Box.48 未知との遭遇
『ヒカル、私が帰れないときは、直ぐに二人を連れて箱庭に帰ってて』
リブ達の帰りのヘリコプターに同乗するよう、マイカさんに言われた。迎えに行くのが嫌なわけではない。けど、これが労いとかサービスとかという話では無いってことは、マイカさんの様子から一目瞭然だった。
今回の任務の話は少し聞いた。その少しだけでも、今回の現場の後始末は混迷を極めるだろうことは容易に想像がつく。
『そもそも、死んでない人間が変異したのも大問題だし、それを処理したのも仕方ないとは言え、大問題』
『Singularityには処理に関して独自裁量権があるけど、今回のリブはグレー』
「でも、それがダメなら全部の事件にタローさんとかマイカさんが行かないと」
『だからその権限を、他の人員に下ろしてるとこなのよ』
『今のところ、学生だと司と高3の成人してる子らだけになるけどね』
日が沈みかかった頃に国防軍基地のヘリポートに着いた。リブとハヤト君の姿が見える。軍服の人はここの施設の人だろう。あと私服の知らない人影がある。
『!?、ちょっと、なんであいつがいるの?』
『誰がリブの居場所、リークしたのよ?』
「あいつ、ってあの金髪の人ですか?」
『えぇ、そう。つい先日昇進した新しいSingularity。かなりヤバいやつだから刺激しちゃダメよ』
「No.08ですか?」
『そうね。リブのNo.07仮認可が3年前で、あいつの認可はもう2年も凍結されてた』
『条件は満たしてたのに、彼の人間性と極端な能力のせいでね』
「能力が極端…ですか?」
『能力名は―Thanatos―SSSランク。能力は…突然死』
「と、突然…死!?」「殺すんですか?」
『信じがたいけどね。本当に死ぬ』
『そんな奴が、現場の裁量権を持ったらどうなるか考えなくても分かるってもんよ!』
『ローターが止まる…もう出ないとね。ヒカル、刺激しちゃダメよ?』
ヘリポートからの渡り廊下を渡り、リブたちの待つ待機場所へ向かう。リブは僕に気付いたのか、小さく手を振った。こちらも少しだけ手を振って応えた。何はともあれ、まずは軍隊的な儀礼がある。
『お疲れ様、リブ、ハヤト』
『出迎えありがとうね、…中佐』
肩に着いてる階級章を見ながら言ったようだ。いつの間にか、マイカさんの肩にも階級章が付いている。
『は、はぃ!わざわざご足労ありがとうございます、橘准将閣下!』
『マイカちゃん、准将なんだ?』
『将校来るの…は…合理的』
『中佐、今回の事案の事後対応などは、私が引き継ぐ。現場から何か報告すべきことはあるか?』
『はい、准将!既にヴァイス中佐より、Singularity権限でFactor事案に対応した、と報告を受けております』
『…はぁ?』
『よって現段階では、対応として問題になるものはないと考えております!』
もう解決した、とでも言いたそうな口ぶりだ。
『分かった。事案の検討やレポートについては貴官らの報告を待って対応しよう。将校にも伝えておいてくれ』
『は!お伝えいたします!』
『では、こちらの小官を回収次第、帰投する。管制の対応を頼む』
『了解致しました。では準備を致しますので、失礼致します!』
中佐はそそくさと管制室だろうか?隣室に退散していった。そして残ったのは、僕ら4人と金髪の男。マイカさんは、その男を睨みつけながら言い放った。
『シン…あんた何かしたの?』
『いやだなぁ、No.04。ちょっとボクの裁量権でこの現場を処理しただけですよ』『ねぇ、リブ?』
馴れ馴れしい口調だ。Singularityなら、マイカさんたちとは元々知り合いなんだろうけど。
リブが申し訳なさそうに口を開いた。
『あ、あのさ。それなんだけど…』
『ちょっと、どうしようかと思ったんだよね…確かにそのまま通すの、まずそうだと思って』
『死亡判定…前に、変異…した』
『それね。本当だったら、法律とか色々ひっくり返るんだけど?』
『そこで、ボクの裁量権で処理したことにしたんですよ。向こうも随分後ろめたい状況のようですし』
『そうでなければ、下手するとリブが殺人罪に問われてしまう。それはお義母さんとしても、まずいでしょ?』
お義母さん、という言い方は引っかかるけど、言う事自体は間違ってない。こいつはマイカさんも持っていた懸念そのままを言っている。
『そこは有耶無耶にすべきじゃないけど、娘の母親としては、まずは助けてくれてありがとう、なのかもね』
『なんでここにいるのかは、また後で聞くわ』
『いえいえ、愛しのリブを助けるためとあらば、ボクは、いずことも現れましょう』
「…愛し?」
思わず声を上げてしまった。聞こえたのか聞こえてないのか、金髪は僕に一瞥もくれない。
『ちょっと、ヒカル。…いいから』
リブは静止してきた、けど。
「良くないよ」
『はぁ…』リブは大きなため息をついて言った。
『シン、前も言ったけど、あなたの好意に応える気は、ないの』
『リブ、そんな事、言わないでよ。ゆっくりやれば良いんだからさ』
『いや、だから無理だって。彼氏いるし』
『…知ってるよ。確かボクの次のナンバー候補だよねえぇぇ?』
ここで初めて、シンと呼ばれた男がこちらを向いた。首をかしげながら、血走った目で。
『お〜ま〜えがぁ〜、No.09?』
「…違うよ」まだ。
『なら、今死んでも戦力的に何も困らないね』
その言葉と空気にゾワっとした。何だこの感じ。咄嗟に後ろに跳ねて距離を取った。
『い〜い、反応だぁ?』
こいつ、何かしようとしたのか?会って数分の人間にいきなり?
『やめて!』『やめなさい!』
リブとマイカさんが同時に叫んだ。
『シン、言っておくわ…』
『ヒカルが死んだら、ここであなたを殺す!』
『…ふふ』
『…冗談ですよ〜。仲間は大事ですから』
両手をヒラヒラしながら言う。そのしぐさが妙にリブにそっくりに思えて、更に嫌悪感が増した。
「お前、何なんだよ?」
『ボクかい?』
『ボクは―Thanatos―平和を愛する死の神だよ』
ヴァイス=独語で白。
シンの白い死神君。




