Box.43 four-ninths
「―Particle―が僕のなかにあるって?」
『その通りです』
ルドの口調からは確信めいた自信が感じられる。
「でもリブはそんなこと、一言も言ってなかったよ?」
『それはですね…。大変申し上げにくいのですが、奥方様がご主人を好きすぎて、センサーが馬鹿になっているのではないか、と』
『恐らく触れ合ったりしなくても、ご主人の近くにいるだけで、まともに何かを感知なんてできないんだと思います』
『おーい!』食い気味に毛玉が叫んだ。
「何?どしたの毛玉?」
『あ、いや、えっと……おーい!愛されてるなー!って思っただけ、よ』
「何それ?」
毛玉は急にソワソワしだした。
『ねぇ…そろそろ時間なんだけど、もういいかなぁ?』
前も時間を切ってた気がする。レムだか、ノンレムだかで夢を見ていられる時間に制限があってもおかしくはない。だけど、まだ聞いておかないといけないことがある。
「ちょっと待って」
「帰る前に聞きたいんだけど、ルド、バリアのエラーについて何か知らない?」
『エラー、ですか?』
「そう。リブの髪や鞭を上手く消せなかったんだけど…」
『あぁそのことは、ですね…』
『…それ、こないだマイカちゃんが言ってたじゃん』
『あの後一回も…してないけど…』
「……」
言葉を遮るように毛玉が言った言葉に、僕はルドと顔を見合わせる。猫は本来表情が分かりにくいのだけど、何かあきれているような顔に見えた。
「なぁ、毛玉」
『なに?』
「お前って、リブ?」
『……ひっ』
ブツッ!!
夢は唐突に終わった。きっと当たってたんだろう。目が覚めたので、真っ暗な部屋から人工灯の薄明りに照らされたベランダに出る。見下ろした先にある橘邸に明かりがついてるのを見て、思わず吹き出しそうになるのを堪えた。
『ありがとう、リブ』
スマホで感謝のスタンプを送ってみた。既読は付いたけど返事はなかった。
翌朝の学校、机に突っ伏してこっちを見ないリブの頭をポンポンと軽く叩く。声を掛けても反応がないので、もうそっとしておくことにした。
―Trash Box―の能力の箱。ルドは能力の因子が記憶と混ざってたと言っていた。なら記憶の箱に能力が混ざってたんだろうか。記憶の箱、と言えば―Eternal―梓さんに聞いてみるのが糸口になるかもしれない。
「ねぇ、梓さん今時間ある?」
昼休み。いつものように、積み上げた本を冗談みたいなスピードで読んでいる梓さんに声をかけた。
『あら珍しい。何か相談ごと?』
言われてみれば、あまり話しかけないかもしれない。リブの記憶の管理をしている梓さんには僕らのことが筒抜けなので、気恥ずかしくて近付きづらいんだ。
「時間があるときに、僕の記憶を覗いてみて欲しいんだけど」
『何か探しもの?』
「そんなとこ」
『調べ物の量によっては時間がかかるけど、いいの?』
「いいと思うよ。リブもあんな調子だし」
わざと聞こえるように言ってみたけど、反応はない。昼食も食べていなかった。お腹の音が聞こえるから、生きてはいるみたいだ。
『じゃあ、放課後でいいかしら?』
「わかった。タローさんには今日のトレーニングは休むって伝えとく」
最近タローさんは小6中1の新入生のトレーニングで忙しい。何をしているのかはよく知らないけれど、かわいそうに。
――放課後。
夕日が差し込む教室には、梓さんと僕だけが残っていた。リブはどこかに行ったのか、いなかった。トレーニングかな。
『さて、ヒカル君のご要件は?』
「えっと、ざっくりした言い方なんだけど、僕の記憶の形を見て欲しいんだ」
『形?』
「以前見てもらった時の印象でもいいんだけど、僕の記憶ってどんな形をしてた?何というか心象風景的な意味で」
