Box.60 SSR
『マイカちゃん?私とヒカルがアメリカにいる間にトラブル起こって、Satelliteが私たちを頼ってくるって、たまたまなの?』
二人の帰りの飛行機からの定時連絡だ。Satelliteとは上手くやったみたいで。
「タマタマに決まってるじゃなーい」
「いくら私でも、そこまで予知できるわけじゃないわー。Locustが3月に亡くなってたのは、知ってたけどね」
『あのさぁ…Si ça tourne mal, tu devras en assumer la responsabilité !』
…フランス語?…わっかんないんだよねぇ。どこで勉強してるのやら。
でも、語学力では負けるけど、今回の私の読みは天才的。バッタの繁殖スピードを計算に入れて災害時期を誤差1週間以内で当てれるなんて。
去年の国防軍の事例を教訓にして、対処しといてよかった。前回も大概だったけど、今回のLocustの事例と合わせて、2つの教訓を得た。
一つ、能力によっては、災害は死後の時間差を置いて起こることがある。前回は<リンクしていた能力者の死>という状況を共有した能力者が、本来起こるはずのないFactor化のトリガーを発動、さらに逆流するような形で連鎖的に計4人に変質が起こった。今回は、純粋に能力自体は発動したけど、バッタがいない季節だったから、事象が起こるまで時間差があった。
二つ、遅れて起こる反応にはどうも帰巣本能的なものが見受けられる。前回の4番目もどこかへ逃走しようとしていた。方角だけで言うなら、自身の故郷の方向へ。今回もバッタの群れは最終的に、LAにあるLocustの埋葬された墓地を目指していたと予想されている。
ただ、Factor化や災害のバリエーションが多彩になっている感は否めない。これも偶々だろうか。誰かが意図した通りになっていなければいいんだけど。
いずれにせよ、No.06、07、09の連携は確認できたし、情報の共有もできた。私達の下の世代がちゃんと機能していることは喜ばしい。 No.08…シンは、知らない。アイツとリブ達は連携なんて永久に取れないだろう。お役御免にして南極ででも活動していてくれればいいのに。
でもねぇ。そうも言ってもいられないんだよねぇ。今日も今日で、Factor様は私達に迷惑をかけてくれている。ヒカルもリブも空の上だ。仕方ないな。
秘匿回旋で国際電話をかける。接続先はUS。
『Oh yes, my lord, Miss No.04? :はい、我が主、No.04?』…Miss…嫌味か?
「Hey, Claire!—This is a bit sudden, but I have a favor to ask. Could you help out with some of our work? : やあ、クレア!突然だけど、頼み事があるんだ。君のところでウチの仕事を手伝ってくれないかな?」
『Oh, right. He’s still on the plane, isn't he? : あぁそうね。彼はまだ飛行機に乗ってるもんね?』
「…Liv, too. : リブも、ね」
『Of course. I know. Are any of his classmates on the team this time? : もちろん、知ってるわよ。今回の任務に彼のクラスメートはいるの?』
「I suppose so. Their classmates, yeah. : そのつもり。彼らのクラスメートもいるわ」
…あれ?なんか不穏なものを感じるわね。
「Would it be alright if I teamed you up with one of their outstanding classmates—as well as another girl whose compatibility with your abilities I’d like to observe? : 二人のクラスメートの中から優秀な子を一人、それとあなたの能力との相性を観察してみたい女子がもう一人いるんだけど、その二人と組んでもらってもいい?」
『I'd really like to talk to his classmates, so sure. I'll cooperate, No. 04. I don’t mind working with the other girl, either. : ぜひ彼のクラスメイトと話してみたいです。もちろん協力します、No.04。その子と一緒でも構いませんよ』
…うーん。ヒカル一体何した?彼女、何かすごいご執心なんだけど。
ヒカルもリブもいないと、何か日本が大丈夫かな、って思っちゃうよね。そんなことはないんだろうけどさ。でもそれだけ彼らが突出してるってことだよね。クラスのNo.3、編音さんとしては、彼らに付いて行かないといけないなー。今回は彼らの不在のケツをしっかり拭こうじゃないか!
でもなんか今回は先輩の能力のトライアルを兼ねるらしい。それで通信能力のある私と、Singularity‐Satellite‐とのミッションだって。で、その先輩、一個上の矢田美優さんね。顔は知ってるけど話したことないなー。
Resonanceで調べたら、能力は-Silence-?いやー。何、無言で任務ですか!?そんなの私耐えられるのかな。ただでさえSingularityと一緒って、緊張しているのに。つか任務中Satelliteって、気安くしゃべって大丈夫なのかな?
