Box.6 Trash Box
日曜日の朝。僕は感情の渦に翻弄されていた。なぜなら女子の目の前で思い切り泣いてしまって、その後、その子とどう接したらいいのか、分からないからだ。穴を掘って隠れていたい。できれば記憶だけでも消してしまいたい。けど、やっぱり僕の能力は自分を消すことはできない。
帰りのバスでも膝枕をされながら、ずっと鼻歌を歌うごきげんなリブに頭を撫でられ続けていたけど、あれなに?寮について、エレベーターに乗って、僕の部屋の前でハグして『バイバイ』って言ってたけど、あれもナニ!? マイカさんの家は道を挟んで寮の向かいなことが昨日判明している。外に行って顔を合わせたら、もう隠れるしかない。今の僕なら能力を展開して、地球の重力にひかれるまま、どこまでも深く潜り込める気がする。イメージ出来ましたよ、マイカさん。
ピーンポーン。無情にも戦いの鐘が鳴り響く。あの姉妹みたいな二人以外は誰も僕の部屋を知らないのだから、確率は1/2だ。インターホンのモニターをそっと覗く。
『ちーっす、アサギリさんのお宅?』…誰?
『ウマカッタスでーす。注文の品をお届けに参りました~』
ため息をつきながら座り込んでしまった。飲み物と保存食、頼んでたね。
『やりたかったんだけど、箱庭の外からドローン配達届かないのよ。だからここは未だに配達。箱庭の納品口で検閲しているから大丈夫よ。そのせいで1日余計にかかるから早めに注文しといてね。配達員はここの職員だから安心よ』と、イマジナリーマイカさん。なんか思い出す度、マイカさんのアイコンみたいなのがしゃべってるみたいに感じるの、ひょっとしてあの人の能力?
『気楽に、気楽に』開封した段ボールを消して、パックゼリーを10秒でチャージして、また消す。届いたペットボトルを一本持って、ベランダに出る。プシュッという音と弾ける炭酸の音。喉に気持ちいい刺激が広がる。外を見た瞬間、ベランダにきれいな虹がかかった。…リブだ。マイカさんの家の庭先からこちらを見ている。あ、気付かれた。ふりふりと手を振ってくる。まさか飛んできたりはしない…よな。世間の一般常識として僕たち異能者は、能力以外は普通の人間だ。飛べるやつは飛べる能力があるだけ。力が強いやつはそういう能力なだけ。リブもほら、飛んでくることはできない、はずだ。
『ボンッ』支給されたパソコンにメールが届いた着信音。リブからだ。
『おはよ~。月曜からの学校のクラスメートの名簿送っておくね。みんな能力がある子ばっかりだけど、秘密の子もいるから全員は分からないかな。でも知ってる範囲で教えておくね。昨日は楽しかったね。また遊びにいこうね。』映像付き音声ファイルだ。モニターの向こうでふりふりと手を振って、動画は止まった。
本人は飛んで来なくてもメールが飛んできた。普通はそうだ。本人が飛んでくる方がおかしい。本人が来ないって油断してた。モニターの向こうで、今頃リブは笑っているに違いない。添付ファイルに思いっきり『外部持ち出し禁』って書いてある。え、大丈夫なやつ?まぁ僕も内部なんだろう。と納得して覗いてみる。
『中等部1年生 代表 6. 高崎 叶 ←かなちゃん。1番の仲良し けがを治すの。
1. 朝霧 光 甘えんぼのヒカル君
2. 一ノ瀬 莉生 わたしわたしー☆
3. 神代 プリヤ ラーナ ← インドの子 私とカレーよく食べるラッキー女子
4. 桐生 ルカ ← ルカ君 あしはっやい
5. 黒峰 梓 ← くーるびゅーてぃー 勉強出来てあこがれるなぁ
7. 団原 巧 ← たくくん 能力はわかんないや
8. 天堂 編音 ← アヤネちゃん きかいときかいをビビッてさせるの
9. 中路 隼翔 ← はやとくん なんかね、包帯巻いてる
10. 大和 勇樹 ← おっきい子 ちからつおい
11. 楊 景人 ← ヤン君 てれぱしー能力!誰かと誰かをお話させる! 』
甘えんぼ、だ?何というか、丸文字の落書きだらけで機密文書の扱いとは思えないし、書いてる能力の説明、半分以上わかんないんだけど。脚が速いとか力が強いってのはそういう能力かな。思ったより普通の能力の子もいるんだな。やっぱりリブがおかしいんだな。包帯を操る能力ってなんだ?
考えてるとまた思考が暗くなってきた。他人は苦手だ。なのにテレパシー能力なんて最悪だ。昨日のことがばれたら、このクラスでも生きていけなくなる。
―――――――――「お待たせ」いんかむをつけて、モニターを覗き込む。チャットルームには一人、私より少し背の高い栗色の髪の毛の女の子が映っている。私の一番の仲良しだ。
『いや、いいよ』
「ヒカル見たかな」
『ん、あぁ。資料送ってくれてありがと。そのヒカルって子が、明日からくる子なのよね。』
難しそうな本を読みながら聞いてくる。この子はいつも真面目。
「そうだよ」
『どんな子?イケメン?」
「私と同じくらいの身長」
『なら私より低いじゃない。ないわー』
「え、あげないよ」
『いらないわよ。』
「約束だよ」
『わ、か、り、ました。』
「約束破ったら、10辛カレーね」
『破らないし、食べないけどね。プリヤに食べてもらうわー。それにしても珍しい、というか初めてね。リブがそんな主張するの。どうしたの?』
「えっとね。ヒカルってね、なんでも消せるの。すごくない?」
『なんでも、って情報が雑だけど、本当に何でも?』
「ほんとに何でも」服についたカレーも。
『へー。そんなの私なら色々便利な使い道、思いついちゃうけどなぁ。細菌とかウイルスとか消せるんなら、すごくない?』
「私の腕は消えたよ」画面の向こうでせき込む音がした。
『あんた、何したのよ?』
「ぐるぐるソード」
『なんで、初対面でそんなことして仲良くなれてるの?』
「…!」
『……!?』
「………!!」
『…………!!?』
『そろそろ寝るわー、リブあんたも寝なさいよ』
「そだね。」ふわーあーあー、…あ。画面にある古いアイコンに気付いた。以前の名簿だ。もういらないね。ファイルをゴミ箱アイコンにドロップする。
…ゴミ箱。
「ねぇねぇ、ゴミ箱って英語でなんて言うの?」
『えー眠いのに。trash canとかgarbage boxじゃないの?』
「…Trash… Box、トラッシュボックスかー」
『?』
「決ーめた!」
彼の能力の名前。明日教えてあげよう。
「Trash Box―トラッシュボックス―」
読了ありがとうございます。
本作品はカクヨムに先行連載しております。大体1W遅れでなろうに投稿しています。当面は金土日に1話ずつ更新の予定です。よろしくお願いします。




