Box.62 No.02 Plant
4/2の私の就任式から5ヶ月余り。今度はヒカルの番、つまり9/9が来た。金曜日だけど、今日の授業は休み。特に誰も仕事は入ってなさそうだから、皆就任式に参加している。巧も久し振りにこっちに来たから、新学年に入って初めて、クラス全員集合になった。
『リブ、4月の君の就任式はごめんよ。どうしても外せなくて』
「いいのいいの。どうせあの後すぐ、ヒカルは任務に行っちゃったから懇親会みたいなのなかったし」
『それでも遅ればせながら、お祝いは言わせてよ。おめでとうリブ』
「ありがと。ヒカルにも伝えたげてね」
『もちろん。…でもびっくりしたよ。今日、まさかあの人がプレゼンターなんて、ね』
「そうね。まさか来るとは、だし、正直言ってまだ生きてるんだ、ってレベルなんだけど…」
知らされているプレゼンターは、−Plant−、Singularity No.02。本名Étienne Moreau「最古の異能者」とも言われる、御年147歳。ぶっちぎりの世界最高齢記録保持者で、当然ながら目下記録更新中の人物だ。
17時、予定の時間通りに会場に着いたPlantは、手を上げ周囲の喧騒に応えながら来賓席にゆっくりと近付き、さらにゆっくりと座った。枯れ枝のような見た目。奇跡的に歩けこそするが、走れるとはとても思えない。だけど、欧州を箱庭開設以降15年に渡り、ほぼ一人で守ってきたのは確かだし、表沙汰になってないだけで、きっと100年以上活動してたはずだ。落ち窪んだまぶたの奥で目線はなお力強く、手の震えもない。
来賓席はそのままSingularity一団が座る席だ。私の席はPlantの隣。反対側はタローだ。
『まさか来てくれるとは思わなかったですよ、エティ翁』
タローが恭しいのは珍しい。
『ふほほ。移動自体はさほど苦ではないのだよ。まぁヨーロッパから出たのは半世紀ぶりかの』
二人は同時通訳のイヤホンで会話をしている。私はいらないけど、まぁ使おうかな。
『今回は、At-Randomの墓参りを兼ねてな』
『なるほど。創玄の墓地は、慰霊碑として施設内に設けてあります。後で案内しましょう』
『後は…儂を始末してくれる、若いのを見とこうと思っとる。No.07とNo.09を、な』
『ははは。150歳も近いとなると、そういう考えになりますかな?』
『シンは…普段から一緒におるからえぇ。クレアはアメリカから出て来れんじゃろ?だからわしを始末するとすれば、No.07以降であろう?』
『御冗談が過ぎますぞ?見たところ、まだまだご壮健であられる』
…まぁ完全な冗談でもないと思う。死期が遠くないってのは、そうだと思うし、強力な能力者が死を迎える時に警戒が必要なのは、イヤと言うほどみんな分かっている。覚えてないけどAt-Randomの時みたいに、Singularityが集結することになるんだろう。
『おおそうじゃ。リブよ、Singularityの正式な就任おめでとう。4月には来れんで悪かったな。今回はシンが留守を守ってくれるから来れたのじゃ。悪く思ってくれるなよ?』
「Merci. Vos gentilles pensées me touchent beaucoup. Cela fait longtemps, grand-père Étienne. Je suis contente d'apprendre que vous allez bien. : いえ、お気持ちだけで十分ですよ。お久しぶりです。エティエンヌおじい様。お元気そうで何よりです」
『あぁ、あのリブがまともな挨拶をしている…!』
わざとらしくマイカちゃんが泣きまねをして冗談を言う。
『しばらく見ないうちに、リブもすっかり淑女になったものだのぅ』
「Eh oui, c’est tout le fruit de l’éducation de ma mère, Maika.: えぇ、母マイカの教育の賜物ですわ」
にっこりと笑いかける。
『まさに殺伐とした荒野に咲く一輪のエーリカの花のようだ』
『確か…ドイツの映画でしたわね。リブが花だとして、私は荒野の方かしら?』
マイカちゃん、ちょっと、ストップストップ。そんなこと言ってないよ!
