Box.54 レアアース採掘工事
過ぎた力というものは何も戦力として向けられるだけのものではありません。異能者の力は、うまく使えば産業の発展や創設を、科学ではどうしようもない常識の壁を乗り越えて実現することができるのです。
…それにしても5月なのにクソ暑いですね。何でこの私が日本の東の果てに来なければいけないのですか。ちなみにヘリで降り立った、ここは一応東京都です。島の脇には、こっそりと日本が建造してた空母。表ざたにしにくいから、曳航しているのでしょう。そこを間借りして、私達は島に降り立ちました。
東京都、南鳥島。プレートがぶつかり合う場所にほど近い日本の要衝。今回の任務はレアアース掘削施設の建築、という名目での対Factor 2nd plan、深々海封印施設の併設です。
ともすれば数千億円の出費を要する建築費用は、建前のレアアース採掘事業への補助と我らがSingularity No.09が解決してくださいました。いやはや、ひょっとして核の廃棄、出来るのではないかと思いましたが、ビンゴでしたね。私も莫大な収益のご相伴に預かれるようにすれば良かったですが、この際贅沢はなしです。箱庭の発展こそ全てですからね。
昨晩は空母で一泊し、朝8時作業開始です。
『燐先生!』『集まりました』
双子の峠姉弟が私を呼んでいます。やれやれ。マイカが私を名前で呼ぶものだから、学生が皆私を名前で呼びますね。
「…集合時間です」
「皆さん、よろしく」
今回のメンバーは私の他、四名です。
中3のクラスから2人。まず重量操作の大和君。彼が今回の肝ですね。彼の能力は…Bari?はて、何語でしょう。Baliではないですし。かつてのAt-Randomの趣味で能力は原則英語登録のはずですが。
次に通信担当の楊君。電波は深海に届かないし、そもそも工事がうるさいので、—Connection—でそれを無効化して通信できるのは非常にありがたいです。
更に高校1年のクラスから2人。テレキネシス能力―PK―の双子です。お姉さんの—Quality—は精密操作が得意で、弟の士葉君の—Quantity—は多くの対象の同時操作が得意です。
双子で同じ能力、というのも珍しいですね。両親が異能者だと、子供も異能者であることが多いのですが。
今回は海底まで約6000mですから、マイカの―Supernova―でも足が付きません。溺れる大巨人を見てみたい気はしますが、今回は規模感が足りませんね。
伺ったところ海底から100mまでの施工は出来たようですが、その時点で作業は頓挫しているようです。視界のない深海で潮流に流されつつクレーンで正確にパーツを下ろす、という作業が困難を極めたようです。
『……これ、私たちがやるんですか?』
双子のお姉さんが質問です。
「そうですよ?」
私は当然のように答えます。
「まずパーツのいくつかは海の底に散らばっています」
「日本政府がサービスしてくれた目印です」
パーツに備え付けられた観測機が海底の映像、地形のデータを送ってくれます。そこを目印にこのリングの化け物を組上げて、投下していくのが当面の仕事です。
『いや、サービスではないでしょう!?』
『波にさらわれて海底に落としただけデスよ』
『100mってのも最初のワンブロックですよ、きっと』
まぁそうとも言うのですが。
『先生、取り敢えず10個つないで、海に投下する、でいいですか?』
弟くんは前向きでいいですね。
「そうですね。私が中心に立ちますので、そこに落としてもらいましょうか』
直径20メートルの耐圧構造のリングは一個10mの高さがあります。こんなものよく作りました。一応数としては海底に届くだけの数が、島に投棄…失礼。保管されています。
『島の景観が台無しだな!』
おっしゃる通りです。わざわざ作って持ってきたものを、無駄に放置することなど許せません。
「―Contra―」
バキバキバキバキバキバキ…
激しい氷結音を出しながら氷柱を6000m下の海底へ伸ばします。この場合、深海の海水温の問題ですから水圧など関係ありません。水温4度程。かえって凍りやすいぐらいのものです。
深海のリングの中を通して海面まで氷柱ができました。ちょうど輪投げの心棒のようなイメージです。6000mはさすがに維持がキツイので、さっさとやりましょう。
「さぁ、士葉君どうぞ」
「10個組み上げて、芯棒に通す。これを60回繰り返せば終わりです。単純ですね」
『いやいやいやいや、一回ごとに難易度跳ね上がりますよ?』
「組み上げ作業は、あなたの仕事ですよ、お姉さん?」
『分かってますけど…先生、ひょっとして私の名前覚えてないでしょ?』
「……ははは。この仕事が無事に終わったら、忘れる事はないでしょう、峠お姉さん?」
リングの構造は単純です。固定のボルトなど使ってしまえば、そこから圧壊の危険があるため、型に正確にはめ込むと自重で隙間が埋まる、そういう仕様のようです。
「継手、仕口というやつですね」
『どういう理屈ですか?』
「私は一応、大学は建築学科を出ています」
『え、それ答えてます?』
仕組みが良くても組み上げられなければ意味はありません。
「まぁ、理想ばかり追求して現実を見ていなかった、というやつですね」
『燐先生は博識なのだな!』
「では士葉君お願いします」
「では大和君、重量操作をしながら手伝ってあげてください」
『任せておけ』
…ふと気付きましたがこの子は敬語というものを知らないのでしょうか?
