Box.56 Satellite vol.1 ‐No.06‐
6月、中間試験が終わった後、僕とリブは執務室に呼び出された。4人のSingularityと『か~り!』の僕、合わせて5人が勢ぞろいした。全員揃ったのは、任命式の後では初めてかもしれない。そこで言われたのが…。
『二人でアメリカまで挨拶に行ってきなさい』
と、マイカさん。え、正直めんどくさい。何でまたアメリカまで?
『思い出してみて。あのシンでさえ、就任後に挨拶回りしてたってのが、何かと面倒なの』
『ちゃんとやることやってたのよ、あのシンが!』
『私たちも、と言うかあんた達もちゃんとやっとかないと、日本支部としては、沽券にかかわるの』
…建前はどうあれ、確かにちゃんとしてたな、あいつ。
『あんなの、理由付けて私の顔を見に来ただけでしょ。おえ~』
まじ勘弁、といった様子で舌を出して気持ち悪そうな表情をするリブ。
『そう言うな。本音と建て前は一致することもある』
『何はともあれ、ヒカルの場合は会ったことのない先輩に挨拶はしておいた方がいいだろう』
『No.09の申請の時にPlantとSatelliteの票がもらえなかった、というのはお前が欧米に認知されていないということに他ならん』
言われてみれば耳が痛い。確かに最後まで保留されたまま2人から票は貰えなかった。リブが11歳の時に当時存命していたAt-Randomも含めて、満票で選出されたのと雲泥の差だ。それに、たまたま箱庭の主戦場が日本だから困らなかったってだけで、海外がどうなっているのか全く知らないのは、きっと良くない。
『リブの新任の挨拶も兼ねて、アメリカのSatelliteに顔合わせに行ってくるといい』
『もちろん2人の予定が合わないなら、一人ずつでも構わないが…』
『えーどうしよっかなぁ?しょうがないなぁ。…めんどくさいのになぁ』
って言いながら、リブがウキウキしているのが手に取るようにわかる。
「Satelliteのいる場所ってどこなんですか?」アメリカは広い。
タローさん、マイカさん、燐先生が顔を見合わせる。3人とも微かに首を振る。
『一番可能性が高いのは、San Diegoだな』
「…どこです、それ?」
『西海岸のカルフォルニア州の南端、ロスより南にあるわ』
『San Diegoには、世界的に有名な動物園がある』
『今は日本で見ることができない、パンダもいるわ』
『えーパンダ!見たい!』『ヒカル、行こ行こ!』
あ、もう一緒に行くんだな。
「…可能性が高い、っていうのは何です?」
『あぁ。Satelliteはかなり人見知りな奴で、人前になかなか出てこんのだ』
『動物園に、取り次ぐための端末があるのですよ』
「動物園で働いているんですか?」
『うーん。隙間時間で働いている、とも言えるのかな』
…Satelliteが投票しなかったの、単にめんどくさかっただけでは?
よく分からない。とにかく一番彼を捕まえやすい、San Diegoに向かえ、ということかな。そんなの事前にアポ取っとこうよ。
『アポなんかとったら、確実にアラスカかハワイ辺りに逃げ込むわ』
『まだアメリカにいればラッキーですがね』
『いそうな場所に凸するのが、一番確実なのよ』
…何それ。Singularityとしての仕事は?
『それがねー。多分だけど、地球の裏側にいても仕事出来るかも知れないわ。あの子なら』
何じゃそりゃ。まぁSingularityなんだから能力も当然のように無茶苦茶すごいんだと思うけど。
そう言えば、ヘリは何回も乗ったけど、飛行機は初めてかも。海外も…初だな。
7月初頭。僕達はルドを連れてカルフォルニアへ飛んだ。10時間のフライト。流石にこの距離は自分では飛べない。
『東に飛んだらいいんでしょ?』とリブ。
残念、地球儀だとそう見えるけど、東へ飛ぶと南半球へ着くんだよ。
懸念してたことだけど、機内食程度ではリブの食欲は全然満たされないらしい。結構出発前ロビーで食べてたのになぁ。僕はと言えば、10時間で何回も出てくる食事に結構満腹だったので、半分以上リブにあげたけど、それでも足りなそうだった。
空港についてタクシーを拾って、ホテルへ。途中、普通に港に空母があるのには驚いた。でかい。聞いたところによると、太平洋艦隊の寄港する港らしい。太平洋艦隊って僕でも聞いたことあるぞ。
着いたホテルは相部屋だった。間違ってないか、ホテルから日本へ確認してみたら、『え?今更、部屋分けるわけ?』って言われた。マイカさんは僕らのことをどんなふうに思ってるんだろう。
まぁルドを連れてきたので、リブも大人しくしてるだろう。
翌朝、髪が爆発してたリブが悪戦苦闘してるうちに、ルドと近くのスーパーへ。昔からスーパーのバッグが人気らしいので、幾つかお土産に買って帰ることにした。それにしても、アメリカの食べ物ってなんでまたこんなハッキリとした色付けなんだろう?
1時間程散策して戻ると、ベレー帽に髪を押し込んで、リブはムスッとしていた。髪のことかと思ったら、ホテルにビュッフェがついてなかったのが、お気に召さなかったらしい。…やば。リブの朝食のことあまり考えてなかった。大人しく自分の分の朝食も全部、リブに差し出すことにした。
ルドはそんな僕に、大きくため息をついた。
朝食を済ますと予定通り、動物園へ向かった。
「ふへーー?」思わず変な声が出た。
『すっごいねー』
とにかく広い。園内にロープウェイがある動物園なんて見たことない。これは歩くだけでも大変だ。
ライオンをみて、ペリカンをみて、ゴリラをみて…。奥まったところにパンダ園があった。思ったより厳重な感じはなく、手を伸ばせば届くくらいの距離感で、幸い人もそんなに多くなかった。アメリカだとあまり珍しくないのかな?
『あ、パンダいた!』
茂みの向こうから、パンダがのそのそと歩いてきた。餌場の笹をゆっくりと手に取り食べ始める。
ガサガサガサ、バキバキバキ。
『I’m having my lunch. Give me a minute.』
どこからか声がした。
『I see. あーあー。食事中だから、ちょっと待ってくれたまえ』
今度は日本語。
「…ん?……んん??…え?」
『硬いからゆっくり食べないといけないんだ』
パンダの黒い斑点の中のつぶらな目と、僕の目が合った気がした。
「は?」
現実に頭が追い付いてきた。
「ぱぱぱぱぱぱっぱっぱぱんだ、ぱんだ、パンダがしゃべった!」
衝撃にまともに声が出ない。
『ヒカル、落ち着いて。ルドだってしゃべるじゃない』
「いやいやいや、これ現実!夢じゃないから!」
笹食ってるこいつが、Singularity?
『やぁこんにちは。初めまして。私がNo.06-Satellite-』
『No.07-Particle-,No.09-Trash Box-。待ってたよ』
—Satellite—SS+ランク。自分の意思を他人に投影して操る能力。この能力で、彼はアメリカ全土をカバーしている。
…いや、待て。パンダだぞ、こいつ。
パンダが歩いてきたら怖いですよね。
リブとヒカルのアメリカ旅、Satellite編開幕です。どんなやつなんでしょう?




