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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす
中3編

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69/71

Box.69 Excusez-moi.

カクヨムは+1話先行配信中


https://kakuyomu.jp/works/2912051602729913334

 僕がPlantと燐先生と対峙する、18時間前。


 僕と編音、ルカの本隊は、出発前の別働隊に同行するマイカさんから、指示を受けた。『私がいる方だし、先に行く方が本隊に見えるでしょ?』と。つまり一般の航空機でフランスへ向かう別働隊を、僕たちは超音速機で後から出発して追いかける。そして。


『フランス上空で音速以下に減速したら、飛び降りてもらうから』

『え?』

 編音が固まる。不法入国紛いのことをしてもらう、なんて出発当日に言われるとこじゃないよな。


『空港に降り立ったら、フランスの連中に待ち構えられてるわよ。まともに動けなくなるわ』

『そりゃそうでしょうけど…』

「先生の方も待ち構えられるでしょ?」

 わざと目立つように偽装も何もなく本名で、更にわかりやすくファーストクラスで搭乗している。…いや、これは好みかもしれない。

『その辺も考えているわ』


 編音の顔面は蒼白だ。

『あやね~だいじょぶだいじょぶ。スカイダイビングみたいなものよ』

『私、パラシュートなんて使ったことないんですけど?』

『大丈夫!パラシュートなんていらないわよ』

『え??』

 使ったことないから使わない、なんて普通じゃありえない話が、ここでは通用する。

『ヒカルが飛べるから、しっかりヒカルを捕まえときなさい』

『Factor落としちゃダメよ』


 口をあんぐりと開けて固まってしまった編音、ご愁傷さま。マイカさんは自分が航空機事故を生還したのを基準に考えてるから、きっと自由落下で人が死なないと思ってるんだよ。

 計画では事前に知らされたポイントの通過を‐Resonance‐で確認しつつ、そのポイントで飛び降りる。飛び降り方は知らない。またどうせ碌でもない方法だろう。


『ルカ、あんたなんで落ち着いてるのよ?お、おぉ落とされるのよ!?』

『多分ワシは空中でも減速できるからな。ほら二段ジャンプできるやん?』

 …ここにも自由落下で死なないヤツがいた、と思い当たり、編音はまた唖然とした表情になった。



『まぁフランスの空港に私達が先についてるから、なんか処理することあったらやっとくわよー』



——————————————————————

 ヒカル達がPlant達と接敵する6時間前。

 

 私達別働隊はフランスの玄関、シャペル・ドルーゴ空港へ着いた。クリスマスで混み合う空港の入国審査を漸く抜けたところで、私達は対策を練る。叶のTransferで文字通り変身するのだ。


「さぁ叶、思い切りやっちゃって」

 クリーム状に加工した叶の肉片を、特殊メイクみたいに司の顔に塗りたくる。材料になる怪しさ満点の栄養剤は、空港の検査を司の恩寵『神は見過ごされた』の効果でゴリ押し、通過させた。


『司さん、ごめんなさい。すぐ剥がれますから』

『いーよー。どうせなら思いっきりゴリラ顔にしてよ』

『元気は、ぱっちり二重のイケメン、ね』

『…やだよ。人に見られるじゃん』

『いや、盛るだけなので、くっきりさせるのはちょっと…』



『出来たかーい?』

 ダボダボになった服の裾を上下《かみしも》のように引きずって、メンバーの下に近寄る。私の変装は単純。普段から展開している-Supernova-を解除してチビな素の私に戻っただけ、だ。

『…?マイカ先生…』

「なに?」

『それって先生の能力なんですか…?』

「…そうよ」

 本当は普段の姿こそが能力なのだけど。ってあれ、何か叶の目線がおかしいぞ。


『…可愛い』…へ?

『ギュッとしてもいいですか』

「え、えぇ。まぁいいけど…」

 叶に対するイメージから私が思ってたのとは違う反応。ちょっと、近い近い。鼻息荒いのやめてくれない?


