Box.75 門出
3月、僕たちは中学を卒業する。とは言え、また4月から同じメンバーで高校生活が始まるのだから、新鮮味があるかと言われたら、そこまででもない。なんなら教室も同じだ。
『でも門出とか節目って大事だと思うわよ』
と叶。
『我々を庇護してくれている人への報告でもあるからな!』
と大和くん。なるほどなぁ。
とは言え卒業式はちゃんとある。普段保護者でさえもお断りしている箱庭への入場も今日は例外。だけどリブもそうだけど、両親がいない人もいるし、色々事情もあって両親が来ない人もいる。
卒業式にありがちな答辞とか送辞とかはない。あるのは卒業生代表の叶の挨拶。壇上に上がった叶は手元の紙を見ることもなく、口上を述べた。
『先生方、日ごろ支援いただいている多くの方、両親のいる人もいない人もいますが、私の場合は両親にも感謝を申し上げます。今日私達は中学を卒業し、新たな高校生活へと歩を進めます。また11人が揃って卒業出来る幸運にも感謝を申し上げないといけません。思えば10人で始まった中学生活でしたが、まさかリブと同等以上のメンバーを迎えることになるとは、当時想像だにしていませんでした。そのメンバーとの出会いはともかく、私もそうでしたが、彼を迎え共に歩んだクラスメートの人生は、それまでとは大きく異なるものとなったことでしょう。彼の存在はとても大きく、ついには私の親友と肩を並べるまでになりました。結果的に世界屈指の能力者を2人も抱えることになったクラスをまとめることは、常に苦悩と苦難の連続でしたが、それもまた私の成長の糧であったことは論を俟ちません。皆これまでありがとう、これからもよろしくね。また、3年後に揃って式を迎えましょう』
『卒業生代表、高崎叶』
これは完全にアドリブだ。昨日までの任務で、話すことを考える暇なんて無かったはずだ。こんなことすらすら言える叶はやっぱり凄い。
挨拶が終わって、一緒にいるのは叶の両親かな?感動して泣いてるようだった。
僕の両親は、というと今日が実に2年半ぶりの対面だった。突然家を出ることになった息子が、2年経って世界最強の一角になってるってどんな気分なんだろう?
でもそんな懸念は虚しく、両親とも興味があるのは僕じゃなく、付き合ってる彼女だと紹介したリブの方だった。まぁ良いけど。
『リブちゃんって言うの?綺麗な銀髪ねぇ、ハーフなの?』
『いえ、生まれた時の環境のせいでこの色みたいです』
『あら、ごめんなさいね。病気か何か?』
『そんなとこですね。母親も私を産んで亡くなったので、ちょっとよく分からないんです』
『…あら、何だかごめんなさいね』
「いえ、顔も知らない母親のことですので、気にしてませんよ」
『そうだ、リブちゃん、また時間があるときにヒカルを連れてウチに遊びに来てね。この子、全然帰って来ないから』
『はい、ぜひお邪魔させていただきます』
とても初対面とは思えない。天然陽キャの為せる技。髪の色とか親がいないこととか、人によってはいきなり触れられたら怒りそうなことを上手く躱して、傍目にはウチの両親とも打ち解けているように見える。タダでさえ日本人離れした容姿なのに、そのハードルをモノともせず、大人との話も手慣れた感じなのは、素直に尊敬するところだ。でも。
「…良かったの?うちの両親と会って」
『ん、悪い理由なんてないでしょ?そのうちお世話になる人達なんだし、仲良くしとかないとね』
「でも異能者の事なんて、ほとんど何も知らない人達だよ?」
『それは…ちゃんと息子さんが説明しないとねぇ』
口に手を当てて、悪戯っぽく笑うリブ。『勿論、息子さんを手伝っても良いけど』
「…お願いすることになる、と思う」
『ヒカル、実の両親がいて話が出来るって、きっと幸せなことだよ』
『私にはマイカちゃんはいるけど、本当の親じゃないしね』
そう話すリブの目に、ほんの少し寂しさを感じた気がした。
「マイカさんは立派に<親>をしてると思うよ」
『それはそうなんだけど、何か…説明難しいな』
全部知っててリブはこの話をしているのだろうか。リブの親かもしれない存在は、まだこの世界にある。だからこそ、リブが親とか家族の話をしてると、何だか琴線に触れる気がして、冷や冷やしてしまう。
卒業式が終わり、記念撮影をしようと僕たちは箱庭の外に出た。
少し強めの風に、木々がざわめくように揺れる。気温が上がったせいか、急激に開花が進んだ桜の花が散ってしまわないかと心配になるくらいに。
『風が強いわね。中にいたら分からなかったけど、こんなんじゃ記念撮影にもならないじゃない』
『色々ありましたけど、楽しい3年間でしたね』
『まさに激動であった』
『お前ら、ええ感じに言いたいだけやろ?』
「リブは全部で1年くらいは、いなかったけどね。」
『ヒカルも最初いなかったから、私の次ぐらいにはいなかったよ!』
『いないだけなら、うちの彼氏がダントツよー』
『授業の出席はずっとしてたから、いたことになってるよ』
『この1年だけなら、リブが153日欠席、巧は5日だけよ。2位のヒカル君が43日欠席だから、リブ断トツね』
「まぁ皆そろって卒業できたから、良かったってことで、ダメかな?」
『良いんじゃない、それで。…で、どしたの、隼翔にヤン?暗い顔して』
『さらなる…漆黒の闇が…来る』
『えー。何かとんでもない量の、絶望やら苦悶やら思念の固まりが飛んできてマスけど?…万じゃ効かないデス…数億人分?』
『…何それ?止めてよ、せっかくの門出に』
叶は呆れたように一笑に付そうとした。
その時、けたたましい警報音が鳴り、僕らは耳を塞いだ。続いてマイカさんから連絡が入る。
『あんた達、用事終わったらすぐ箱庭に戻って!って言っても、もう手遅れでこっちからできることは今はなさそうだけどね』
『…いったい何があったの…?』
そのときには知る由もなかったけれど、僕たちが中学を卒業した日はその後、数千年の歴史を持つ欧州の文明が滅んだ日として、世界史上に記憶されることになった。
中3編、最終回!
次回より第4章、高1編開幕
でも正確にはまだ中3だな。…卒業したからよしとしましょう。