「…Voyons, grand-père. Vous êtes français, pas allemand, n’est-ce pas ?: 嫌ですわ。おじい様はドイツではなく、フランスの方でしょう?」
ドイツはシンの国だ。昔から私とシンをくっつけよううとしてくるのは何なんだろう。
あぁご機嫌をとるのは大変だ。
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…二日前。私とマイカちゃんはタローに呼ばれた。
『…Plantが来る』
また白髪が増えたのは、そのせいかどうかは知らないけど、タローは苛立ちを隠さずに言った。
『え!?…あの爺さん何しに来んの?死にたいの?』
『それは、まぁヒカルの祝賀だろう』『表向きは』
『…本音は?』
『…Factorの現状確認だろうな』
『やっぱりそう思う?』
『PlantはFactorを強く取り立てた人物だ。後ろ盾だったと言ってもいい。何か思うところがあるのかもしれん』
『思うこと、ね。年寄りの執着なんて、どうせ碌なもんじゃないわ』
「執着…」
「ねぇ、Plantってシン程じゃないけど、私に執着してそうなんだけど、それってFactorと関係がある?」
マイカちゃんの眉がピクッと跳ね上がる。
『リブ、念のために言うけど、あんたの父親がFactorだ、なんて根拠はどこにもないからね』
「…分かってるよ」
『リブのParticle、こと不老不死に興味があるのかもしれん。…何にせよ高齢だ』
『Factorの管理区画に入ろうなんて言わないでしょうね?』
『PlantがFactorを見たいと言えば拒否はしにくい。我々は対等だからな』
『あちらにも権利はあるってことね』
『幸い管理区画のロック解除にはSingularity3人のIDがいる。今回シンは来ない。よって私が一人で相手をすれば、ドアは開かない』
『敢えて隙を見せれば得られる情報もあるかもしれない』
『取り敢えず、2人はPlantの機嫌を損ねないように気をつけてくれ』
『燐はどうするの?』
『あいつとPlantを二人にさせることは念のため避けたい。疑うわけではないが、あいつは欧州支部が長かった』
『何かPlantと通じているかも?』
『…念のため、だ。あいつには式典の間、東京で待機してもらうようにする』
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『ではヒカルくんに登場してもらおうかの』
『皆、拍手を』
盛大な拍手の中、ヒカルが壇上に上がる。ヒカルの歓迎会の時の映像をふと思い出した。あの時よりは身長も伸びて、見た目はちょっとマシだけど、相変わらず緊張してる。
これから先、挨拶させられることなんて、いっぱいあるよ。私はすっかり広告塔にさせられているしね。これからはヒカルと二人で、だね。箱庭の未来を担う、若きエースカップル……イイね。想像すると口角が上がって、にやけてしまう。
ヒカルの挨拶が終わった。天然くんは私との馴れ初めでも語るかと思ってたけど、私に対してはさらっと感謝の言葉だけだった。今日だけは赤っ恥かいても許したげようと思ってたけど、肩透かしだなぁ。
Plantに認定証とIDカードを渡され、
『新たなSingularity、No.09にもう一度拍手を!』との掛け声で再度万雷の拍手が沸き起こり、会は一旦お開きになった。本来ならここから懇親会なのだけど…。
タローとPlantが話してる。
『では参りますか』
『そうしよう。長距離は堪えるから車椅子をお願いしてもよいかな?』
『押しましょう』
どうやら予定通り、2人で行くみたいね。
さて、と。私はどうしようかな。ヒカルのとこにはいっぱい人がいるし…。ご飯は惜しいけど、こっそりついて行ってみようかな?
必要以上にリブがつまらなさそうなイラスト。本来はもう少し隠さないとダメですね。Plantの風貌はもう少し老人にしたかったのですが、なかなか難しいようです。
表現上の補足
今回のストーリー主体はリブですが、イヤホンをつけて会話をしているので、Plantの声は日本語で聞こえています。で、フランス語が話せるリブはフランス語で話しているので、リブのセリフがフランス語、一方Plantのセリフが日本語になっています。
一見正しい言語と逆になってますが、意図としては合っています。




