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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす
中2編

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50/69

Box.50 クリスマス

 箱庭に着いたシンは書類を受け取ったら、さっさと帰ってしまった、というか帰らされた。欧州支部はその名の通り、欧州全体をカバーしてるらしく、シンの担当エリアはイタリア、フランス、ドイツにイベリア半島と広大。本来なら日本に来てたことがおかしいらしい。


 『No.02―Plant―がいるから、まだ持っている』とはタローさんの談。北米大陸を一人でカバーしてるNo.06 ―Satellite―も既に大変だけど、もしFactorが旅好きで世界中に因子をばらまいてたら、本当に世界は滅んでいたかもしれない。



『リブに手を出したら、コロスから』

 って捨て台詞を残してシンは帰っていった。

『次、会う時までには、手出されてるよー』

 って返したリブ。次って3年後ぐらい?僕は引き攣った笑みを浮かべながら、窓の向こうで何かを叫んでるシンに手を振った。

 




 約束の日、12/24が来た。約束はしたものの、僕は震えるほどの緊張に襲われていた。なぜなら、人生で初めて女の子とクリスマスを過ごすことになるからだ。幸か不幸か明日から週末。リブは嬉しそうに言った。

『遅くなっても大丈夫だね!』…そうだね。



 マイカさんも準備万端だった。

『私、今日全力で帰らないから。邪魔者いないし、ごゆっくりー。Factor来ても私が片づけとくわ』

 だそうだ。Singularityの裁量権は、一人で事態を収拾できるからこそ与えられたものだ。見たことないけど、実際一人でどうにかなるんだろうなぁ。巨大化して相手を掴んで海の底にいきなり沈めるとかしたら、それだけで生物は生き物でなくなってしまう。

 


 はぁ。これまで何回か、化け物みたいなのと戦ったり消したりしたけど、今日のリブの方が強敵だ。あー、SSSだし、実際にそうか。



 学校は半日で終わって、箱庭搬入口で待ち合わせ。非常口を除けば箱庭の出入り口はここだけだから、何組かのカップルもそこにいた。これ、元カノとかいたら気まずいんだろうなー。なんて考えてたら、リブが手を振りながら走って来た。こないだの軍服も格好良かったけど、今日の服は何というか、絵になる。

『お待たせ、ヒカル』僕は軽く手を振り返す。

『司、久しぶり』

 僕の隣にいた背の高い女性に声をかけるリブ…この人が司さんか。


『リブ、気合入ってるじゃん!』

『そりゃあね!大事な日だから。あ、そうだ』

 腕を引っ張られて、司さんの前に出される。

『こっちがヒカル!私の彼氏くん』

『おー、初めまして、ヒカル君。リブの相手大変でしょ?』

「初めまして。朝霧光です。…まぁ、そういう時もありますね」

『こいつ遠慮ないからね』

『ちょっと何の話?』


『いや、何でもないよ。デートが上手くいくよう、健闘を祈るね。恩寵は貸してあげれないけど』

『司、私は神様に頼るのは止めたの』

『ヒカルに会えただけで、十分恵まれたから』

『…ヒカル君、泣いていいところだよ?』

「泣きませんよ!」


 エレベーターが来た。

「じゃあ、お先に失礼します」

 司さんの相方は、まだ来ていない。

『リブ!彼氏がごちゃごちゃ言ってたら、手を縛って連れていくといーよ!』

『分かりました!』


 エレベーターの扉が閉まると、リブは腕を組んできた。周りもそんな感じだ。僕を見上げて目を閉じたリブにそっとキスをする。

 エレベーターの扉が開いた。


 近くに新設されたバスターミナルから街へ向かう。箱庭の麓は大規模な工事中だ。また何かが出来るらしい。


 繰り出した街はいつもより人が多くて、店の前には大きなリースやサンタの人形が並んでいる。


「どこ行く?」

『決めてないの?』決めてないこともないけど。

「リブが行きたいところに行こうと思って」

『……ずるい』『そう言われたら、どこでもいいって言いたくなる』


 そう言いながら、リブは僕の手を取った。

『じゃあ、あっち』


 人混みの中を歩く。ぶつかってもいいように、僕は全力で—Trash Box—のブレーキを踏み続ける。途中でリブが「これ、似合う?」と帽子を被って見せてきて、僕が笑ったら少しむくれたり、時々立ち止まって、店のショーウィンドウを覗き込んだり。


