Box.58 Satellite vol.3 ‐蝗害‐
『リブ、あんた日本が何時だと思ってるの?』
電話の向こうで司さんが怒った。こちらは朝10時。ゆっくり朝食を食べて、ホテルに戻って日本へ連絡。向こうは…深夜2時。そりゃ怒るよ。
リブの作戦は、アメリカで起こるFactor案件のなるべく高ランクなもの、できるだけSatelliteが困るレベルのものを僕達で対応する、というものだ。それで近隣の大都市で案件が起こるかどうか、司さんに予知をしてもらい、予想が出来たら、あらかじめ飛んで急行しておくのだという。
「力業過ぎない?」
『でも、アメリカ中の飛行機予約するわけにもいかないじゃない?』
僕たちの残り滞在期間はあと5日。アメリカ全体の1日の死者数は多くても約2万人。アメリカのFactor案件なんて、日本より圧倒的に少ないんだよ?しかも司さんにアメリカ中の都市の予測を毎日してもらうことが大前提。これ、帰ったら何言われるか分からないよ。
1日目。事案はニューヨークで発生した。さすがに東海岸に行くのは無理だ。司さんに『行かないなら予知させるな』と言われた。すいません。東海岸の都市はもういいです。
2日目。シカゴで事案発生。僕たちは向かってみたけど、半分の距離もいかないうちに解決してしまった。すいません…次から西側だけでお願いします。
3日目。今度はフロリダ。これも間に合わなかった。リブさ…無理じゃない、これ?
それにしても何だかんだで、毎日アメリカの何処かで事案は発生している。これをSatellite一人で対応していると思うと、確かに荷が重い。しかも、自分では戦えないから、相性のいい異能者の選抜もしないといけないから大変だ。
『いやー。アメリカは想像以上に広いね』
フロリダからの帰り道でリブがぼやく。
「西から東まででも、日本の何倍もあるからね」
「僕らも飛行機ほど早くは飛べないから、やっぱりロスぐらいしか行けないよ」
4日目の朝。突然ルドがペラペラとしゃべりだした。夢かと思ったけど違った。Satelliteだ。そうじゃないかとは思っていたけど、僕らのいるホテルなんてとっくに把握していたらしい。
『やぁ。お楽しみだったかな?』
突然しゃべりだした自分の口に、ルドは驚きふーふー、と暴れだした。
『ちょっと、ウチの猫を勝手に端末にしないでくれる?』
「いや、リブ。ルドは僕の猫なんだけど」
『あ、そっか』
おびえるルドに、ちょっと我慢してよ、と伝える。それにしてもSatelliteの操作がうまいのか、ルド自身ができないと言っていた発話は、苦もなくできているようだ。
『ふむ?まぁ何でもいいのだけど、君達ちょっと私の仕事を手伝ってくれないかな?』
「何か困りごとですか?」
『うん。予知能力者が、LAで厄介な案件の発生予想が出たことを報告してきたんだ』
『予知?あぁ、そっちにも予知能力者がいるのね』
『非公式だけどね。彼女が寝てる間に勝手に使わせてもらっている』
『さいてー』
…君も夢のなかに勝手に入ったりしてるじゃないか、と思ったが口にはしなかった。
『とは言え、今回は彼女の力を使わなくても、事前に分かっていたんだ』
『こっちに向かってきているのを観測できてたから』
「えっと、仕事って言うのはFactor案件なんでしょ?」
『勿論。でも対象が厄介なんだ』
『相手はSSランク―Locust―』『…蝗害だよ』
『…こうがい…公害?郊外?』
「公害ではあるけど…蝗害っていうのは聖書とかで出てくる、バッタとかイナゴの災害だよ」
『…バッタが、災害?』
…やばい。リブが全くピンと来ていない。
『群生相って言う、凶暴化した何億とかって数のバッタが作物とか食い荒らしていくのが、蝗害』
『…うわ、それはキモいね』
『今、あらゆるものを食い荒らしながら、東の砂漠から彼が亡くなったLAの方角へまっすぐ向かってきている』
『いや、参ったね。彼は我が国のランクでも上位5指に入る人物だったし、そうでなくても大災害だ』『誰を当てても無事に終わりそうにない』
「ほんとに蝗害なら誰でも無理じゃないですか?」
『そうだね。本来、軍隊とか君たちの国に救援を依頼してもおかしくない案件だ』
『だけど、何故か幸いなことに、今このタイミングで<SSSとSS+が、仲良く我が国に遊びに来ている>』
…確かに。
『しかも思うに、能力相性的にContraを除けばNo.09、君が最良だ』
『全く、一体誰の発案だろうね。君たちがいる間にこれが起こるなんて。腹立たしいけど、読み通りってわけだ』
『よく分からないけど、私たちがいるうちでよかったってことね?』
誰かが予期して僕らを派遣していた、ってことか?まさかマイカさん?