「では接続は、お姉さん頼みますよ」
『先生、弟の名前は覚えてるんですね!』
…峠姉、確か何とか葉だったことは覚えてるんですが。
大和君が浮力と釣り合いが取れるように、重量を操作しつつ、士葉君が水面から出た芯棒に100mの塔を差し込み、添わせて落とす。最後にお姉さんが接続の微調整。
『なかなか調整が難しいな!』
そうでしょうとも。重さを軽くすれば―PK―の取り扱えるパーツの量は増えるでしょうが、自重で接続する仕組みのパーツが外れてしまうかも知れません。ましてや浮力と釣り合って沈まなくなってしまうかも知れません。
大和君的にはいい訓練ですね。能力の効果範囲や精密なコントロール。彼にもう少し鍛錬してほしいところでした。それにしても6000m沈めるのには、それなりに時間がかかります。面倒です。
「大和君、リングの底を沸かして浮力を削ります。リングを一気に落としますよ」
『先生、微調整はするんで、どんどん落としていってください』
『士葉はさっさと組み立てなー』
逞しいですね、実は彼女の能力の緻密さの正体はよく分かりません。自分の能力下にある物体を自分の手のように操れます。どのような感覚なのでしょうか?
きわめて順調です。
「人類は、どうしてこれをもっと早く思いつかなかったのでしょうね」
『能力者を土木作業に使う発想がなかったのデショウ?』
「そうでしょうね」
むしろ私は、能力者を戦力としてしか見てこなかったことに問題があると思いますが。―PK―ならクレーンで一日かかる作業を、数分で終わらせられます。峠姉の—Quality—が肉眼では分からないほどの微調整を繰り返し、接続部をぴたりと合わせる。こんなこと機械ではできません。
「……」
私は思わず感心しました。異能者というのは、実に恐ろしい。自分がどれだけ非常識なことをしているのか、自覚していません。士葉君も同様です。
『次、いきます』
1個数トンはあるだろうリング型のブロックを、直視しているとは言え、同時に組み上げる様は圧巻です。この二人、仲が良いのか悪いのか分からないですが、少なくともQualityとQuantityの相性は抜群ですね。
しかして、夕刻頃まで続いた大騒音は作業終了とともに止みました。外壁はほぼ完成。漸く耳栓ともおさらばです。ここまで滞りなくコミュニケーションを取れたのは楊君の—Connection—のおかげ。周りの騒音なんてお構いなしなのは重宝しますね。
さて実はこれからが本番です。残念ながら底の方は私達が作業した場所ではないので、一抹の不安がありますが、それはそれとして、最終段階としてこれから氷の芯棒を溶かさねばなりません。外側と等圧の水で満たされるわけですから、大丈夫とは思いますが。
「皆さん、水圧はどのくらいだと思いますか?」
『最深部で、一平方メートルあたり約六千トンですね』
「一応耐えられる、ということになっていますが、そんなもの試してみないと分かりません」
「大丈夫なつもりの橋が落ちたり、ビルが倒れたりすることも、ままあるわけですから」
「では、—Contra—解除。エントロピーよ、還りなさい」
氷柱がゆっくりと崩れ、水へと戻っていく。
数時間経ち、どうやらリングの外壁は崩れません。さすがの品質と言うべきでしょうか。これなら外壁はどうにか無事完成したと言えそうです。明日以降ボーリングマシンの搬入、掘削の開始となるわけですね。水を抜いても問題なければ、人が中に入ることも可能です。
作業も終わったので、今日は島でキャンプ。労いのバーベキューです。
『これ、私たちがいなくなったら、誰も再現できませんね』
肉の串をほおばりながら峠姉が言います。野菜も食べなさい。
「人間が作れないから、私たちが作るんですよ」
『そうですね』
人間なら数年かかる。建材こそ搬入済みとは言え、能力者ならたった1日の作業。
「深々海封印施設」
どうしようもない能力者が変異することが想定された場合の切り札。この施設ごと爆砕してしまえば、自爆にはなりますが確実に処理ができるでしょう。一回きりの殺戮兵器です。…例えばSingularityに対する時のような。
おぉ、恐ろしい。ここが自分の墓標にならないことを祈ります。
「皆さん、何かこの建物に記念で愛称でも付けますか?」
『いいデスね!かっこいいものにしましょう』
『ICUはダサいからな!』
『あ、先生、私の名前思い出しましたか?』
「あぁ、途中から思い出しましたよ…峠和葉さん」
『正解です。良かった!…じゃあ全員のイニシャルを取って…』
『Rin先生、Yann、Yamato、峠が二人だから、ShiyouとKazuha…』
『RYYSK!』
「…待ちなさい……その名前は絶対やめましょう」
あぁ南鳥島の海は、夜もクソ暑いですね。私はため息をついた。
彼らにかかれば、レアアース掘削など余裕です。
現高1(元中3) 男5人 女3人 計8人
ちなみに司らは高2に上がりました。
青木果凛
川瀬奏太朗
金城亮
佐野俊樹
白州昌磨
峠和葉 ―PK―Quality
峠士葉 ―PK―Quantity
矢田美優 ―Silence―
能力まで出るのかな?