今日の集合場所は、最近の流行りのICU。また入院させてる患者が対象者みたいだ。集合時間に病院のロビーに行くと、もう先輩がいた。やば。私の方が遅かった。
「は、初めまして…でもないんですけど。こんにちは矢田先輩」
『……………』
やば。いきなり怒らせたかもしれない。5分前に来れば良かった。…何かいきなりノートに書き始めたぞ。まさか名前書かれると死ぬノート!?Silenceって口封じ的なあれですか!?
<私、耳が聞こえないの。口をみて喋ってることは分かるんだけど>
<よろしくね、編音ちゃん。私はミューでいいよ>
あ…。筆談。…そういうこと。道理で話したことないわけだよね。
「ごめんなさい、知らなくて!」
「私はあやねでいいです!なんならアヤって呼ばれているんで、アヤで!」
<あーいいのいいの。いつものことだし、慣れているし>
<でも、今日はどうするんだろうね>
「11時になったら、分かるってマイカさんが言ってたけど…」
その11時まであと5秒。4,3,2,1,…0
頭の中でファンファーレ?違う。…アメリカ国歌が鳴る。何じゃこりゃ。
『おっすーこんにちは!…こちらは夜だけどね』
頭に声が鳴り響いた。ミュー先輩も耳を抑えている。聞こえてるみたいだ。
『初めまして、だね。私はSingularity No.06 Satellite、だよ』
『今どこにいるかは内緒だけど、地球の裏から君たちの頭に直接接続してるよん』
「日本語…上手ですね」
『あー編音、今は君の頭の辞書を使わせてもらってるよん。だから君みたいなしゃべり方になっているはず、さ』
え、これ私の真似っこなの?何か恥ずいぞ。
『あ、思ったこと全部私わかるから気をつけてね』
え、ヤダ。それ。そんなこと言われたらなんか思い出しちゃいけないことまで思い出しちゃう。
『ミューちゃんも頭で思ってくれたら、書かなくても伝わるよん』
こくん、とミューさんは頷いた。…リアクションが小動物みたいだ。
『んー編音、君は青春してるねー。あ、巧とは一緒に仕事したことあるよ』
<巧君って、アヤちゃんの彼氏さんだよね>
ヤバヤバ、何か勝手に頭の中身が漏れてる…!
「あ、そうだ。ミュー先輩、私の手を握ってくれたら、考えてること私にも伝わるよ!こっちからは送れないけど」
ミュー先輩と手をつなぐ。そして反対の手でオッケーサイン。うーん、やっぱり逐一リアクションが可愛いぜ、ちくしょー。
『それにしても頭の中とは言え、ミューちゃんは喋るの上手だねー』
『…この間、ヤン君とテレパシー繋いでもらって、皆で会話したから、かな』
お、それ聞いてないぞ?
『私、ヤンくんのおかげで他の人の声初めて聞いたて、嬉しくてびっくりして、大泣きしちゃったの』
『また会いたいなぁ。皆でお話したい』
『ねぇアヤちゃん、ヤンくんって付き合ってる人とかいるのかな?いたら…押し掛けたりしたら迷惑だよね?』
私の両手を握ってくるミュー先輩に、思わず仰け反ってしまう。
「あー。あっと…あいつフリーだと思いますよ」
知る限りずっとな。うーん?…吊り橋効果かな。
『異能者の恋愛って面白いんだよ。自分の能力を補うような相手を、理屈じゃなく本能が選んじゃう。身も蓋もないけど、そんな感じがする』
頭の中でSatelliteがこそっと教えてくれた。それ、思い当たるケース何個かありますね。自分が不得意なことが出来ちゃう能力なんて、出会いからして衝撃的でしょうからねぇ。
『そうそう、運命感じちゃうんだよねぇ』
私が言えるのは一つだけ。楊、チャンスが来たぞ?それにしてもSatellite、恋バナ大好き女子だな。まだ若そう。
『あー私、19歳。Singularityになってナンバーとか能力で呼ばれるようになっちゃったけど、クレアとかステラって呼んで?』
筒抜けなんだった。しまった。
「あ、あぁ、よろしく、クレア」
『じゃ、打ち解けたところで仕事の話をするよ』
…そうだった。色々衝撃的すぎて忘れるところだった。
『今日の相手は−Roar−』
<……>
……無言を筆談で書くのか。くそかわいいな。
