Box.77 奇跡の子
欧州崩壊後の人々の動向はある程度追いかけることができていた。人工衛星を介する個人の携帯電話への通信は各端末の電源が残る限り、生きていたからだ。それにより海岸線への退避勧告、救援が来る港湾への誘導が行われた。そして同時に、事件後にGPS反応が移動しない端末の数などから、総人口の半数が崩壊直後に失われたことが推察された。
当然、救援要請を目的とした通信も激増するのだが、それに応じることは事実上不可能だった。そして人口比で補正した救援要請の通信数は、フランスを中心とする高速鉄道ネットワークの沿線地域で顕著に多かった事が示される。
『これはきっとFactor事件の救援要請…つまりはマムの予測通りだったわけですね』
このミーティングはクレアと私、司、巧が参加している。ヒカルとリブは…まぁ結果が出たら伝えればいいかな、と思う。タローは各国や日本政府との調整でてんやわんやだ。ちっ、燐のヤロー、空の上で呑気にサボりやがって。
「まぁねぇ。ってことは、やっぱ目的の能力者はこの地域から探すのが、効率的ってことになるわね」
『相手はどのくらいこのことを予測してるんでしょう?』
司の予知能力は今回は当てにならない。何故なら目覚めた能力者自体が、自分の能力の全貌を把握していないだろうから。目覚めてしばらくして実は蘇生能力でした、なんてこともありうる。それなら最初から篩に漏れてしまうことは避けたい。
「ばら撒いた張本人達だから、こうなることは当然知っているわけよね。で、ここまでの予測で彼らに追いついた、ってとこね」
『では、どうやって彼らを出し抜きますか?』
「そこで巧の‐Providence‐の出番、よ」
「クレア、被害地域でまだ稼働してる病院のリスト分かる?」
『はい。衛星通信もUSAのものを使ってますので、連絡がつく病院は分かってます』
私が考えた二の矢はこうだ。次の監視対象は病院。決して多くはないが、地層の影響なんかで原生林の緑化が起こらなかった地域はある。インフラは寸断されているから住める場所ではないけれど、何とか病院機能は維持できているところが僅かながらあるのだ。そこが狙い目。
「そういう病院に、<家族全員が意識不明だけど、一人だけ無事>とか<生存の見込みがない患者だけど、どういうわけか生きてる>みたいなケースがないか探すのよ」
『なるほど…でも、それだと蘇生だけできる能力ってことになりますね?いいんですか?』
「あーいいのよ。今、私たちが探すのは神様じゃなくて、神様みたいな力を持て余してる人、よ」
「そもそも神様なんて顕現するかわからないし、いたら私たちが探さなくても、誰かが噂し始めるわ」
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フランス南東部リヨン、だった場所のとある病院。
私はMireille Laurent。家族や友達にはミラと呼ばれている。2月に10歳になったばかり。3月に入って誕生日のお祝いに、両親とお兄ちゃんと一緒に高速鉄道に乗って、スイスへ旅行に行った。マッターホルンに登りはしなかったけど、展望台から見上げた山は壮大だった。アイスパレスの美しさは圧巻だったし、氷河も見た。私はスキーが大好きだから、後は皆でスキーを楽しんだ。天気にも恵まれて、とても楽しい旅行。
だけど、それが家族との最後の思い出になった。
3/15の早朝だった。騒音と揺れで目が覚めた私のベッドは、部屋ごと森の中にそのまま飛ばされたみたいだった。ここは不思議の国かしら。寝ぼけてそう思ったのはほんの少しの間だけ。かすかに声がした気がして、窓だったはずの木枠から外を覗くと、一階と二階の間に太い根っこが刺さって私達の家が真っ二つになっていた。
パパは?ママは?お兄ちゃんは?根っこを滑り降りるように一階に下りて、パパ達の寝室に入るとそこにはさっきの根っこの幹があった。脇には血まみれのパパとママが倒れていた。「逃げないと」そう思って、返事をしない2人を何とか庭に引きずり出すと、庭の隅にお兄ちゃんが倒れていた。
「お兄ちゃん!」
声をかけたお兄ちゃんの首はありえない方向に曲がってて、目は虚ろで何も見ていないようだった。恐ろしいものを見てしまった恐怖と絶望のあまり私はそこで気を失ってしまった。
私を…一人にしないで。
気が付くと、近くの病院に運ばれていた。誰が運んでくれたのかは分からない。でも目が覚めた私に、ドクターが謝ってきた。
『ごめんなさい。君の家族は助けられない』
『生きているのが不思議なくらいなんだ』
パパは腰から下がなく、ママは頭が半分無かった。お兄ちゃんは首の骨が折れてて呼吸をしていない、と言われた。何それ。
本当に?本当に、私一人になるの?
その日の内にパパが、翌日にママが、何度も何度も心臓が止まっては奇跡的に息を吹き返したのだけど、結局亡くなってしまった。3日後、お兄ちゃんが酸素が無くなって天に召されて、私は一人になった。何だか疲れてしまって何もする気が起きなかった。『病院の備蓄が無くなるから、避難しましょう』と言われた。そう言うドクターの顔は血の気がなく真っ白だった。そして、そのまま倒れた彼は動かなくなった。…ドクターも死んじゃった?
彼が死んじゃったと気づいた途端、建物が軋む音がした。何なの、病院も崩れる…の?
その時、空から2人の女の人が建物の中に飛び込んできた。一人は羽根の生えた銀髪の天使様、もう一人は羽根もなく空を飛ぶ赤毛の女神様。
『……!』
『………!!』
『…………!!!』
『……!』
聞いたことがない言葉。神様の言語かな?「ちょっとよく分からないな」と思ってたら羽根の生えた方の天使様が、私に分かる言葉で話しかけてきてくれた。
『Je suis là pour vous aider ! : あなたを助けに来たよ!』
助ける…?天国からのお迎え、じゃあないんだ。
『Comment tu t'appelles ? : 君の名前は?』
「Je m'appelle Mira. : 私は…ミラ」
「Tu es un ange ?」
あなたは、天使様なの?




