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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす
中3編

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63/69

Box.63 無限

 どうしようかな。私の-Particle-は体を粒子化すれば、IDカードなんか無くてもあらゆる隙間を透過出来る。そうすれば偵察なんて楽勝。エレベーターのドアの隙間ぐらいなら問題なく通過できる。でも問題があるのは…服は粒子化できないこと。要するに、


「今着てるドレスをどうしよう?」


 …まぁいいか。女は度胸だ。ぼやかしておけば、どうせ何も見えはしない。さすがにヒカルには『誕生日と仮からの卒業おめでとう、ちょっと行ってくるね。楽しんで』とだけ伝えて、更衣室へ向かう。


 あぁは言ったけど、抵抗が無いわけじゃない。大きく息をつき…ドレスの脱ぎ方が分からないので、そのまま服の外で体を再構築した。

 二人はどうせ最初はAt-Randomのお墓へ行くのだろう。そこなら場所は分かる。



 懇親会をしているバルコニーと、お墓のある管理棟は別棟。渡り廊下で徒歩なら10分程度。車いすで移動する、と言っていたから倍の時間はかかるだろう。十分追いつける。

 頭部を粒子化できるのは、余裕を持って1分。管理棟までなら一息で行ける。その後は…姿を隠す場所を転々としていくしかない。本当の意味で体を隠さないと。


 

 窓に向かって飛び込む。粒子化した体は、窓ガラスを割ることなく、夜の闇に迎え入れられた。体が箱庭の人工の夜空に、夜の空気に運ばれていく。外の世界とは違うから、あまり極端な暑さはない。心地よい夜風だ。ちょっと表現に困るけど、風にそよぐ粒子になった体が、石畳の上に『着地』する。走るでもなく飛ぶでもなく、無いはずの脚にくっと力を入れると、体は徐に流れるように運ばれていく。

 


『痛くないの?』

 ヒカルは以前聞いてきたけど、こうなってしまえばもう痛みはない。むしろ一分間の楽園:パラダイスだ。全身が世界に溶けて、全てが私になったような万能感と多幸感。無限に広がる私。危ないからあまりしないけど、癖になりそうなんだよね。これ。


「…いた」

 目も耳もないんだけど、『無限の私』は周りの状況が手に取るようにわかる。…あ、手もないんだけど。橋を半分ほど渡ったところに二人はいた。そのまま二人を追い抜き、管理棟に入る。

 追い抜いた瞬間、目が合ったような気がして、思わずPlantの表情を見た。相変わらず眼光は鋭い。けど、少し緊張…してるのかな。眉間にしわが寄っている。…見えてるわけ、ないよね。


 管理棟に入り、カーテンの影で体を再構築して小休止。先に行って待っててもいいんだけど、二人の会話も聞いておきたいよね。


 5分ほどすると、扉が開いて二人が入ってきた。少しずつ二人の声が聞こえてくる。

『こちらの棟に入ってすぐのピロティ―にAt-Randomの墓地兼慰霊碑があります』

『残念ながら遺体は燐が焼却してしまったので。残っておりませんが』

『Hmm. Conformément aux coutumes japonaises, vous l’avez donc fait incinérer. :ふむ。日本人の慣習に則り火葬に付したわけだな』

『少し強火でしたがね』

『Ha ha ha. Cela ne fait aucun doute. Factor se trouve également dans ce bâtiment ? :ふふふ。間違いないな。Factorもこの棟におるのかね?』

『極秘ではありますが、その通りです。At-Randomの生前の意思で、自身の遺体と同じ場所に安置するな、とのことでしたが、遺体が無いので同じ棟、としました』

『Je vois. :なるほどのう』

『Ne pourrais-je pas voir son visage ? :顔を見ることはかなわんのか?』

『…まずはAt-Randomの元へ向かいましょう』



 仏語の勉強をしておいてよかった。翻訳イヤホンもつけれてないからね。それにしても、Plantはどうにも墓参りなんてのは言い訳じゃない、って感じがする。あわよくばFactorの所まで行こう、という魂胆が透けて見える。タローどうするつもりなんだろ?仮に私が捕まっても、IDカード持ってきてないから、入れないけどね。



 2人は建物に入って正面の慰霊碑に向かった。そう言えば、去年造られた銅像があったなぁ。あれ誰かと思っていたけど、At-Randomだったんだ。筋骨隆々だったから気づかなかった。勿論、元気なころにも会ったことはあるんだろうけど、私の記憶のAt-Randomは意識もなく、ベッドに寝ているやせ細った人でしかない。


 数十秒の黙祷を捧げ、二人はまた話し始めた。思い出話のようだった。


『L'homme légendaire qui a affronté à lui seul 40 individus dotés de pouvoirs, hein ? :たった一人で40人の能力者を相手取った、伝説の男、か』

『えぇ。Factor討伐の際、彼は一人ですべての仕事を行いました。罪も責任も後始末も全て、背負ったのです』

『 Je n'y étais pas, donc ce ne sont que des ouï-dire. :儂は参加していなかったからな。すべては伝聞じゃわい』

