Box.47 白い死神
迎えに来た中佐さんがそのまま、私たちに施設を案内してくれた。
『元々、隣のY市で起こった施設事故の患者です』
『現在対象は仮設医療棟に隔離しています』
元々は何かの倉庫だったのかな?広い空間の中にもう一棟の建物を建てている。
『こちらです』
入り口に立っている警備員と中佐、二人の虹彩データとカードキーを使った厳重なロック。
『重厚…難攻不落』
「そうね。でも申し訳ないけど、彼らを助ける事が目的ではないから…」
彼らが中から出てきたときが私達の仕事。とすれば、ロックや建物は頑丈であるほどいい。
案内された病室に並んだ患者は、3人だった。
「え?」
私は思わず声を出してしまった。聞いていたのと違う。今回は訓練中の事故で、重傷者は複数だけど、対象者は1人と聞いている。
『3…人いる、ね』
『申し訳ない。これも機密保持のためでしてね』
『この中の誰が対象なのかも伏せたいのです』
「この人達は皆、異能者なの…ですか?」
『そうです。我々も独自に異能者部隊の創設を目指しておりまして、その訓練中の事故でした』
『その事故も、機密ですか?』
『はい。出来ればそうありたいと思います』
はぁ。何をしてるんだろう、この人達は。異能者のノウハウについては箱庭に勝る施設なんて無い。強力な能力者は、ほぼ箱庭が抑えている。にも関わらず、メンツだ何だと気にして勝手なことをして、後始末はこちら、というわけね。
病床の周囲をぐるっと見て、入室のためのIDを受け取った後、待機場所兼宿泊施設に案内された。そこはなんと。
『相部屋…だね』
『ヒカルに…殺される…余』
「大丈夫よ。殺されない」
「でも、私がやっちゃうかもしれないから、覗かないでね」
『…そんな…愚行…望まない』
軍隊みたいな組織だからかな、男女同室なんて普通なんだろう。そんなことより。
「ねぇハヤト君、事故って何があったのか気にならない?」
『気に…なる…余…』
「アヤに頼んで調べてもらおっかな」
…2時間後。
『えっとねー。情報サーバーは外部に接続してないみたいで、生データは見れてないんだけど、監視システムの録音とかからすると、どうも能力の重ね合わせ、融合の実験だったみたい』
『4人の中に<状態を共有する>って能力の人がいるらしいよ』
「ちょっと待って、4人?」
『こちらは、3人…把握』
『1人欠けてるのか。でも被験者は番号呼びされてたから、誰が欠けてるのか分からないよ。こっちで把握してる国防軍の情報に―Unison―同調能力ってのがいて、そいつが4番目って呼ばれてたやつなんじゃないか、ってことだけ』
「事故の当事者だけど、軽症だったってこと?」
『身罷われた…のかも』
「……」
『リブ、ハヤトは<もう死んでるのかも>って言ったのよ?』
「ん、あ、その可能性もあるよね」
…私は正直、他のことを考えていた。能力の融合なんて、普通は出来ない。能力の多くはその人の心の傷の発露。場合によっては、死ぬより辛いトラウマがカタチになったもの。そんな物を3つも4つも抱え込んで、心が持つはずがない。だからそんな事ができるヒカルが特別なんだ。
……。
…それで、死ぬのが…なんだっけ?
『ナンカシタラコロス』
一応、軽く忠告はしといて、二段ベッドの上で寝る。下がハヤト君。カーテンを閉めれば最低限のプライバシーは守られる。よし、これでヒカルに怒られない。
んー、なんかベッドがカタカタ震えてるんだけど…?
