Box.59 Satellite vol.4 ‐Eruption‐
『いやー。Singularity2人を操作するなんて、初めてだよ。ワクワクするね』
ワクワクって。度量が大きいと言うか何というか。空を覆う積乱雲のような影は刻々と近づいてくる。この雲が大都市を襲えば、草木は食べ尽くされ様々なインフラに影響が出るだろうに。
『前に彼が能力使ったときは、岩やコンクリートまで食ってたよ』
…もっとやばいバッタじゃないですか。人とか動物とかは?
『狙って食わせれば食いつくみたいだけど、今回は虫を操る司令塔がいないから、どうなるかなぁ』
…それにしても思ったことが全部伝わるんですね。
『そうそう。端末側からは筒抜けさ。だから変なこと、卑猥なこと考えたら全部伝わるよ?』
…何であなたに卑猥なこと考えないといけないんです?
『ふーん、あそ。ま、いいや』
『さぁNo.09、できるだけ大きくバリアを展開、群れに向かって飛び込むよ!』
…分かりました。
『リブは…できそうなことが多すぎて、ちょっとわかんないや。任せるよ』
『私、虫潰すのとか、大嫌いなんだけど?』
…人の頭はよく潰している気がするけどね。
『じゃあ網作って捕まえてみたら?』
『それもいいけど…ちょっと思いついたことがある』
『ふーん……どれどれ…^々(♪%2%・72☆6^〜*$*[・=[*€|*(・-。……いいじゃん』
Satelliteとリブの間の会話は、ジャミングが入るのか、こちらからは聞こえないみたいだ。
『じゃ、作戦開始だ。アメリカ史上初のSingularity3人による共同任務だよ!』
『さて先鋒はリブだ。ヒカルが上空に向かう間、第一波を抑え込んでくれ』
『分かった』
『−Particle−』
崖から飛び降りたリブは、空中で髪と腕、膝下を粒子化する。また無茶してる、と思う。何かを作っているのだと思うけど、それが小さすぎて何なのかは分からない。
虫の群れがリブを黒く覆っていく。手脚もなく無防備なリブはそのまま飲み込まれていくんじゃないかと思えた。リブの周りに黒い渦ができ、姿が見えなくなる。やがて渦は何重、いや何百何千という層になり、次第に小さく収束し始めた。
「リブ、助けに…!」
行こうとする僕をSatelliteが押し止める。
『まだだよ。まぁ見てなって』
収束していこうとした黒い渦は、両手を広げたぐらいの大きさでその動きを止めた。やがて形を失いバラバラと崩れ地上に向けて落ちていった。
黒い渦が晴れ、ゆっくり浮かび上がるように姿を現した宙に浮かぶリブは、まるで教科書で見た帆先に立つニケの彫像みたいだった。
「あれ何したんですか?」
『極小の針を精製して、無数に自分の周りに旋回させたのさ』
『その針で虫の体内に微小な穴を空けて、神経中枢を破壊していった』
『虫の死体が、フェロモンでさらに個体を引き付けるから非常に殲滅効果が高いね』
「へー、やっぱ凄いすね」
『そうだね。名前をつけるならBillion Needleって感じだね』『でも一つ欠点が…』
『もう、何これ!やっぱ汁まみれ!何なのこれ!』
…かわいそうに。後で頭でも撫でてあげ…たくないなぁ。
第一波はリブが食い止め、生き残ったバッタが後続の群れと合流し第二波を形成する動きを見せている。
上空に上りながらSatelliteに聞いてみる。
「これ、どうにもならなかったらどうなるんですか?」
『んーそうだね。LAにも軍隊とか能力者、何人か待機してもらっているんだけど、過去の蝗害だと、何十億ドルとかの被害だったり、食糧危機になったりしてるね』
「責任重大じゃないですか」
『それはそうなんだけどね。私はいつもこういうのは心のどこかでは、なるようにしかならない、って思ってるんだよ』
思ったより緩い感じなんですね。アメリカ全部を守ろうとするとこうなるのかな。でも。
「動物園の友達が困りますよ。パンダとか」
『……ん。……んー。んー』『…そうだね』
「どうしました?」
『いや、私のやる気を出させるのがうまいなーって』
『…うん、やる気出てきた!やっちゃうよ?ヒカル君!』
分かりました。
…って、うわおぉぉ!腕の飛行能力のアクセルを全開にされ、空に投げ出される。
『ヒカル君!バリア最大展開!!』
「もういきなり、なんなんすか!」「—Trash Box-!」
僕の-Trash Box-の最大拡張範囲は自分を中心に半径3mほど。正直この大きさでは、数十億の虫の駆除には心もとない。…どうするんですか?