挿絵(By みてみん)


 そんなこんなで無事に空港のロビーは通過。何人か知った顔の異能者がいたけど、変装のおかげで気づかれてはいないだろう。

 後はレンタカーを借りて、出発。ドライバーは元気に任せる。ちなみにフランスでは17歳から運転ができるのだけど、元旦生まれの司はまだ16歳だ。そんな感じで、一路モン・サン・ミッシェルへ。



 さて、クレア繋がってる?

『繋がってますよ、ビッグ…いえ、リトルマム』

 …真面目にしてよ。

『いや、すみません。ついつい』

 あんたフランスの戦闘員の居場所とか分かるの?

『全員は分かりませんが、把握しているだけなら。空港にも何人かいましたよ。目的地にもいますし、もちろん欧州支部にいる人も。あとは…』


 ルカにも情報共有しといてね。

『大丈夫です。もう共有済みですよ。あとですね…』

 ヒカル達は順調?

『本隊の3人は、後二時間ほどでフランス国境に到着します。予定通り行けば、それから一時間ほどで目的地です。あとですけど…』

 さっきから何?


『400m先で欧州支部が検問を敷いています』

 …おい。伝達遅いって。

『えー、ずっと伝えようとしてたんですよ?』

『でもマムの能力は局地殲滅戦向けですから、このくらい市街地から離れた方がやりやすいのでは?』

 相手次第でしょうけどね。


「皆聞いてる?多分戦闘になるわよ」

 叶の表情が強張る。…元気も表情が曇る。いや、あんたもかい。そう思うと、司はこういう時に本当に頼もしい。「さて」能力を展開して私はいつもの姿に戻る。『…あ』って残念そうな声を出す叶。いや、そっち気にするってあんたどんだけよ?


『…マイカ先生、ちょっといいですか?』

 司が元気に手を挙げた。表情は変わりなく落ち着いている。というか、楽しみなおもちゃを前にした子供みたいな、うずうずした表情だ。…元気はため息をついている。当然手は挙げてない。

『ちょっと、私から提案が』




 検問で待っていたのはSingularity No.08、シン。周囲の人間には知っている顔もちらほら。こいつらきっと全員異能者だろう。バタンとドアを閉め、私だけ車から出る。わらわらと車を取り囲むように10人ばかりの男女が出てくる。そして少し離れた高台にもう10人ほど。


『お待ちしてましたよ、お義母(かあ)さん』

「おかあさん、言うなっつーの」

「で、あんた達は何してんのよ?」

 うーん、と態とらしく考えるような素振りをして、シンは答えた。

『死体損壊の捜査です』

「…器物損壊の間違いでしょ」

『その辺りはPlantが言うに、<認識の相違>らしいです』



『Factorは、どなたがお持ちで?』

「…後ろの若いのが持ってるわ」

 そう言って司を指さす。司は重そうな箱を軽々と持っているが、当然偽物。本物はヒカル達の方だ。



『いいですね。ではこの先は行かせません、と言ったら?』

「…私達は世界で一番有名な修道院へ観光に行く途中なんだけど、邪魔しないでよ?」

『もっといい観光地をご案内しますよ、その修道院はやたらと遠いんですよ、マム?』


 

 バタン、バタンと扉が閉まる音がして、司、元気、叶が外に出てきた。変装してた面白メイクは取っ払ったようだ。

『マイカさん、お話通り叶と先行ってくれていいですよ』

『こいつは私と元気で抑えますから』

『え~。やるの?こいつと?怖いんだけど』

『死神なんて、元気の能力のお友達みたいなもんじゃない?』

 と言いながら、地面に置いた偽の箱をドスっと雑に置いて、その上に腰かける司。そして、くいくいとシンに手招きする。シンがFactorに心酔してる奴なら、激怒するところだけど…思ったよりそうでもないな。



