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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす
中3編

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67/69

Box.67 相対

 12月24日の夜。今日はクリスマスイブのはずだ。あー私、こんなところで一人で何してるんだろ。そんなことを考えてたら、タワーの屋根の上から観覧車を見た、去年のクリスマス、あの日を思い出してしまった。…楽しかったな。今年もまたどっか行こうって約束してたのに。あの時もらった指輪、攫われた時に着けてなかった。ロッカーの中に置いてきちゃった。……無くなってたらどうしよう。

 この3ヶ月、クレアがヒカルや皆の言っていることを伝えてくれてた。でも向こうの声は聞けないし、顔は見れなかった。そういう能力じゃないから仕方ない。それくらい分かっている。Satelliteは私の感覚をクレアが共有する能力だから、私の声や見たものは向こうに届くけど、向こうの映像を私の視界に映す方法がない。


「会いたい」

「会いたいよ」


 何度そう思っただろう。もう一回会えるのなら死んでもいいとさえ思った。死んでもいいなら一か八か、Particleを限界まで使って脱出しようとも思った。でも、出来なかった。もしParticleの邪魔をしている何かから出れなかったら、きっとそのまま私は私でなくなって、次の私にバトンタッチされる。それがイヤだった。 

 次の私がヒカルを好きになるかは分からないけど、それが自分でもヒカルは渡したくない。次の私がヒカルと会えても意味がない。——それは私じゃないから。




 悶々と考えていたら、日が変わっても全く眠れそうになかった。あー、もう!暗闇の天井のシミさえも恨めしい。完全な八つ当たりで哀れなシミを睨みつけていると、石造りの部屋の梁から、パラパラと埃というか砂が落ちてきたことに気付く。地震?地震なんて起こったことないのに。



 少しすると部屋の扉の向こう側で、ガン、ガンと何か金属がぶつかるような音がし始めた。何だろう?そう思っていると扉が丸く赤くなってくる。「…あ!」そこまで来たらさすがに気付いた。助けに来てくれたんだ。

 

「ヒカル!」

 ガコン、と音を立てて開いた扉の穴から、黒い髪と顔が…覗かなかった。覗いたのは茶色い髪。

『リブ、迎えに来たわ。逃げるで!』



「………」

『………どしたん?』


挿絵(By みてみん)


「えー、ここでルカが来るの?ヒカルじゃなく?」

『…お前、ホンマご挨拶やのう。元気そうで何よりやわ』

 ルカは心底微妙そうな顔をした。私としても感動の再会をイメージしただけに…微妙。でも、よく考えたらヒカルなら扉溶かしたりしないね。そのまま人型に穴を開けて入ってくるはず。


「ヒカルは?」

『心配せんでも、ちゃんと来とるで』

「どこにいるの?」


『…あいつは外や。Plantと燐のやつと睨み合っとる』

 

「戦うの?一人で?」

『戦うのは主目的やないけど、お前がここにおったらそうなるやろなぁ』

「分かった。逃げよう」

『よっしゃ。善は急げ、や!』


 ルカが開けた穴から、私は3か月振りに部屋から出た。もうあの陰気な場所はこりごりだ。

「ここどこなの?」

『フランスのミッシェル何とかって島の地下やな』

『お前を封じるために作ったような施設や』


 その時、頭に声が響いた。

『はーい。リブ、お邪魔しますよ』

 クレアだ。

「クレアも手伝ってくれてるんだね。でも来るんなら、先に教えてくれてても良かったんじゃない?」

『伝えたらアナタ、嬉しくなって表情に出ちゃうでしょ?』

『マイカさんが伝えたらあかん、って言うとったわ』

「あ、そ」さすが母上。よく分かっていらっしゃる。


『そう、それはそうと』

『リブの解析だけでは分からなかったのですが、ルカ君と合わせて解析して分かったことがあります。何でアナタがParticleを使えないのか』


 クレアが説明してくれたこの施設。対岸や衛星を含め、四方八方から照射されるマイクロ波を私に集積させる設備らしい。それで粒子の動きを阻害していたのか。しかも照射は私の動きに合わせて自動追尾。さながら癌を叩くガンマナイフだ。

『ってことで、自力で脱出しようとしなくてexactly right!です』

 道理でずっと、なんか熱っぽくて気だるい感じだったわけだね。


「これだけ大掛かりな準備、すぐにはできないよね」

『どの道、リブの鹵獲は計画の一部だったんですよ』

『リブを無力化して普通の女の子にする方法なんて、よく思いつきましたね』


 言われてハッとした。

『無敵のリブちゃんも…普通の女の子ですよ』

 燐に言われたことを思い出した。ムカついてしょうがないけど、その通りだ。それにこの島にいる限り、私、戦えない。


「ルカ、どうやって出るの?」

『それやけどなぁ。真正面から桟橋に出てったら、橋の向こうには連中がおる。かといって反対は今の時間やと真冬の海や』


「なら、行くのは橋の向こうだよ」

 走りながら、ルカが信じられないものを見るようにこっちを睨んだ。

『おいリブ、お前ワシの言うこと聞いとったか?お前逃がすんが仕事やねんぞ?』

「ヒカルがいるところに、私は行くんだよ!」

『なんやそれ?…ま、らしいっちゃらしいけどな』




――――――――――――――――――――




 小島と本土をつなぐ桟橋の麓。僕はSingularity二人と相対していた。どういう理屈かなんてどうでもいいけど、海側からルカを投下してモン・サン・ミッシェルの対岸へ降り立つと、数分と置かず二人は現れた。

 僕の後ろにはPlantを抱えた編音。僕らの仕事は、事前にモンサンミッシェルに落としてきたルカが、リブを探して救出するまでの時間稼ぎ。二人を殺すことじゃない。分かってる。



『久しぶりですね、ヒカル君、それと…誰でしたっけ?』

『Resonanceの編音ちゃんですよ。…珍先生♡』

『…燐ですよ。アヤネさん?』

『あんた天然かと思ってたけど、素で他人に興味ないんでしょ?センセイ?』

『…かもしれませんね』



「燐先生、Plant、リブを…迎えに来ました」

『Factorもここに持ってるよ』

 ズン、と思い荷物を地面に下ろす編音。

「交換でもいい、と許可はもらっています」

 Plantが漸く口を開いた。

『断る、と言ったら?』




「…そうですね。Factorは消しますし。それに」

 分かってるんだけど…抑えられそうにないや。

「…お二人を殺します」

 


『そもそも、交換などせず、ただ奪われるとは考えなかったのか?No.09』



「それは有り得ないですね」

「知ってますか。リブは…強いんですよ」

 突き出した右腕を粒子化する。右腕をそのまま裁断機に掛けたような大激痛が走る。でもリブもこの痛みを耐えている。なら、僕も耐えればいいだけだ。



『はっ!使えるようになっていたんですか?‐Particle‐』

『何だと?』

『覚悟しておいてください、Plant。彼は内に5つの能力を穫っている、化け物です』




 リブを失うことに比べたら、どんな痛みも痛みのうちに入らない。自分の身が塵と砕けようとも、人を殺す罪悪感に苛まれようとも。化け物と呼ばれようとも。




「リブを連れ帰ることは、決まってますので」 

 僕はまた君に会いたいから。だから、僕はそれ以外の全てに耐えてみせる。

不憫なリブ。でももっと不憫なのはルカ

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