Box.66 奪還計画
リブの鹵獲から一ヶ月が過ぎた。その間、クレアはずっと日本にいてくれた。さすがにアメリカにはもうバレてるとは思うけど、向こうの仕事は問題なくやってるし、クレアがいてくれるおかげで、短時間だけどリブと毎日のように話ができるのは、ありがたい。
リブの顔をみようと思ったら、クレアと編音の2人でやらないといけないし、こちらの映像を送ることは出来ないから一方通行ではあるけれど、僕もリブも随分救われていると思う。
この一ヶ月、僕は何度か一人でフランスまで行こうとしたけど、その都度説得、阻止されてきた。
『あんた、取り敢えず乗り込んでって島を吹っ飛ばそうと思っているでしょ?別にこの際、それ自体はどっちでもいいんだけど、モンサンミッシェルを壊すのに賛成する人はいないわよ?』
『ヒカル、Plantはあの島自体の観光はそのままKeepしているんだ。人払いなんかしていない』
今日はマイカさんと、当然のようにSingularityの集まりにいるクレアに諭された。クレアの日本語はこの一カ月でまた上手くなっている。それにしても現状、建物自体も観光客も人質みたいなものだ。そしてリブも心配だけど、最大の懸念はPlant達の要求。Factorの移管だ。
「Factorは移送するんですか?」
『最悪その準備はしている。望ましいとは思わないが向こうの要求を完全に無視もできん』
入院中のタローさんは病院から通信している。全身火傷だったはずなのに、もう大した傷もないように見える。
『私たちとしてはFactorを渡すフリをしながらリブを回収、Factorも渡さないってのが理想ではあるわ』
『ただ安全な移送ってなると懸念ばっかりよ。伊達や酔狂で地下に封印してたわけじゃないの』
『Factor因子を封じつつ、運搬となると多量の電力と多層による水封が必要だ。その容器も作製中で、まだしばらくかかる』
『更に輸送中にその容器が壊された場合、近くのものは確実に因子に感染するだろう』
『PlantがFactorを求める理由って、Factor因子を自分のものにしたいから、でしょう?』
それを使ってPlantは何をしたいんだろう。
『過去のPlantの言動からすると、Factorというより彼の能力——感染者、ひいては異能者を増やすこと自体が目的かもしれません。少なくとも私とUSはそういうconsensusです』
『となると、Factorを移送させた上でどこでもいいから容器を破壊することで、彼らのmission達成になってしまうことを懸念します』
『プランBぐらいならあり得る話よね』
クレアの立ち位置は僕たちとは微妙に違う。あくまで彼女が手伝ってくれるのは、リブの奪還。アメリカとしてはFactorが日本と欧州どちらにあっても構わないという立場だ。ただ徒にリスクを冒して移送することに反対している、ということになる。
タローさんたちの見立てでは、容器の準備にあと三週間。安全性の実験、実証のために更に一ヶ月の猶予が必要とのこと。
『これが我々の出来る最短、だ。リブには耐えてもらうしかない』
『アメリカも拙速な行動は支持しないだろうしね』
「…仕方ないです。分かりました。リブにはどのように?」
『次通信する機会があったら、私から伝えるわ』
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季節は流れ、12月初頭。マイカさんがうちのクラスを中心にしたメンバーを招集した。
『では奪還チームメンバーを発表するよ』
『まずはリーダーはヒカル。これは本人が聞かないから仕方ないね』
「みんな、これだけは譲れないんだ」
『まぁ誰も異論はないと思うけどね』
『サポートはSatellite、クレアが入ってくれるわ』
『Secretでね。皆さん、しーですよ。』
『さすがにFranceに渡るのは、表沙汰になり過ぎるからJapanからサポートします』
「分かってるよ。ありがとうクレア」
『とは言え、ヒカルはFactorの輸送の担当で、本隊だけど見かけ上は別働隊になるわ。あとは運搬容器の駆動の関係で、編音は本隊よ』
「編音しか頼めない。ごめんね」
『いいよ。覚悟はしてる。みんなー私がFactorになっちゃったら、よろしくねー』
『不慮の事態の時は容器ごとFactorを処理するのもヒカルの仕事よ。…迷わず消しなさい』
「それだと交渉材料なくなっちゃいますよ?」
『まぁそんときは、きっとヒカルが島を吹っ飛ばすでしょうね』
『ってことは、本隊に見せかける別働隊は?』
『別働隊は司と元気の箱庭最強ペア。サブリーダーも司にお願いするわ』
『お任せください、マイカさん』
『陽動も仕事だから、大暴れしてもいいわよ』
『次、ルカ。地形の特殊性からあんた意外と肝よ?リブの捜索と救出。それも一般人っぽく。ルカもヒカルたち本隊に着いて行って、先行して島へ上陸よ』
『ワシが何とかせな、島が無くなってしまうわけやろ?』
「ルカがしくじったら、島ごと吹っ飛ばそうと思ってるよ」
『ワシごと、やろ?』
「きっとそうなるから、うまく逃げてよ?」
『怖いわ!』
『最後に、私』
「あ、マイカさん来るんですか?」
『何言ってんの。帰りが遅い娘は親が迎えに行かないといけないでしょ?』
『それに…殴り飛ばしたいヤツいるしね』
『メンバーは以上よ』
『待ってください!マイカ先生、私も連れて行ってもらえませんか!?』
叶が手を挙げる。二人は無言で視線を交わす。先に口を開いたのは叶だった。
『私もリブを迎えに行きたいんです』
『…死ぬかもしれないよ?』
『誰かが死にそうになった時、私なら助けられるかもしれません』
少し考えてマイカさんは答えた。
『…いいよ。じゃあよろしくね』
メンバーは僕、マイカさん、司さんと元気さん、叶と編音、ルカ、あと日本に残るけどサポートとしてクレア。
『突入に際して、皆にはヒカルのバリア耐性をつけてもらいます』
『あー、前ん時のアレかいな』
『ルカは見てたわよね。じゃヒカル説明してあげて』
え、説明するの?僕が?頷くマイカさん。
「えー。まじめに恥ずかしい話するけど…」
「マイカさんの計測によると、僕とキスすると48時間ぐらいバリア能力が無効になるらしいんだ。血液を飲めばもう少し。摂取量は持続時間とは関係ないそうだよ」
『ヒカルとキスするなんてやだ』
そりゃそうだよね。
『お前の爪の垢でも食った方が億倍マシやわ』
『…鍋のシェアくらいなら、良いけど』
『あーなるほど。それならイケるわ。ナイス叶』
『それがねぇ、加熱したらダメみたいよ』
『そこでヒカルの血を混ぜた葡萄ジュース』
『巨人になりそうな飲み物、だね』
「これを決行の前日に皆飲んじゃって。ちょっと気持ち悪いと思うけど、キスするより良くない?」
いや、キスしたいと思うわけじゃないけど、もう少しなんか言い方ないのかな。
『ミーはキスでもOKですよ?』
『…!?』叶が目を見開いている。
「いや、クレア留守番なんだから関係ないでしょ!」
『観光客の被害を最小化するために、決行は12/25、モンサンミッシェルの休館日とします。出発は前日24日よ。Are You Ready?』
『あ、当日はイヤホン忘れないようにね』
マイカが持っているグラス、ワインボトルにすると画像生成に引っかかるのはなんでだろう。