 司がさっき言ってたこと…『Thanatos=シンが出てきたら自分たちで相手をする』と。『完封してみせます』だって。この台詞が自信過剰にならないくらいには、司の自己評価はいつも真っ当だ。そして、司自身の評価も能力‐Grace‐も、いつも私の想像を超えてくる。


「じゃあシンはあなたたち二人に任せるわ。後の有象無象は私と叶で相手したげる」「ね、叶?」

『えっ、じゃあ先生19人お願いします。私は一人だけで精一杯かな、と』 

 …叶。…こっちはいっつも自己評価低めなのよね。





『好き勝手言ってるけど、全員抑えるのが、ボクの仕事なんだよ。一人二人死んでも知らないよ?』

『Thanatosくん、君の相手は私達が務めるよ。箱も鍵も私が持ってるから、遠慮なくきたまえよ?』

『ちょっと、司。そのくらいにしとこうよ…』

 そして自信家の司に劣らず、煽りスキルが高い元気。

『あまり煽ると……可哀想だよ』



『は!イライラするペアだね!二対一なんて余裕、すぐ潰してあげるよ』



——————————————————————

 

 4時間前。フランス国境線上空。


『うっひょおぉへへへぁぁあああぁぁあ〜〜』

 ポイントに到達して間もなく、僕たちは座席ごと外に放り出された。ダメだ、落下していく編音のリアクションが面白すぎる。少し見ときたいくらい。自分のシートベルトをわざとゆっくり外していく。

『ひ、ヒ、ヒカル、むりむりむりむりむりむりぃぃ〜〜〜!』


 あまり待たせると可哀想だし、Factorのボックスが吹っ飛びそうだ。自分のシートを消して、編音を捕まえにいく。編音の座席のベルトを切って編音の両脇を抱える。この状況でもFactorをしっかり持ってくれているのは、さすがだ。


『うひー。助かったよぅぅぅ。怖かったよぉぉぉ』

 割とガチ泣きしてる編音。いたたまれず申し訳ない気分になった。いやホント、ごめん。そんなに無理とは思わなかった。なかなか泣きやまない編音を抱え、そのまま僕たちは西へ向かって飛んだ。


挿絵(By みてみん)


 ルカは少し先でパルクールでもするみたいに、空中をゆっくり落ちながら歩いて?いた。…神経反射ってこんなんだったっけ?



——————————————————————


 3時間前。パリ西北西100km地点。


 巨人化したマイカさんが地平線の向こうに見えなくなった頃。動けないように縛り上げた金髪のドイツ人に、頭から袋をかぶせる。能力を使えないようにするためだ。こいつの能力が発動しないに越したことはない。

「失礼しますよ、っと」


『Du Schwein!! : この野郎!!』

『馬鹿な!何なんだ、お前の能力は!?何で死なない?』

「知らないの?そっか。私もまだまだ無名なんだねぇ」

『悔しいなら、司もSingularityになればいいじゃん』

「だから、元気と一緒ならいいけど一人でなる気はないんだって、いつも言ってるでしょ」


『確か、シン君だったかな、君は殺したい相手を睨んで能力を発動するみたいだから、目隠しさせてもらったよ。恨みは特にないけど、ごめんね』

『な、お前、何でThanatosの発動条件を知っている!?』

『えっと…神のお告げ、かな』


「あぁ、そうだ。なんで死なないかって質問だったね死神くん?答えは、単純さ」

「<信じる者は決して死なない>」




「万能の恩寵に能力一つで挑むなんて。身の程知らずだよ、Singularity?」

Excusez-moi. すみません。失礼します。ちょっとお邪魔しますよ、的な。


アップ後で申し訳ありませんが、ルビとか修正しました。m(_ _;)m


金土日と祝日更新中。

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今週から試験的に、日曜もしくはハッピーマンデーなど連休最終日は18時更新にしてみます。

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