Box.53 誕生日
事後処理等々、一連の作業が終わったのは23時48分…間に合った。今年は、今日は無理かと思った。
『あー、終わったわね』
『後は事務方に任せて帰るとしよう』
『ヒカル、お疲れ様。まだ今日終わってないから、電話してあげてね』
『私は…大和に送ってもらおうかな』
『おう。任せとけ』
「分かった。2人ともお疲れさま!」
「ちょっと先に出るよ」
病院施設から箱庭に続く地下通路に出てすぐ電話をする。発信はワンコール、かけた瞬間につながった。向こうは電話を握りしめてたのかな、と思うとちょっと嬉しかった。
『ヒカル、お仕事お疲れ様!』
「起きてた?」
『起きてたよ。今日は早く終わったんだね』
「だから、ぎりぎり間に合ったよ。あ、日が変わる前に伝えとくね」
「リブ、15歳の誕生日おめでとう!」
『ありがと。またしばらくお姉さんだよ』
「お姉さん、ね」
「ならしばらくはリードしてもらおうかな」
『んー。いいよ』
『お姉さんに任せときなさい!』
あんまり任せすぎるのも大丈夫かな、と思いながら話していると、ICUから箱庭に続く地下通路の終点、箱庭居住区画直通のエレベーターに着いた。ここに入ると、しばらく電波は通じない。
「じゃあ、この先は電波切れるから…また明日」
『うん、また明日。早く帰るんだよ』
「分かってるよ。…お休み」
エレベーターに乗る頃には日付が代わり、4/3になっていた。
到着を知らせる機械音が鳴り、ドアから出ると寮の目の前。よく考えられてるなぁ、と思う。
部屋の前まで来ると窓から明かりが漏れていた。今朝家を出る時、消し忘れたのかな。そう思いながら、鍵を開けてリビングに入っても、いつものようにルドが来ない。あれ?またいないのか?
『こんばんは』
…え?後ろから目隠しされて、声をかけられた。
『だーれだ?』
「…リブ?」『…正解』
『お帰り。明日になったから、また会えたね』
「…いると思わなかったよ」
『カギ開けれるからね』
ルドはリブの背中に引っ付いて静かにしていた。
確かに、僕も含めSingularityのIDカードは箱庭内の生体認証が全てフリーパスになる。でも寮の部屋は、物理的な鍵と併用だ。…まさか。
『―Particle―で鍵作っちゃった、てへ』
てへ、じゃない。Particleってつくづく本当に何でもありだな。
「リブが出来るんなら、僕も出来るんだよな」
『夜這い?』
「違う」
「リブってさParticle、気軽に使うよね」
『…?なんで?』
「痛くないの?」
そう、痛いのだ。激痛。―Trash Box―の中のParticle、使おうとしたことは何度かある。髪なら別に痛くもない。だが、腕を組み替えようとした時、腕をミキサーで擦り潰すとこうなるのか、というような大激痛だった。戻す時にも同じく激痛。
体を粒子化することは、体からすると怪我と同じで、痛覚がしっかり働いているみたいだ。
あまりの痛さに修復を諦めて―Regenarate―で再生した。あの痛みの中で、正確に能力をコントロールするなんて、正直僕はできそうもない。
『…少し、ちょっとは痛いのかな?』
「少し?」
「僕が使うと、滅茶苦茶痛いんだけど」
『先に神経を分解すると痛くなくなるよ?』
「いや、きっとそれもむちゃくちゃ痛いよ」
女性は痛みに強いとかいうけど、そんな程度の差なのか?そう言えば、リブが自分ごと相手にナイフを突き立てるようなことをしてたのを見たことがある。あれも実は痛くなかった、なんてことがあるのだろうか。
神経を、ってのも試したことはある。それでも神経を取り払う瞬間はやっぱり滅茶苦茶痛いし、神経を先に構築しないと、それ以外の再構築がうまくいかなくなる。更に元の腕にもどすことは何とかできそうだけど、リブみたいに剣にしたり、翼にしたりなんて。どうやるのか想像もつかない。この子は自分のパーツをどうやって意のままに統率してるんだろうか。
「ホント、どうやってるの?」
『あーでも、私生まれたときからParticle使えてたらしいから、痛いとかそういうのに慣れてるんだよ!』
…ちょっと痛い、ってくらいじゃ無さそうだな。
「誰かに言ったことあるの?」
『…ない』『心配かけたくないから』
『でも、ヒカルにはこういうのバレちゃうんだね』
「リブの一部が僕の中にあるようなものだしね」
床に降りたルドに聞いてみる。
「ルド、お前知ってたんじゃないの?」
「知ってたなら、床を2回叩いて」
たんたん。ルドは床を2回叩いた。
「…知ってたんなら言ってよ」
会話のために、文字盤でも用意しようかな。
『お腹空いてるんじゃない?冷蔵庫の中のもの勝手に使ったよ』
「うん、お腹ペコペコだよ」
『遅いけど、食べる?』
「ご飯は?」
『さすがに止めとく、かな』
リブが用意してくれてた、スープとチキンサラダを食べて、シャワーを浴びて、歯を磨いて…一緒にベッドに入る。何というか…流石に慣れた気がする。
『今日は疲れた?』
「あんまり活躍できなかったけど、一応リーダーだったからね」
「でも、正直言って僕がいなくてもどうにかなったのかも」
『そう?でもね、Singularityが負けると、補充が効かないのよ。勝つのが大前提だからね』
『それに他のメンバーに経験を積ませながら、最後は自分で始末をつけないといけない』
「そんなこと考えてもなかったな。…リブ、凄いね」
『もっと先輩を崇めてもいいんだよ?』
おもむろに、リブの頬をぷにぷにとつまんでみる。
『にゃに?あぎゃめてんの、こりぇ?いひゃいんだけど?』
「いや、痛みを感じないのかな、って思って」
『そんなわけないじゃん』
頬をつねってた僕の手を取り、頬ずりをする。
『ちゃんと痛いし…温かいよ』
「…無理しないでよ?」
『うん。でも私、我慢してるよ…?』
「我慢?」
『…我慢。今日は眠いだろうからくっつくだけでいいよ』
「………」
「もう眠いから寝るね!」
『お休み!また1年よろしくね』
次回更新は18日。シルバーウィーク連休中は連日更新します!




