっぽく笑う。

『皆。知っている子も知らない子もいるので、改めて今日、転校生を紹介します』

『はい、自己紹介して。できる?』背中を軽くたたいて、前の教壇へ促される。


 視線が集まる。苦手だ。教壇の端を思わずぎゅっと握る「あ、アサギリ、朝霧光です。得意な教科は、数学と理科です。国語も少し。他はぼちぼちです。」実際小学校の模試では算数理科はかなり褒められてた。英語は…出来るけど模試が無かったので分からない。


『ぶッ』『はははははは』僕の横隣になる席の細身の男子がこらえきれない様子で笑う。

 …あーやらかしたか。こういうの、前にも見たことあるぞ。

『お前、おもろい、おもろいやんけ。教科って何の<強化>かと思ったわ。』

『マジの勉強科目言()うとは思わんかった。いや、やられた。』

 だめだ。第一印象最悪な奴がいるとは思わんかったわ。

『桐生君、止めなさい。』委員長が遮る。この子もこの子で目線がきつい。

『けっ』腕を組んで黙る、最悪君。


『勉強が得意なら、梓のいいライバルになるかもね。』と委員長のパス。

『…よろしくお願いします』

 最悪野郎の後ろの、眼鏡をかけ、黒い長髪を束ねた梓さん?がおずおずと手を挙げる。

『負けるわけないけど』ぽそっとつぶやいて聞き取れなかった。何か言った?


『ワタシは(ヤン)デス。こういう時は、自分の能力を言ったりするんデスよ』

 委員長と反対側の角の学生が手を挙げて言う。テレパシー野郎だ。最重要警戒人物。


『内緒にしてたり、機密な場合もあるから、言わない子もいますよ』

 最悪の前の席の、サリーだっけ?民族衣装を着た茶髪の女子が話す。優しい声だ。

『初めまして。神代・プリヤ・ラーナです。みなさんはプリヤって呼びます。

 インド人の父と日本人の母のハーフです。』

「ありがとうございます」思わずお礼を言ってしまう。やっとまともな人きた。


『わ…』

 フードを目深に被った包帯男がじわっと手を上げようとしたところで、リブが遮る。

『ヒカルのトラッシュボックスはすっごいんだよ!』

 おーい、何か言いそうだったぞ。それなりに勇気を出した感じだったのに、包帯男は手を引っ込めた。何だか彼とは仲良くなれそうな気がする。


 ん?んんん??…とらっしゅぼっくす?それはまさか。

『バリア能力やろ?そんなん、今までも大勢(ぎょーさん)見てきたわ』最悪君の目がこちらにまた向く。

『トラッシュボックスか。あまり強そうではないな』大男が続ける。あーこういう流れ。

『敵とか相手がtrashなんだとしたら、相手を侮蔑したような、強い殺意を感じるわ』

 と、梓さん。侮蔑なんてしてないです。っていうかそんな意味になるんすか。

『かわいらしさも感じるいい名前―。おもちゃ箱みたいな。ヒカル君、boxに物を置いといたりできるのー?そしたら私の—Resonance—と相性良さそう』と、語尾が伸びがちな天堂編音さん。後半部分でリブの髪がぴくっとなる。