『聞くからに−Silence−特効だよね』
『見たいのは、−Silence−の効果範囲と私の−Satellite−との親和性みたいだけどね』
「ねぇ、クレア?Factor化した対象にリンクできないの?」
『それねー。私の能力って生きてる生物とのリンクだから、無理なのよ』
『ケガや病気が治るわけじゃないから、動けない人に入っても動けるようにならないしね』
2時間ほどして、患者はFactor化。最近、司さんの予測精度がヤバい。混線してる予知を振るいにかける練習してると制度が上がったとかなんとか。
ミュー先輩がSilenceを発動すると、音波振動で周りを壊す−Roar−の能力は完全無力化。そうなったら能力なんかないようなもの。檻の中の猛獣とそう変わらなかった。ちなみに能力発動中、私ともSatelliteともコンタクトは問題なし。マイカさんは、これを確認したかったのかな。
その後はほんの一瞬で終わった。
『ちょっと体、貸してね。アヤの電撃だったら、こういうのは一発で終わるよ』
とクレアが言うやいなや、私の両手から出した電撃で、延髄と心臓を撃ち抜く。そのまま倒れる−Roar−。
「おおー」
『心臓を通電するのはタイミングがあるんだけど、神経系なら狙いさえ間違えなければ大丈夫。直接触れなくていいから安全だしねー』
『あ、心臓は変質したら最初から止まってることもあるから、やっぱ首を狙うのがいいのかも』
…いや、凄いけど。私じゃこんな精度で当てれないよ。相手動いてんだよ?しかも私の能力見るのも初めてでしょ?なんでそんな正確に能力使えるの?…これは、さすがSingularityって感じだわ。
でもResonanceでこんな事が出来るのは、分かった。なら特訓しないと、だね。
間もなくICUの処理班が、遺体を搬出して出て行った。
『お疲れ様でした。こっちの就寝前に終わったね』
『まだ少し時間あるんだけど…話しても良い?』
「いいですよ。私も勉強になりました。お礼に何なりと」
『え、じゃあヒカルのこと教えてよ!』『彼いつの間に箱庭に来たの?』『なんであんなに能力持ってるの?』『リブと付き合ってるんでしょ?どのくらい?』『彼から交際申し込んだのかな?』『二人は喧嘩することあるの?』
「え、え、え、えー。二年くらい前です」
「能力は…よく分からないです」
「付きあったのは、まだ1年経ってないんでは?」
「リブからって聞いてますよ」
「喧嘩、っていうかヒカルが鈍感で、リブがやきもきしてます!」
『ねぇアヤちゃん、今度は私』『今度アヤちゃんのクラスに遊びに行っていい?』『私こんなんだから、知合いがいた方が助かるんだよね』『何かお土産持っていくけど、楊君甘い物とか好きかな?』『私、お菓子作るの得意なんだ』
「あ、あ、あぁ。来ていただくのはいい、と思いますよ?」
「こんなぐいぐい来る人とは、思って…」
「楊のやつは凄い甘いのが好きだと思います!」
「クッキーとかでも喜ぶと思いますよ!」
「もーーーーーー!」
「2人とも私をダシにするんじゃない!!」
*邦訳:
『Si ça tourne mal, tu devras en assumer la responsabilité !』
面倒なことがあったら責任取ってよね!
イラスト、クレアをスタンドみたいに半透明にしてって言ったら効果音が付きましたが、まぁ圧強めなので良しとします。
Satellite能力捕捉 読み飛ばし可
異能者や動物と意識を接続できる。一般人相手でもリンクできるけど、やる意味があまりないので、やらない。リンク相手との距離に特に制限がない。地球の裏側でも接続できるので、地球上なら問題ないと思っている。同時接続人数は50人くらいは試したことがある。
身体操作の権限を移譲してもらえれば、相手を動かせるし、接続相手の能力を行使することができる。過去何百人も能力者の操作をしたことがあるので、異能そのものへの造詣が深く、リンク先の本人も知らないような能力特性に気づくことも多々ある。
能力者の教導、訓練にも非常に向いている能力。
ちなみに本人の戦闘力は一般人。