『そうね…今とは違うのかもしれないけど、一年前は真っ暗な空間に、ふわふわと箱が浮かんでいたわ。7…8…9個ね』
『一番大きいのが真ん中にあるから、太陽系みたいって思った覚えがあるわ』
「そう、まさにそれ!」
「ルドが言うには、その星が―Box―らしいんだ」
『ルドって、ヒカルの猫ちゃんよね。ちょっと何を言ってるか分からないから、記憶見せて』
「あぁ良いよ。昨日の夢の話なんだ」
『…ますます訳がわからない。ヒカル君、リブに似てきたわね』
「え。あの説明下手な感じに似てる?」
梓さんはくすくすと笑った。
『ついでに今の心象風景も見てみるわね』
『―Eternal―』
『んー。前より真ん中の太陽の箱が明るい感じがするわね。だから全体に前より空間が明るくなってる。他の星の色合いも前よりはっきりわかるわ』
『太陽系で言うと、惑星のなかでは金星の位置の箱が、特に他より明るい感じね』
『後は木星と…一番外側の海王星が光ってるわね。あとは…月みたいに他に照らされてるだけで、自分で光ってはないわね』
「太陽と金星、木星に海王星ね」
「その箱を操作するのってどうしたらいいと思う?」
『それは分からないわね。でも何か集中してイメージしてみたら?そうすると、記憶の箱は整頓されるから。何か反応があったかは見ていてあげる』
『この光ってる箱に能力が入ってて…箱を操作すると、自分とは違う能力が使えるのね』
「そうらしいんだけどね」
結局そこから1時間。出来たのは記憶の箱を揺らすぐらいだった。
「…難しいなぁ」
「ゴメンね、手伝ってもらったのに」
『でも、使おうとしてるのって、言ったら他人の能力でしょ?すぐできる方がおかしいと思うわよ』
『アクセルの踏み方一つでも、違うはずよ』
「……そうか。そうだよ!さっきまで能力のアクセルを、無意識に軽く踏んでた気がする。ひょっとしてベタ踏みすれば…」
ふわっと身体が浮く。
『浮いた!』
「やった!成功おおおぉぉおあぁ!!」
『ヒカル君!?』
左腕を引っ張られたような感覚で、空に跳ね上げられる。教室の壁は…僕にとってはあってないようなものだ。しまった。ルドの飛行能力は左手に宿ってたから、バランス取らないとこうなるんだ。やばっ。地面より天井が近い。
これ解除したら、どれだけ深く落ちるんだ?でも解除しないと箱庭を突き破ってしまう。
って迷ってたら、飛行能力が解除されてしまった。……落ちる!
…と思った瞬間、白い翼の生えた女の子に横薙ぎに攫われた。
ちょっとむくれた顔で見上げてくるリブ。
『…何してるのよ、ご主人さま?』
『…トレーニング。でも助かったよ、奥方様』
ふふ、ははは。…どちらからということもなく、2人でしばらく笑った。
『これ、一緒に練習やったほうが良さそうね』
「うん、飛べる人と一緒にやったほうが良さそうだ」
同じ学年に飛べる人はリブしかいない。
「お願いしても良い?」
『……キスしてくれたらいいよ』
「…その前に下ろしてくれない?」
『……キスしてくれたらいいよ!』
どうなることかと思ったけど、リブが無事にヒカル君をキャッチ。なかなか降りてこないけど…遠くだから見えないと思ってるわね。
「あーやっぱあの2人、尊いわー」
Trash Box 裏設定
T1: 太陽…Particle
T2: 水星…空席
T3: 金星…Aviation
T4: 地球…空席
T5: 火星…空席
T6: 木星…Eruption 第一話で腕ふっとばされた人
T7: 土星…空席
T8: 天王星…空席
T9: 海王星…Regenarate
という感じで収まっています。
次回更新は金曜日です。