その日の夜、私は3人の夢に潜り込むことにした。疲れるし、お腹が空くけど仕方ない。意識がない人の中を見れるかどうかは運次第だけど、誰に警戒するべきなのか調べないと。
1人目…夢の中で本人が寝ていた。夢の中で寝てるのは本当に意識のない人だ。だから普段普通に過ごしてるハヤト君が、夢で寝ていたのはおかしい。
2人目…やっぱり夢の中で本人が寝ていた。少し寝返りみたいに動いているから、意識が完全に無いわけでも無さそう。だけど、夢の外ではこの人が一番重症だ。
3人目の女性…この人がFactor感染者だと思って入ったけど、違う。人の姿をしている。Factor感染者は夢の中で人の形をしていない。…ルドは猫だから、猫の姿でいいと思う。
結果、3人とも感染者じゃなさそう。でも気になることが一つ。3人とも身体から細い糸みたいなものが夢の外につながっていた。
…きっと4番目の能力だ。まだつながっている。まだ生きてどこかにいるんだ。
翌朝、箱庭との定時連絡。病室の3人が感染者じゃなさそう、ということを除いて情報を共有する。マイカちゃんと話した趣旨はこうだ。
①個人情報の持ち出しがこちらからできないので、箱庭のデータと照合ができない。
②司の予知だと、今日明日の災害発生率は80%に上がっている。けど、近くにいるわけではないので、他のポイントと混線してる可能性がある、と。
③今日がマイカちゃんの誕生日だ。3…。
『…フィボナッチ数だね』しー。バレちゃう。
④やっぱり4番目はいるんだろう。医療機材の搬入の通信からすると、重傷者は3人だけ。4番目は大きな怪我をしていないから、たぶん普通に施設にいる。
正直言うと病室の3人はFactor化しないんだから、それだけならもうここにいる意味はない。でも司の予報の高さが気になる。やっぱり4番目の状態は確認する必要がある…んだけど…。
「この非協力的な施設の中で、犯人を捜すの?無理!」
ミーティング途中のモニターに向かって叫んでしまった。びっくりしたようなハヤト君がおずおずと言う。
『出番か……な?』
「ハヤト君、何かできるの?」
私はハヤト君の能力はよく分からない。と言うか誰も全貌は分からないと思う。何かを召喚して闘わせるのだと思うけど、その「何か」がとにかく色々。
『―Delusion―』
『これより先、我の姿を見るに能わず』
ハヤト君がうすくなって、そのまま見えなくなった。
「透明化?」召喚以外も出来るんだ。
『然り。このまま下々を垣間見てくることとす』
『第四の使徒も見てこよう』
ドアが開いて出ていったみたい。いや、待って。こんな事できる人と同じ部屋で寝たの?私。
半日程して部屋のドアがまた開き、ハヤト君が現れた。
『見付けた』
4番目は施設の病院に入院してるけど、一見普通そうで食事も取っているそうだ。ただ実験の影響が何かあったのか、一言も話さずぼーっとして過ごしているらしい。
「どういうことかな?」
『深淵に触れて、気も触れた』
「きっと、そういうことだよねぇ」
私の予想通りなら、自分のと合わせて同調した4人分のトラウマを抱えて、精神が病んでしまった、ってことだよね。でも昨日の夢が続いてるなら、<まだ4人は接続したまま>なんだよね。どうなってるんだろう。
「4番目の人がすぐ亡くなりそうではないのね?」
『そう…普通に歩いたり、出来てた』
んー。どうしたものかな。早く帰りたいなぁ。
その夜は警戒心からか、あまり寝付けなかった。ハヤト君のせいだ。
翌日。朝のミーティングでマイカちゃんが、ぶっこんできた。
『司、100%だって』
『だから明日まで待機よ』
えー。わけ分かんない。ひょっとして今までの四人と全く違う案件が起こるんだったり?それなら辻褄が合う。
『明日までにはどのみち終わるってことね』
午前中は特に何事もなかった。あまりおいしくない昼食を食べて、レポートを書きながらうとうといると、ハヤト君が言った。
『4番目、が来てる』
ここは実質的に破棄された施設の再利用だから、医療スタッフ以外は人は来ない。しかも近付いて来ているのは暫定容疑者の一人だ。
「…止めに行く」
上着を掴んで窓から階下に飛び降りた。
「すいません、話を聞いてもいいですか?」
中肉中背といった体格のスキンヘッドの男。目は虚ろで焦点が合っていない。
『……』
「ここには何をしに?」
『…死に』
「は?」
その時だった。目の前の男と、私の後方の仮設医療棟からサイレンのようなけたたましい音が鳴る。これは―Factor―の覚醒だ!