「いやぁ、置いとくのは出来ないかな…です」『あら残念―』

「でもトラッシュボックスってのは、なんというか」初耳です。

『?』僕はリブを睨もうとした。

 リブは腕組みして歯を出してニコッと笑う。ふすふすと鼻息が聞こえそうだ。卑怯だ。

「…最近決めたんです」委員長だけ、窓をむいて肩を震わせている。



『はいはい、みんな仲良くなってきたみたいだから、ちょっと外で運動してみる?』

 マイカさんの仲良いって範囲広いなー。

『まぁやってみるのが一番早いと思うわ。ちょっと皆も見ておいた方が、危なくないと思うしね』

『いぃ?ヒカル君』

「はい、構いません」気は進まないけど、確かに見せとかないと危なくてしょうがない。

『トラッシュボックス、なんか君の過去に向き合ってる感じで、いい名前だと思うよ』

 マイカさんが耳元でささやく。もう決まったな。……トラッシュボックス、僕の能力…か。驚いたせいか、びっくり箱みたいな第一印象なんだけど。うーーーーーーん。




 外の運動施設へ来た。ジオラマみたいないろいろな区画がある。今回は岩だらけの荒野のようなステージだ。サッカー場ぐらいの広さはある。箱庭のやり口は最初の日にいきなりリブを吹っかけて来たことから、もうわかっている。つまり、いきなり<能力者同士をぶつけてお互いに理解させる>だ。


『せやけど、ほんまに全部防げるん?』

『試してみよか?』『やろや、大和』

『そうなると思っていた』『どっちからいく?』

『じゃんけんや』


挿絵(By みてみん)


 4回目で大男(僕基準)——大和君に決まった。マイカさんより背が高い、180cmは超えているな。リブの落書き通りなら、……見た目通りの怪力能力!でも…いきなり殴りかかってきたらどうしよう。大和君がイチゴジャムかスイカの噴水になってしまう。



『それじゃ叶、開始の合図を。ルールは適当に決めて』パラソルのついた椅子に腰かけて言う。これはよく『ばえる』ってやつだ。他の生徒にはパラソルなんてない。

『適当って…』

『じゃあ、最初だし5分ずつのインターバルで行きます。怪我はどうにかできると思うけど、なるべくしないように。殺しちゃだめよ。両者準備は?』

 …殺しにくるのかよ。


「どうぞ」

『かまわん』


『では……始め!!』

 …いきなり突っ込んではこない。当たり前だけど警戒されているな。



『ありがと、カナエ。』

「…いえ」

 マイカ先生に、椅子をすすめられて腰掛ける。テーブルに頬杖を突く。

 ふぅ。まずはうちの武闘派二人をぶつければ彼の大体の能力と対応力は分かるでしょ。リブは他人の能力を『すっごい』なんて言ったことが無い。実際あの子の能力が『すっごい』から。『すっごいバリア』が硬質化したリブの腕を消したのなら、とんでもない高出力ってことになるけど、それだけかな。


『バリア能力に最初から突っ込む馬鹿はおらん』…同感。

『遠距離からの攻撃でバリアの強度や範囲を測るのが定石』…私でもそうする。

『僕でもそうしますよ』…彼、なんであんなに余裕なんだろう。チビで弱そうなのに。

『では、そうしよう』


 バリア能力への基本的な観察項目と対応はこうだ。

 まずは範囲。自分の体だけなのか、切り離すことも含めて、広範囲に展開出来るのか。普通は自分の体だけ。1on1なら範囲を拡張する必要がない。次に持続時間。こちらが複数なら飽和攻撃が有効かどうかは重要だけど、これもまずその物量にならないし、今回は時間制限付きだ。私なら5分全開でバリアを張って耐え切る。そしてバリアを張ったまま動けるかも重要。体当たりされて、そのまま広域に展開、バリアで圧殺されるか、行動を封じられるのが最悪。なので、やっぱり遠距離からの攻撃が第一選択。更に大和なら、一人で飽和攻撃もできる。


『は!は!はぁあ!』

『ぬうぅぅぅうん!!!』

 岩を砕いて相手にぶつける、だけではない。彼の能力は物体の重量操作。能力名はなんだっけ?彼、寡黙だから教えてくれていないかも。つまり岩は蹴れば簡単に舞い上がり、砕けた小石は最高点で重さを何倍にも増して、重力のまま降り注ぐ。要は砂埃全てが、

『『弾丸になる!』』

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!


 冷や汗が出てきた。あ、これ飽和してたら死んでない?死んでませんように。少しして砂埃が引いてきた。地面が大きく抉れているのが見えてくる。うっすら影が見えてきた。どうやら手足はくっついたままね。…砂埃が晴れる。

 え、…無傷?


『むふー』いつの間にか隣に座ってたリブの、自慢そうな鼻息が聞こえた。


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