Box.67 相対
12月24日の夜。今日はクリスマスイブのはずだ。あー私、こんなところで一人で何してるんだろ。そんなことを考えてたら、タワーの屋根の上から観覧車を見た、去年のクリスマス、あの日を思い出してしまった。…楽しかったな。今年もまたどっか行こうって約束してたのに。あの時もらった指輪、攫われた時に着けてなかった。ロッカーの中に置いてきちゃった。……無くなってたらどうしよう。
この3ヶ月、クレアがヒカルや皆の言っていることを伝えてくれてた。でも向こうの声は聞けないし、顔は見れなかった。そういう能力じゃないから仕方ない。それくらい分かっている。Satelliteは私の感覚をクレアが共有する能力だから、私の声や見たものは向こうに届くけど、向こうの映像を私の視界に映す方法がない。
「会いたい」
「会いたいよ」
何度そう思っただろう。もう一回会えるのなら死んでもいいとさえ思った。死んでもいいなら一か八か、Particleを限界まで使って脱出しようとも思った。でも、出来なかった。もしParticleの邪魔をしている何かから出れなかったら、きっとそのまま私は私でなくなって、次の私にバトンタッチされる。それがイヤだった。
次の私がヒカルを好きになるかは分からないけど、それが自分でもヒカルは渡したくない。次の私がヒカルと会えても意味がない。——それは私じゃないから。
悶々と考えていたら、日が変わっても全く眠れそうになかった。あー、もう!暗闇の天井のシミさえも恨めしい。完全な八つ当たりで哀れなシミを睨みつけていると、石造りの部屋の梁から、パラパラと埃というか砂が落ちてきたことに気付く。地震?地震なんて起こったことないのに。
少しすると部屋の扉の向こう側で、ガン、ガンと何か金属がぶつかるような音がし始めた。何だろう?そう思っていると扉が丸く赤くなってくる。「…あ!」そこまで来たらさすがに気付いた。助けに来てくれたんだ。
「ヒカル!」
ガコン、と音を立てて開いた扉の穴から、黒い髪と顔が…覗かなかった。覗いたのは茶色い髪。
『リブ、迎えに来たわ。逃げるで!』
「………」
『………どしたん?』
「えー、ここでルカが来るの?ヒカルじゃなく?」
『…お前、ホンマご挨拶やのう。元気そうで何よりやわ』
ルカは心底微妙そうな顔をした。私としても感動の再会をイメージしただけに…微妙。でも、よく考えたらヒカルなら扉溶かしたりしないね。そのまま人型に穴を開けて入ってくるはず。
「ヒカルは?」
『心配せんでも、ちゃんと来とるで』
「どこにいるの?」
『…あいつは外や。Plantと燐のやつと睨み合っとる』
「戦うの?一人で?」
『戦うのは主目的やないけど、お前がここにおったらそうなるやろなぁ』
「分かった。逃げよう」
『よっしゃ。善は急げ、や!』
ルカが開けた穴から、私は3か月振りに部屋から出た。もうあの陰気な場所はこりごりだ。
「ここどこなの?」
『フランスのミッシェル何とかって島の地下やな』
『お前を封じるために作ったような施設や』
その時、頭に声が響いた。
『はーい。リブ、お邪魔しますよ』
クレアだ。
「クレアも手伝ってくれてるんだね。でも来るんなら、先に教えてくれてても良かったんじゃない?」
『伝えたらアナタ、嬉しくなって表情に出ちゃうでしょ?』
『マイカさんが伝えたらあかん、って言うとったわ』
「あ、そ」さすが母上。よく分かっていらっしゃる。
『そう、それはそうと』
『リブの解析だけでは分からなかったのですが、ルカ君と合わせて解析して分かったことがあります。何でアナタがParticleを使えないのか』
クレアが説明してくれたこの施設。対岸や衛星を含め、四方八方から照射されるマイクロ波を私に集積させる設備らしい。それで粒子の動きを阻害していたのか。しかも照射は私の動きに合わせて自動追尾。さながら癌を叩くガンマナイフだ。
『ってことで、自力で脱出しようとしなくてexactly right!です』
道理でずっと、なんか熱っぽくて気だるい感じだったわけだね。
「これだけ大掛かりな準備、すぐにはできないよね」
『どの道、リブの鹵獲は計画の一部だったんですよ』
『リブを無力化して普通の女の子にする方法なんて、よく思いつきましたね』
言われてハッとした。
『無敵のリブちゃんも…普通の女の子ですよ』
燐に言われたことを思い出した。ムカついてしょうがないけど、その通りだ。それにこの島にいる限り、私、戦えない。
「ルカ、どうやって出るの?」
『それやけどなぁ。真正面から桟橋に出てったら、橋の向こうには連中がおる。かといって反対は今の時間やと真冬の海や』
「なら、行くのは橋の向こうだよ」
走りながら、ルカが信じられないものを見るようにこっちを睨んだ。
『おいリブ、お前ワシの言うこと聞いとったか?お前逃がすんが仕事やねんぞ?』
「ヒカルがいるところに、私は行くんだよ!」
『なんやそれ?…ま、らしいっちゃらしいけどな』
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小島と本土をつなぐ桟橋の麓。僕はSingularity二人と相対していた。どういう理屈かなんてどうでもいいけど、海側からルカを投下してモン・サン・ミッシェルの対岸へ降り立つと、数分と置かず二人は現れた。
僕の後ろにはPlantを抱えた編音。僕らの仕事は、事前にモンサンミッシェルに落としてきたルカが、リブを探して救出するまでの時間稼ぎ。二人を殺すことじゃない。分かってる。
『久しぶりですね、ヒカル君、それと…誰でしたっけ?』
『Resonanceの編音ちゃんですよ。…珍先生♡』
『…燐ですよ。アヤネさん?』
『あんた天然かと思ってたけど、素で他人に興味ないんでしょ?センセイ?』
『…かもしれませんね』
「燐先生、Plant、リブを…迎えに来ました」
『Factorもここに持ってるよ』
ズン、と思い荷物を地面に下ろす編音。
「交換でもいい、と許可はもらっています」
Plantが漸く口を開いた。
『断る、と言ったら?』
「…そうですね。Factorは消しますし。それに」
分かってるんだけど…抑えられそうにないや。
「…お二人を殺します」
『そもそも、交換などせず、ただ奪われるとは考えなかったのか?No.09』
「それは有り得ないですね」
「知ってますか。リブは…強いんですよ」
突き出した右腕を粒子化する。右腕をそのまま裁断機に掛けたような大激痛が走る。でもリブもこの痛みを耐えている。なら、僕も耐えればいいだけだ。
『はっ!使えるようになっていたんですか?‐Particle‐』
『何だと?』
『覚悟しておいてください、Plant。彼は内に5つの能力を穫っている、化け物です』
リブを失うことに比べたら、どんな痛みも痛みのうちに入らない。自分の身が塵と砕けようとも、人を殺す罪悪感に苛まれようとも。化け物と呼ばれようとも。
「リブを連れ帰ることは、決まってますので」
僕はまた君に会いたいから。だから、僕はそれ以外の全てに耐えてみせる。
不憫なリブ。でももっと不憫なのはルカ




