Box.44 天然
『…5分』
マイカさんの事情聴取にリブが答えた。
僕らが地上に降りたときには、僕が教室の壁と天井をぶち抜いてしまったことが、マイカさんまで伝わっていた。そりゃそうだ。
見る人が見たら、壁から天井まで続く大穴は僕の形をしているのが分かるだろう。更に砕けた破片が殆どないのは、犯人が僕だという動かぬ証拠。だけど今は現場検証に現れたマイカさんにリブのほうが尋問されている。
質問は、僕たちが『何分くっついていたのか?』まぁ要するに、先日からの僕のバリアが効かなくなってきたことに対するデータ収集だ。
ちなみに、リブがマイカさんに伝えてる『5分』ってのは、大嘘。あの後、空中で20分は離してくれなかった。その間、リブは…何というかフラフラしてたので、結局僕が支えるようになった。結果的に隨分と飛行能力—Aviation—は安定して、浮いたり留まったりはリブを抱えていても、もう支障はない。
飛ぶスピードについては、ウルトラマンみたいに左手を突き出して飛んだら速いんだけど、もっと格好よく飛びたい。それに急加速、急停止をすると、肩がもげそうに痛い。今もズキズキしている。そちらの慣れももう少し時間がかかりそうだ。
『…10分』
『あんたねぇ。カメラ映像見たら大体分かるんだから、ごまかさないの!』
先日『何分もしない』って啖呵を切っておいて、いきなりその次に『20分、離しませんでした』なんて言えないのも分かるけど。この子は、ため込んで爆発するタイプなんだよなぁ。よく分かった。爆発するまで何も言わないから、気をつけないと。
『…15…』
『……27分よ』
しびれを切らしたマイカさんは、最初から分かっていたであろう答えを、判決を言い渡すようにリブに告げた。…思ったより長かった。
『はぁ。あんたに報告任せたら、数字が1/5になるのがよーく分かったわ』
『そんな言わなくても!言うの恥ずかしいの分かるでしょ!』
『嬉しかったの!…別にいいじゃない!!』
…あ、やばい。リブ泣きそうだ。
『出番よ、ヒカル君』
隣にいた梓さんが行けという。
『お義母さんへのアピールチャンス』
お義母さんって…そんなつもりはないけど、出番なのは確か。
『天然を発揮して先生の方に立っちゃダメよ?』
分かってるって。僕はそこまで天然ではないと思うんだけどな。
「行ってきます」
『二人ともちょっと良いですか?』
『『なに?』』
…2人からの圧が強い。何でSingularity2人に睨まれないといけないんだ。だけど、逃げ出したくなる本能を抑えて、しっかりリブの方に立ってマイカさんに向き合う。
「マイカさん、リブは僕を助けようとしてくれたんですよ?何なら僕が能力の制御が出来なかったから、こうなってるんです」
『ん?あぁ、その能力の拡張についてはまた話を聞くけど、今はその話じゃないから』
『今の話は、誤魔化さずにきちんと報告できるか、ってことだからね』
『科学者としては看過できないわ』
…あ、スイッチ入ってる。これダメなやつだ。マイカさんの琴線だ。くっついてた時間なんて不真面目なテーマなのに、言ってることは至極正論。こう言われたらごまかそうとしたリブが…わる…。
横目に見たリブの目は、今にも零れそうな涙で潤み、手を握りしめながら、柔らかい唇を強く噛んでいる。…ダメだ、リブの方に着かないと。改めて顔を上げ、マイカさんを見据えて言った。
「マイカさん、僕が代りに報告しますよ!」
意外な申し出だったのか、マイカさんは目を大きく見開いてパチクリ。『あら、そう?』
「僕が伝えても、リブが伝えても内容は同じでしょう?」
『まぁ、そりゃそうね』
リブが腕に抱きついてきた。
『ヒカル〜ありがとう!ナイスアイデア!』
『助かったよ〜』
『それでいいわ…じゃあヒカル、今日の報告を聞こうかしら?』
『え、今?』
リブは僕の袖を握ったまま、かすかに首を振ったように見えた。今日は見逃してくれると思ったんだろう。
「リブ、多分逃がしてくれないよ」
マイカさんは一瞬で楽しくてたまらなそうな表情になってしまっている。これは諦めて欲しい情報を渡すしかない。
『……………わかった、よ』
「…はい、報告します」
「時間が27分かは確証はないですが、少なくとも20分以上に渡って、空中でキスをねだられました」
『…は!?』
『……ほう!?…ほうほう?』
「何度キスしても足りないように見えた様子は、すごく可愛くて、抱きしめたくなる衝動に駆られました」
『…!!!?』
『ほーーーん?』
「それ以上に空中の僕をキャッチしてくれたのが、すごくカッコよくて、正直惚れ直しました!」
『…………』
『おー』
「……以上です!」
『ひゃあぁぁぁあ!』ゴン!奇声とともに、後ろから思い切り殴られた。「痛い」
『前言撤回!自分で言うより恥ずかしい!』
『そもそも、キスしたかどうかなんて、聞かれてない!』
『あら、ホントにリブにバリアが発動していないみたいね』
『あー有意義だったから、今後の報告はヒカルからでもいいわね』
ポカポカと叩いてくるリブをなだめるのは、大変だったけど、誰かが何の気兼ねもなく、触れてくれるのはいいな、と背中に心地良い痛みを感じながら思った。でも、起こったことそのままレポートにすると、あぁなるんだけどなぁ。
『それにしても…』
マイカさんと梓さんが目と鼻を押さえながらグータッチしている。
『…いいレポートだったわ』
『あぁいうこと言えちゃうのが、ヒカルくん、<天然>なんですよ』
泣きそうと言っていながらイラストは泣いてますが…。
次回更新は明日!