『君の箱を使う』
「僕の箱?」
『使えてない箱の一つ、-Eruption-。君、この能力にParticleとは違う意味でブレーキかけてるね』
ブレーキをかけている自覚はある。この人、接続した異能者の能力の解析まで出来るのか。
『正解。Eruptionは爆発させる能力なのに、エネルギーをうまく放出できないんだろ?』
『そもそも君はあまりに誰かを傷つけることを恐れすぎている。この能力が君のバリアと混ざり合って、建物ごと元々のEruptionの持ち主を消し飛ばしたことを、君は悔いているんだろ』
そう。知っている。憎い相手とは言え、彼の腕を奪って人生を奪ったことも。
『使いこなせてない君の能力、お姉さんが使い方を教えてあげるよ』
「…分かりました」
『…ヒカル』
『君はまるで、人生そのものがブレーキみたいだ』
『見ててあげるから、ゆっくりブレーキを緩めるんだ』
…って言われても自分でも扱いきらない能力を、Satelliteに委ねてもいいのか?確かに現状の対処には有利かもしれないけど、また制御できなかったら…。
『…あ、そうそう。カナエって言うのかな、たぶん彼女がそいつの腕を治してくれてるよ?』
「…へ?」
『確証ないけど、そんなことできるやつ、あんまいないしね。だからヒカルが気に病む必要は多分、ないね』
突拍子もないことを突然聞かされて、ふっと気が抜けた気がした。
『いいね、いい感じに力が抜けた!』
頭の中で一段と大きな声が響く。
『名前を呼ぶことは能力を支配することの第一歩だ』
『さぁ叫ぶんだ、彼の名を!トラウマごと彼を支配しろ!』
「―Eruption―」
何倍にも膨張するTrash Boxのバリアが第二波の大渦を作っていた虫の群れを飲み込んでいく。消失領域に巻き込まれ、消滅する蟲の群。
『やったやった!初めてにしては上出来だ。第二波は完全に消滅したね』
「…二回目ですから」
『君のトラウマ案件をカウントに入れるのなら、そうなるね』
『よし、このままあと3発いっとこう!復習だ!』
「分かりました」
Eruptionと混ぜ合わせることで、膨張して炸裂するTrash Box。大きいほど維持時間が短いらしい。最大100m程。だけどそれだと数秒しか持たない。
第五波までで、群れの大半は消失したらしい。
後は散り散りになった個体を何かあれば各個対処すればいいらしい。…終わった。
『2人ともお疲れ様、ちょっとこっち来てくれないか?』
グランドキャニオンの岩の上。こちらに手を振って手招きをしている人がいる。
僕らからすると、少し年上の女性だ。
頭の中に声が響いてくる
『やぁ本当に助かったよ』『初めまして、私がSatelliteだ』
えっと…Satelliteは、女の人だったの!?
『途中で一回伝えたけど、聞いてなかったね?』
声は相変わらず頭に響いている。本体は両手を大きく振りながら嬉しそうだ。
僕とリブはSatelliteのいる岩の上に降り立った。
『アメリカ合州国の代理として感謝を伝えるよ』
『箱庭アメリカ支部と、Singularity No.06は新たなメンバー、No.09を承認する』
『これが承認状だ』
『ヒカル、やったね!』
『抱きつきたいとこだけど、やめとくわー』
確かに…何か服とかドロドロだからね。
承認状にはNo.06 Satellite, Claire S. Bennettと記載されている。
Satelliteは僕の両手を握ってまくし立ててきた。…英語で。
『Hikaru was truly amazing. Even more than what I’d heard, and way beyond my expectations!』
『Next time you come to the US, I’ll pick you up anywhere, so just let me know, okay? Even Hawaii would be great!』
『I want to talk with you directly, so I’m going to study Japanese! By the way, you can call me Claire.』
「ちょっと、すぴーく、スローリィ」
リブがスッと間に入ってくる。
『...Nice to meet you, Satellite. Next time Hikaru comes to the US, I'll be coming along with him too.』とドロドロの手を差し伸べる。
…うーん、何か火花が散ったような…?
No.06 Satellite, 本名 Claire Stella Bennett クレア
19歳女性。15歳からアメリカを守っているSingularityです。リブと同時期の認可申請でしたが、15歳で即承認になったクレアの方が番号が若い。能力が、異様なだけで身体スペックは普通の人。どうやって岩場の上まで登ったのかは不明。ルドを抱えているので連れてきてもらったのでしょう。
ちなみにSatelliteが女性なことは、ヒカル以外は知ってました。ヒカルは勝手に男性だと思ってました。
まさか4話構成になるとは…02.Plantとの邂逅はもっと長くならんかと心配になります。
和訳…
Hikaru was truly amazing. Even more than what I’d heard, and way beyond my expectations!
ヒカル、ホント凄かった。聞いてた以上、想像以上よ!
Next time you come to the US, I’ll pick you up anywhere, so just let me know, okay? Even Hawaii would be great!
またアメリカに来るときは、私どこでも迎えに行くから声かけて?ハワイとかでもいいよ?
I want to talk with you directly, so I’m going to study Japanese! By the way, you can call me Claire.
君と直接話したいから、日本語も勉強しとくね!そうだ、クレアって呼んでいいよ。
Nice to meet you, Satellite. Next time Hikaru comes to the US, I'll be coming along with him too.
初めましてSatellite、ヒカルがアメリカに来るときは、また私も一緒に来るわ。
ちなみにリブがSatelliteの素顔を見るのは、今回が初めてです。
甲乙つけがたかった、没絵




