Box.61 D+
Satelliteが衛星で撮影していたらしい、アメリカで起こったバッタ災害の映像をクラスで見た。もちろんヒカルの新技も。正直、あれは反則やと思うわ。一瞬で広範囲を巻き込んで中のものを完全に消滅、巻き込まれたら防御もクソもないとか、えげつない爆弾やでアレ。あんなんどうやって対処したらええねん。わけわからんわ。
『いんやー、クレアから聞いてたけど、すんごいねこれ』編音がデータの出どころやな。
『そうね。これを今後の作戦に導入するなら、発動までのチャージ時間と、何発打てるのかは聞いておかないと、ね』
『追い込んでドカン、が最適回かなー?』
『多分、ヒカル君がここに来る前に学校を吹っ飛ばしたのは、これだったのよ』
『こんな能力を内に秘めていたなんて驚きだけど』
…カナエがこのこと、知ってたみたいに冷静な方
が驚きやわ。
あんなもん見せられたら、なおさら意識してまう。…あれがSS+ランク-Trash Box-。
片やワイの―Transcendence—超反応能力は、ランクD+に過ぎん。努力を重ねても、とんでもない超常現象が起こせるわけやない。そもそも身体能力強化っちゅうのは評価が低いんや。
プロの格闘家レベルなら大活躍もできるやろけど、箱庭が相手にするのは、最低でも腕が伸びたり火を吹いたり、ワープしたりする格闘家、ステゴロのフリした完全武装した特殊工作員や。
「…イヤになるのぅ」
『何が?』
日本に帰ってきたヒカルが何の嫌味もなく言う。お前がイヤになる原因の一つや。自覚して欲しいわ、ほんま。
「あないな爆発、箱庭の中で使わんとけや?」
『分かってるって。あれすっごいエネルギー使うから、そもそもあまり撃てないし』
「なんや、充電がいるんか?」「ラーメンでもおごったろか?」
『食べ物じゃなくて、さ』
『ほら、あの時々やってる、核廃棄物処理のエネルギーだよ』
「お前、あのエネルギー貯めこんどんか!?」
『貯めてるつもりはないんだけど、あの能力自体が、エネルギーを貯め込んで爆発させるってものらしいから、勝手に貯め込んでる…的な』
「そんなん貯め込んで、体大丈夫なんか」
『Satelliteが調べてくれたけど、あの爆発の後も外に放射線が漏れたりはしてないから、大丈夫だよ』
…お前の体、どななっとん?
『あ、ルカ。アメリカのお土産〜』
リブが無邪気に渡してきたのは…虎のぬいぐるみ。見渡すと大和はゴリラ、ハヤトは獏、プリヤは孔雀が配られとる。こいつら動物園でも行っとったんか?
まぁ何にせよ、お前ら2人で世界を滅ぼせそうなパワーカップルとは、住んどる世界が違うわ。悩んでもしゃあない。ワシはワシの能力でこの世界を生き抜かなあかん。
『ルカのタイム…9…9.36!』
箱庭の学生も、義務教育の範疇。文科省の指導する体力チェックはやらなあかん。100m走のタイムを梓が読み上げる。9秒36。…あかんわ。伸び悩んどる。
『これ、オリンピックレコードよりずっと速いんだけど?異能者って身体能力は普通、ってのが通説よね』
「んなもん、能力でスタートの反応が速いだけやわ」
『そりゃ確かにフライングよりも早く出てるんだけど…その分足しても、9.5を切ってるわよ』
「そんなん、少々はよ走れるくらい、空飛べるやつからしたら、何も意味ないわ」
こんまい頃に地域の競技会に出たとき、フライングばっかで失格になったんを思い出すのう。元々ちまちましたのはワイには合わん。何にせよ、なんぼ必死にやっても評価もされずに失格にされるのは、幼心に大分堪えた思い出やな。
『でもあんた、去年フルマラソン2時間くらいだったでしょ?』
あートレーニングの一貫で、市民マラソン的なやつに出たか。梓は相変わらずよぅ覚えとるわ。
「…覚えとらんのう。ペース何とかってのを抜いて、一番でゴールしたんは覚えとるわ」
『ペースメーカーね。別に抜いても問題ないんだけど、ゴールの準備もまだできてないくらい速すぎて、誰にも気づかれずにゴールしたわよね』
『で、反復横跳び…192回。何なのこれ?』
「それこそ能力そのままや。反射反応こそ、わしの能力やろ」
『まぁそれはそうなんだけど』
『次のシャトルラン…何?この計測終了って?』
「2時間くらいして、機械の録音が終わったんや」
『2時間…あんた今日フルマラソン走ったわけね』
『この、立ち幅跳び…520cm?』
「あぁ、それな。うまいことやったら、空中で一歩踏み出せるんや」
『…はぁ!?…あんた漫画に出てるの?』
『ボール投げは、85m…これだけ人間の記録ね』
「小さいボールなら、もっといけんねんけどな」
『…え、まさかこれハンドボール?……前言撤回するわ』
半ば呆れながら、マイカ先生にルカのレポートを提出する。
『あいつ、自己評価低いのよねぇ』
異次元の数値が並ぶレポートを見ながら先生は言う。
『このまま提出したら、ふざけてると思われるわ』
「そう思われるから、どうしてるんです?」
『数字を普通の人ぐらいに改竄してる』
『そうしないと各方面から色々言われて、再提出になっちゃうんだもん』
「…真面目に評価すると、どんな感じなんです?」
『確かに能力ってとこでは点数がつかないんだけど。身体能力ならSSSSSぐらいよ。あんなやつ見たことない』
やっぱり。そもそもルカは、落ちてくる瓦礫から瓦礫へ飛び移ったり、崩れる建物の外壁を屋上まで駆け上がったり、空中で更にジャンプできたりする。なのに自己評価が低い。自分のことを下の下ぐらいに思っている。彼はそんな人間が他にいるとでも考えているのだろうか。
『身体能力のおつりだけで、食ってけるレベルよね』
「ねぇ先生?彼のランクが上がらないの、レポートが正しい数値じゃないからなのでは…?」
ルカくんの身体能力が凄い、という話でした。
次回から新章。