ハヤト君から通信が入る。
『リブ、3人…がFactor化して…る』
「…何で!?」
何?この人、死んでないのに変質してる…?この人が感染者。じゃあ後の三人は?感染してなかったはずなのに!?
背後の建物の壁が倒れた。まさかこの施設、ロックだけ頑丈で壁は脆いの?それって、スパイとか警戒してるだけで、Factor災害対策になってないじゃない!
中から出てくる3人の異能者。…最悪。いや、想定の最悪のさらに上。
「ハヤト君、施設の人の退避頼める?」
『了解。…大丈夫?』
「…何とかする」
四人相手…ね。4番目以外、能力が分からない。箱庭の人じゃないから能力の名前も登録もないだろう。
「…なら速攻で1人削る!」
4番目は攻撃能力じゃない。最初に出てきた一人の首を落とすべく、硬質化した腕で斬りかかる。
ガイーーーーン!
硬い金属に当たるような音がした。硬い壁に剣が阻まれた。
「ちっ!」
思わず舌打ちする。先手必勝は不発。
「…こいつはバリア能力」
「…なら、こっち!」
そのまま返す刀で、後ろの二人目の首へ斬りかかる。
ぐにょん。切りかかった刃は皮膚を貫けなった。
「…え、こっちも!?」
この人、体ボロボロでなんで動けるのかと思ったら、そういうこと。
「スライムみたいな能力…ね」
速攻が失敗したので、いったん距離を取る。と、いうことは、3人目が2人目を怪我させた攻撃能力ね。4番目が実質無傷なのは、防御特化みたいな能力が2つ重なっていたから。
「ま、関係ないけど」
ガスガスガスガスガス!
間合いを詰めた時に置いてきた髪を硬質化して、3人目の頭部を貫く。その場に崩れ痙攣する3人目。
…後の二人は連動すると、面倒ね。
バリア能力の方が突っ込んできた。展開した巨大な盾でこちらを圧壊させようとしてくる。ヒカルのバリアに慣れ過ぎてて、対応間違ったかもしれない。このバリアは受け止めても影響はないけど、行動が阻害される。
「—Particle—」
バリアの密度は知らないけど、Particleより荒い作りなら、突破できる。
そして、突破できなかったことなんて、一度もない。
「あぁぁぁっぁぁ!」
バリアの内側に刃を形成、首を切れる!と思ったら、2番目のスライムが1番目を覆っていて防がれた。
「…ほんっとうに、めんどくさい!」
「ハヤト君、まだぁー??」
『我、顕現す』ハヤト君が上から飛び降りてきた。
『…Kokytos』
バキバキと音を立てながら、スライムは凍りつき、砕けた。次いで1人目の首を切る。
「ふぅ、助かったよ。ありがと」「…四番目は?」
『あっち!』
施設の外に向かって走る4番目。こいつ、3人をけしかけたのは確実に逃げるためか!捕まえないと、ひょっとして生きた人をFactor化できてしまうのかもしれない。そうなったら、もうカオスだ。この近辺に異能者が何人いるかなんて分からない。
逃げていく先に誰かいる。軍服じゃない、金髪の一般人だ。
『仲間を増やすつもり!?』
4番目が金髪の人に接触したと思った瞬間、ヤツはバタッと魂が抜けたように倒れた。そのまま、微かに動いていたこっちの3人も、完全に動かなくなった。
「何?」
『動かなくなったけど』
これは、あの金髪の人が何かした?…まさか?
親しげに手を振りながらこっちに近づいてくる金髪…の男。私はこの男を知っている。
「あなたが、殺したのね?」
『知ってる人?』
「えぇ。なんでここにいるのか知らないけど」
『せっかく助けてあげたのに。つれないよ、No.07?』
こいつが、こいつこそが。本当の白い死神。
「あなた…シン、何でこんなとこにいるの?」
『何って、先輩に新任のご挨拶さ』
「新任って…まさか!?」
『改めまして、Singularity-08 —Thanatos—Turner Shin Weissと申します』
『シン、とお呼び下さい』
帽子、邪魔だろw
出てきました。Singularity No.08
ターナー シン ヴァイス君