『そもそも―Locust―が亡くなったのはもう数か月も前だ。とっくに埋葬も済んでいる』
「なのに今更?」
『今になって思うと、彼はFactor感染者だなんて思われていなかったんだ。でも実は能力を静かに発動して亡くなっていた』
「能力が虫だから、虫が育って実害が出るまで何カ月もかかったってこと?」
『そんなとこだろうね』
『だからこそ逆に彼が亡くなった日から、蝗害の時期を予測出来たんだろう』
あーデータから予知に近いことやるの、すごくマイカさんっぽい。今ごろ『君らの実力を示す最高のチャンスでしょ!』って思っているんだろうなぁ。
『Satellite、困ってるんだよね?』
『正直言うと、困ってるし、君達に頼むのがベストだと思ってるよ』『助けてくれると嬉しい』
「…良いですよ。協力します」
『バッタはキモいけど…いいよ。やるよ』
『ありがとう!恩に着るよ!』
『では、君たちには、ラスベガス近辺の砂漠地帯でバッタを迎え撃ってもらうよ』
『さぁ出発だ!』
…出発だ!って言われてヘリでも来るのかと思ったけど、自力で飛んでいくのね。
『元々遠くまで行ったり来たりしてたじゃないか?』
まぁね。やっぱ気づかれてるよなー。
一時間後、僕はリブとルドと一緒にロサンゼルスとラスベガスの間にある砂漠地帯の切り立った崖の上に降り立った。
『あと30分もしないうちに、蝗害はここに来る』
『もし良かったら君達に直接―Satellite―を接続したいんだけど?その方が情報共有しやすいからね』
「会話ができるってことですよね」
『それだけじゃないんだなー。きっと味わってみたら面白いと思うよ』
「だってさ。リブどうする?」
『んー。まぁいいよ』
『Good!!』
『では君たち新人に、何で私がSingularityなのか、見せてあげるよ』
ブンッ!っいう音が聞こえた気がした。少し現実感が薄れて、なんだか、自分というロボットのコックピットに座ったような気分だ。そのくせ視界が遠くまでクリアだし、頭で思っただけでバッタの群れまでの距離がわかる。…到着まであと10分。
頭に声が響く。
『私が、君たちの動きをサポートする。動作の主導権は君たちだけど、委ねてくれたら私が操作しても構わない』
『それにしてもNo.09、君面白いね。何で能力5つも持ってるの?しかも一個―Particle―じゃない?』
そういう能力、としか言えないんですけど、元々のバリアの他は飛行と再生しか使いこなせてないですよ。
『再生能力は残弾1個なんだ。…奥の手だね』
Satelliteには僕の頭の中がゲームの画面みたいに見えてるのだろうか?
頭のなかにアラートが鳴り響く。地平線の先に黒い積乱雲がどんどん広がっているのが見える。…違う。あれは雲じゃない。虫の群れが雲みたいに見えているだけだ。
次第に空一面を黒い天幕が覆う。予定より少し早いけど、バッタの群れがここに辿り着いた。
『さぁ来たよ!害虫退治だ!』




