Box.72 嘘人
「うっひょおおおおおおぉぉぉぉぉーーーー」
…何でこうなったかな?
ぶん投げられる直前、クレアに言われた。
『二人とも急いでください。今、ヒカルとContraが戦っています。やや押され気味ですね。あとFactorを持ったアヤが、もう少しでPlantと会敵します』
湿地帯の入口までしか車で入れないから、残り2㎞走るしかないってのに。
『Supernovaを使えばいいじゃないですか?』
あんなの使ったら、私達が来てるのバレちゃうじゃない。
『どうなんでしょうね。今のところ敵は二人だけみたいですが』
『では少し先の丘からマムを投げましょう』
「はぁ、はぁ…え……なんで?」
『先生、アヤが危ないんなら投げますよ。また小さくなってください』
「え、マジで言ってんの?」
『早くしないと、またギュってしますよ?』
あー。もう、しゃあないな。
『おおおおぉぉぉりゃああああぁぁぁぁ!!!!!』
ってことで今に至るのだけど。小さいって言っても30㎏はあるよ、私。何で投げれるのかな。いつぞやルカが、叶のことをゴリラって言ってたっけ。あながち間違ってなかったのね。うーん、このままだと海に落ちるかなぁ。しゃーない。
「すうううぅぅぅぱああぁぁぁぁぁぁ、のぅばぁぁぁぁ!!」
カッっと光って変身…もとい巨大化する。別に光らせなくてもいいんだけど、光らせられることが分かってからは、気に入って光らせている。ウル虎マンみたいでかっこいいじゃない?そして、今回は鬼の風貌で行こう。
巨大化しながら、海面に生い茂る不自然な熱帯植物を地面ごとえぐり取って海に弾き飛ばす。マングローブなんて、海面から浮いてるから自生できるのよ。海に沈めとけば死滅するわ。
『まあぁぁぁ、たあぁぁぁぁ!!』
ついでに空中に弾き飛ばした編音をキャッチして肩に乗せる。
「ふぅ間に合ったわね。だからもう泣かないの!」
『もう!落とされたり、打ち上げられたり!私、高所恐怖症になりますよ!』
『相変わらず、雑な戦い方をするのぅ、マイカ』
Plant…爺さん、海岸から少し距離を取ってるわね。恐らくあの場所なら能力の制限がないのね。
「えぇ。『ちまちま戦うより体格を活かせ』って、うちの爺さんが言ってたんでね」
「さぞかしフランス流は優雅に戦うんでしょうね?」
『体格を活かせ…か。At-Randomの至言に従うかの。巨人相手には巨獣といこう』
天に届かん勢いで伸びる木。今の私より高い。優に100mはある。セコイアの木…から触手の様な蔦が生えて、頭?はラフレシアかな。いい趣味してるわー。
「いいじゃない!それじゃあ大怪獣バトルを始めるわよ!」
植物怪獣を殴る、引き裂く、踏み潰す、千切る。端から見たら一方的な蹂躙だけど、正直決め手がない。
Supernovaは、巨人の着ぐるみの中にいるようなものだから、ちょっとやそっとの物理攻撃では倒せないし、毒も効かない。溶かされても外殻は何度でも作り直せる。正直、Plantが勝つ要素はない。
とは言え、向こうも植物の再生力…というか創造力には自信があるだろう。これは決着は着かないかな。向こうも分かってそうなんだけどね。
結局のところ勝敗の分かれ目は、ヒカルが燐に勝てるかどうか、ね。
30分ほど不毛な殴り合いを続け、海水でもかけてやろうかと思ってた所へ、クレアから『ヒカルが勝ちました!』と連絡が入る。おー、やるじゃんか。
「おーい、燐負けたみたいだけど、じいさんまだやるの?」
……返事がない。まさか。
「編音、Factorは?」
『さっき跳ね上げられた時に、海に落としましたよ!』
『しょうがないじゃないですか!』
「Resonanceで探せないの?」
『今探してます……ってあれ?何の反応もない、です』
『…いや、これ、え?めちゃくちゃ遠いところに反応ありますよ、100kmは先です!』
…あー。そ。…ダメだ、ほくそ笑んでしまう。
「あー。Yggdrasilで持っていかれたわね」
「何も言わず、怪獣だけ置いていくなんて、やられたわね」
『…確信犯ですか?マム?』
…黙ってなさいよ、クレア。あんたはFactorの所在に関しては中立でしょ?
『そうですね、…そうでした!問題ありません』
『あなたは、リブとFactorが別のところにあれば、PlanBは達成でしたね』
Factorを破壊するのが理想のPlanAだったけど、流石に連中も超音速機でテロはやらなかったわね。
『マムは、嘘付きさんですね』
――――――――――――
『ごっめーん、PlantにFactor持っていかれたわ』
こっちの決着がついて間もなく、マイカ先生が編音を脇に抱えて合流してきた。
『あら、燐ったら随分小さくなったわね?』
『…あなたに労りの心、ないんですか?』
『労ってほしいわけ?』
『…いえ』
「先生、治しましょうか?このままじゃ死んじゃいますよ?」
半分になってしまった燐先生の体から、目立った出血はしていない。表面を凍らせたのだろうか。今ならTransferで体を繋ぐことは出来るだろうけど。
『いいんですよ。私は』
『私はね、At-Randomを殺したときに、もう戻れないと思ったんですよ、そして、それからはどこかで死に場所を探してたような気がします』
『何を今更言ってんの。爺さんはあの時もう死んでたんだ。殺す、って言うなら私も殺すつもりだったし』
『それで何かがどうこう変わることはないよ』
『そもそも私たちは、終わってたんだから』
『そうですか。すみません…未練たらしいことを言いました』
…あ、戦ってる時に先生とヒカル君が話してた、昔の恋人のお祖父さんを殺した、っての…まさか。
『さぁ、そろそろ介錯をお願いしますよ』
『私が…Factor化したら面倒…でしょう、ヒカル君』
ずっと燐先生の横で放心状態だったヒカル君が、名前を呼ばれてようやく立ち上がった。
『…分かりました。先生、これまで…ご指導ありがとうございました』
『先生…ですか。存外、良い響きですね』
『5分…以内に、お願い…します…よ』
『燐…』
『あの日々はね。私にとって大事な思い出だよ』
『またね』
マイカ先生の最後の言葉が聞こえていたのかは、分からない。でも燐先生の表情は少しだけ穏やかなものに見えた。
そして、ヒカル君が燐先生の最期の望みを叶えた。
少しして、遠くから声がした。
『お〜い、ヒカル〜!みんな〜!』
リブとルカが島へと続く桟橋の方から走ってきた。
その様子を見て、緊張が切れたのだろうか。糸が切れたように倒れ込むヒカル君を、私は咄嗟に受け止めた。
「お疲れ様、ヒカル君」
『たっだいまーーーーー!』
「ちょっと、ヒカル君寝ちゃってるから、そっとしてあげて」
ゴメンねリブ。私、これから嘘をつくと思う。あなたが今まで隠してたFactorのこと、聞いちゃった。それとね…。
私、やっぱりヒカル君のことが好きなんだと思う。
マイカさん、そのままの風貌で巨大化するとコンプラ的にアウト。




