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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす
中2編

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45/69

Box.45 世界の趨勢

『ふーん。箱、ね』


 リブの件が終わったら次は僕への尋問。マイカさんに―Trash Box―の箱の話をしたら、この反応だった。

『能力の取り込みは、相手の肉体を削ったら強制的に起こるの?それともなんか意図してるの?』

「いやー、僕も最近気付いたばっかりで」

『でも入っちゃってる能力からすると、強制イベントっぽいのよねー』

「能力はそのうち使えるようになるとして…後は箱の中身を交換できるのか、かな」

 



 空の上での27分。いろんな意味でふわふわしていたリブから、降りる直前に言われたのは『ヒカル、毛玉のことは誰にも言わないで』だった。

「マイカさんにも?」

『マイカちゃんはちょっと覗けるってぐらいだと思ってるし、アズにも口止めしてもらってる』


「…なんで?」

『普通、勝手に覗かれてると思ったら、嫌でしょ?』

 そりゃそうなんだけど、そもそもリブは分別なく人のプライベートに踏みこむような性格はしてないと思うけど…。

「ま、いいよ。黙っとく」

『ありがと』





『ヒカル、内なる能力なんてどうやって気付いたわけ?』

 …そんなわけで、夢の中でルドに教えてもらいました。なんて言えない。


「ちょっと気付いたんですよ。体を浮かせられることに。ひょっとしてルドと同じなんじゃないかって」

「で、梓さんに頭の中を覗いてもらって、やってみたら空に吹っ飛んでいきました」


『それで、たまたまリブがそこにいて、飛んでったヒカルをキャッチした、と』

『そうだ。あんた達、朝から喧嘩してた?』


『あー、喧嘩。そうそう、喧嘩!…だから話しようと思って教室の外で待ってたんだけど、反対の天井からヒカルが出て行ったからビックリしたよ』

「そうそう、乱暴に脚で開けたよ」

『何上手いこと言おうとしてるのよー。またまたー』


『ま、いいわ。取り敢えず明日は学校休みにするから、皆に伝えといて』






——————————————————————————————————————

 箱庭最深層。私はS-001と刻印された自身のカードキーで監視室に入る。この場所はSingularityのみ入室を許される場所。すなわち―Factor―の安置場所。

 

 常に異能者を生み出す因子を吐き続ける、ヤツの首の台座。忌々しくも生物としてはとうに終焉を迎えているにもかかわらず、そのペースは衰えることはない。因子を外に出さないため、水封された三重の壁の向こうに封印されて既に4年。今なお世界はコイツに振り回され続けている。



「今となっては、こいつを深海に落とさなかったことは正解だったな、創玄」

 ヒカルの猫の事例から異能者…ではなく異能動物も存在するのだということが分かってきた。魚や軟体動物にFactorが感染するのかは定かではないが、生命体自体をヤツに近づけないのが最良、との創元―At-Random―の判断は卓越していたと言える。



 だが、箱庭機能のオーバーフローは、しかし確実に迫っている。巧たちによる調査を開始する前、異能者の数は5千人と推察されていた。だが1年が経った現在、箱庭データベースの登録者は3万人を超え、どこまで増え続けるのか見当もつかない。


 <Factorの抹消、ならびにFactor災害のピークを迎えるであろう、今後20年の戦力を育成、保持すること>

 これを目標にした箱庭の戦略計画は前倒しを余儀なくされ、戦力としては不十分と思われた学生も、実戦経験を積むためにBランク以下の対象へ派遣するようになった。

 リブやヒカルの学年を現場に出すのも、偶発的に事故に遭遇したこともあるが、1年前倒した。


 増加する一方のFactor災害に対して、確実な戦力になり得る司たちに頼るのも限界に近い。司にせよ、リブにせよ再生能力、回復力に長けているから現場が回せているだけだ。負担を押し付けるばかりで、組織として彼女たちをサポートできているとは言えない。



『タローさん、私、今月出動6回目ですよ?』

「まぁそう言うな、司。他の人間が6回も出撃すれば、何人かは命を落としているだろう」

『私の担当、unknownか、S以上確定ばっかりですからねー。ま、確かに誰かが死ぬよりはマシですが』

 すまんな。珍しく愚痴る司を思い出すと、ため息しか出ない。



 Factorが日本で活動していたこともあり、日本以外で致命的な問題になっていないのがまだ幸いだが、諸外国も散発的なFactor災害へ警戒は必要で、決して余裕があるわけではない。援助の手は、燐をこちらに預けてくれている以上のことは望むべくもない。




 やはり今打てる手はそう多くはない。皆が育つには時間がいるのだ。少なくない時間が。

「私が出るしかない、か」

 そうすれば私の寿命が尽きるまで2年、いや3年は時間が稼げるだろう。だがそこまでだ。稼いだ3年で戦力の拮抗まで持っていけなければ、世界は異能者による災害に見舞われ続け、やがて異能者の排斥が始まるだろう。それは即ち私たちの敗北となる。



「創玄、私たちは何か見落としているのか?」

 誰も答える者はいない。既に未来は私達に託されている。そして次に託す順番が来るのも間もなくだ。


挿絵(By みてみん)


 生前の―Factor―は何を考えているのか分からない男だった。いつも屈託のない笑みを浮かべ、人たらしと言ってよい人間だった。彼の能力を持って新たな異能者を作ることは、愚かしいことに当初人類の革新と持て囃された。そんな男が作ったのは、異能者の未来ではなく、ただ自らの眷属でしかなかった。


 眷属とされた人々もその事実を知らず、―Factor―の思いのままに、ある日突然暴走し、自身と他人の人生に不幸を撒き散らして死んでいくことになった。

 その枷はFactorの死を持って解き放たれたが、多くの異能者にとっては、単に信管が抜けただけ。爆発物はそこに残ったままだ。その処理を私たちが担っている。



『っくそっ…!』

 苦悶の表情を浮かべ、壁を殴る。


「お前はどれだけの因子をばらまいた!何が目的で徒に異能者を増やしている!お前はもう死んでいるのだ—Factor—!!」

 モニターに映る生気のない首に向かって呪詛の言葉を吐いた。



 口の端からパタパタと垂れる血に、はたと我に返る。…ふぅ。どうにもこいつを前にすると冷静さを欠いてしまう。元々私はFactorを生理的に受け付けなかった。見るだけで、声を聞くだけで、総毛立つ不快感を感じていた。その感覚は、今もなおその感覚がフラッシュバックする程度には、強い。

 私はこんな未来が来ることを「止めたかった」のだが、もう過ぎてしまった話だ。

 そう、叫ぶくらいで解決するなら世話はないのだ。…深く深呼吸をする。

 開いた目に入った別のモニターの隅、赤くメール通信アラートが光っている。用件は…。



「…やれやれ。これは新たな希望なのか、苦難なのか」

 こいつに権限を与えることが、一縷の望みなのか。



 <緊急案件 S-08 Thanatos承認について>

タローさんってこんな感じなんですね。初めて見たw


次回更新は明日!

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