『私たちも現場の外にいただけでした』


『彼はFactorを封印した後、我々の負担を少しでも減らそうと、自らの力を削ぐために自らの両腕、片脚をへし折ってから眠りにつきました』

『Je connais bien la force de sa volonté. Il fallait une détermination sans faille pour accomplir une telle chose. :彼の意志の強さは、わしもよく知っておる。生半可な覚悟で、あれは出来ん』

『彼がその覚悟で繋いでくれた、三年という年月は、我々にとっても得難いものでした』

『私達は、彼の覚悟を後世に継いでいく義務があるのです』

 

『Taro, trois ans, c'est un temps précieux, même pour moi. Tu comprends, n'est-ce pas ? À quel point il est difficile, pour quelqu'un qui a vécu cent quarante ans, de vivre ne serait-ce qu'une année de plus. :タローよ。三年という年月は、儂にとっても得難い物なのだ。分かるだろう?140年生きた者にとって、それからの1年が、いかに困難なものか』

『Allons maintenant sur la tombe de l'autre Singularité. Vous ne vous y opposerez pas, j'espère ? :さて、もう一人のSingularityの墓にも参ろうぞ。よもや反対はするまいな?』


『…構いませんよ。Singularityの訪問を制限する規則はありませんので』



 二人は奥のエレベーターに向かい始めた。ここからしか箱庭最深層へは行けない。先回りしてエレベーターの屋根裏にたどり着く。ここなら二人の会話が聞こえる、と思ったら、機内では二人とも不気味に沈黙していた。


 エレベーターは5分程かけて下り、ゴウゥン、という重苦しい音とともに最深層に着いた。扉が開く。薄緑の淡い光がエレベーターの反対の壁から漏れる。Singularity No.3 Factor保管区画。ここは箱庭の最重要機密施設。


 ここからは、中央にある通信用デスクの他はFactorの保管容器の前に遮光カーテンがあるくらいで身を隠すところがない。さすがに遮光カーテンの後ろに立ってたら、影絵みたいで丸見えだろうし…。


 あ、そうだ。デスクの引き出しの中で、頭だけ構築しとけば良いんだ。デスクは部屋の真ん中にあるし、声も聞こえるだろう。私賢い。早速体を粒子化して机の中にダイブ!…しようとしたら、Factorの光がちらついている。


 …?……Factorの前に人影? 

 !!…先に誰かいる!?


『お待ちしておりました、タローさん』

『何故ここにいる、燐?』

 …タローの声だ。…燐?


『…えっと何故ここにって質問ですね。…旧交を温めに、ってとこですかね』

『…そうか。では直ちに懇親会へ戻ろうか』

 ゆっくりと立ち上がり、燐の傍にPlantが立つ。


『Tu comprends, n'est-ce pas, Taro ? Les trois Singularités sont réunies. Alors, tu vas nous remettre le Factor, n'est-ce pas ? : 分かるだろう?タロー。三人のSingularityが揃った。我々にFactorを渡してもらおうか?』

『Je ne souhaite pas recourir à des mesures drastiques. Il suffit que sa gestion soit transférée de la branche japonaise à la branche européenne. : 手荒なことは本意ではない。彼の処遇を日本支部から欧州支部へ移管してくれればいいのだ』


『私が暴れるだけで、この部屋は破壊されます。Factorの封印も崩壊するでしょうね。どうしますか?』

『…燐、いつからだ?』

『そうですね。私がSingularityになる前…つまり、最初からです』

『IDカードを貸してください。すぐに返しますから』


『…断る』

『…Pardon ?』

『エティ翁、燐。意見の相違だ。であるなら、建設的な話し合いをしようではないか』 


 タロー、ここでやるつもりなの?Plantの強さは分からないけど、ContraはSingularity最強のはずだ。彼一人だけでも相手するのは荷が重いはず。…まぁ、私以外なら、だけど。

 …あーあ、ここまでだね。後で怒られるなぁ。



「タロー。困ってる?」デスクの引き出しから出て、頭上から声をかける。

『…リブか!?』

 遮光カーテンを引きちぎり、体に巻きつける。布地に適当に穴をあけて腕を通しながら、タローのすぐ脇に降り立った。


挿絵(By みてみん)


『…トーガですか?』

『リブちゃん、ずいぶん洒落たドレスですね』

『Je n'aurais jamais imaginé que tu me suivrais jusqu'ici. :まさか着いてきていたとはな』


 両手の指を、10本の鞭に変化させて構える。

『Grand-père Étienne, la situation a changé. Il est encore temps de t'arrêter, tu sais ? : エティエンヌおじい様、状況は変わりました。止めるなら今のうちですわよ?』


『Si tu arrêtes maintenant, je te laisserai t'en tirer avec une fessée infinie ou des chatouilles infinies, d'accord ?』



 -今なら無限お尻ぺんぺんか、無限くすぐりの刑で許して差し上げます、よ?-

リブが仏語喋れる設定、って少々無茶なのですが、ここでPlantと話せないといけないので、まぁ喋れてもいいよね、って感じで押し切ることにしました。仏語喋れるんなら、英語なんて余裕だよね、というメタ的な調整がSatellite編から続いています。ま、そんな子もいるよね!



次回、過去最長の文字数になってしまった、頂上決戦。

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