 街はクリスマスの空気に溢れていた。サンタやツリーは勿論、限定のお菓子、アクセサリー、ぬいぐるみ。こういうの、知らなかったな。


『これ、可愛い』何か見つけたみたいだ。

「買ってあげるよ?」

『これは、私が買いたいの』

 リブが手に取ったのは小さな箱。

『ふふ。Trash Boxの中の私みたいじゃない?』

「言われてみれば、そうかも」


 大切そうに箱を抱えるリブは、自分で自分を抱きしめているみたいだった。



 夕方になると、街のイルミネーションが一斉に灯る。僕たちの歩く道も足元が照らされ、いつも気にすることもなかった、タイルの模様が色鮮やかに染め上げられていた。

「綺麗だね」『うん』

 隣を見ると、リブはイルミネーションではなく僕を見ていた。

「どうしたの?」『なんでもない、よ』

 


 夕食は予約していた店。

『お店、よく知ってるね』

「調べたんだけど、どうかな?」


 マイカさんに聞くと筒抜けになりそうで、燐先生に聞いたんだよね。

『昔、付き合っていた人と一緒に行ったところを教えてあげます。喜んでくれましたよ。一見さんは入れないので、予約もしときましょう』

 だって。昔の彼女とはどうなったんだろう。燐先生、独身だよな。


 いつもの箱庭の食事とは違って、なんだか妙に緊張する。向かいに座っているだけなのに、リブと目が合うたびに笑ってしまった。

『実はここ、マイカちゃんと来たことがあるんだ。マイカちゃんも気に入ってたみたい』



 食事が終わりかけた頃、コートのポケットに忍ばせていた小箱を渡した。

「クリスマスプレゼント」

『え、なになに。開けていい?』

「いいよ」

 

 箱の中は指輪。ありきたりかな。あまり高級なものではないけれど。

『……きれい。………嬉しい!ありがとう』


『つけて?』あ、そう来る?

「わかった」

 僕は恭しくひざまずいて、お姫様の薬指に指輪をはめる。

『右手?』

「じゃないの?」

『ま、いいか』

 と言いながら、リブはずっと指輪を眺めていた。



 店を出ると、街はすっかり夜の雰囲気だった。

『……人、多いね』

「うん」

『ヒカル大丈夫?』『ずっとブレーキで気を張ってるでしょ?』

「んー、まぁそうだね」


 リブが僕の手を握って、展望台の上を指さす。

『上いこ?』『翼出すと目立つから、連れてって?』

「分かった。いいよ」

 二人で路地裏へ入り、人目がなくなったところで身体を浮かせる。

 建物の間を抜けて、夜空へ。地上の喧騒が遠ざかっていく。


 展望台の上に降りる。そこには僕たちだけの場所だった。

「こっちのほうが静かでいいね」

『うん』


 眼下には、クリスマスの街。

 展望台の向こうで観覧車がゆっくり回っている。色とりどりの光が街を縁取って、その向こうには暗い海が広がっていた。


『……ねぇ、ヒカル』

「ん?」

『今日、楽しかった?』

「楽しかったよ」

『ほんと?』

「うん。リブと一緒だったから」

『……そっか』


挿絵(By みてみん)


 僕たちは唇を重ねる。

 夜景の向こうで、観覧車がゆっくりと一周する。


『私からもプレゼントあるんだ』『ネックレス』

「ネックレス?」

『マイカちゃんと一緒に作ったんだけど。消えないように、ヒカルの髪を編み込んでるの』

「へー、すごい。でもいつの間に髪なんか?」

『ちょっとずつね。私についてたこともあるし』

 と言いながら、ネックレスをつけてくれた。

「そか。ありがとう。大事にする」


 手を握ったまま、展望台に座って回る観覧車を見ていた。

 10周回った頃にリブが話し始めた。


『ヒカル、来年も、再来年も一緒に来ようね!』

「…同じところじゃなくて、違うところにしようよ」

「リブと色んな所に行きたい」

『じゃあ10年後に来よ?』

「10年後?」

『うん。24歳のクリスマス』

「……ずいぶん先だね」


『きっと、あっという間だよ。その時は二人じゃないかもしれないけど』

「ははは、想像もつかないけど」でも、そういうこともあるのかもしれない。

『そのときも、隣にいてね』

「もちろん」








 …ねぇリブ。この時の僕はそんなこと思ってもいなかったんだ。


 今日が、君と過ごす最初で最後のクリスマスになるんだって。

第二章 中2編最終回。

次回より第三章、中3編です。


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