Box.41 Interlude 〜side Maika vol.1〜
※50話作成時点の記載。
チェックありがとうございます。
50話作成時点で、各章が25話刻みになりました。当初25話を章最終話にする予定がなかったので、普通の引きにしてたのですが、そういうことになりましたので、それらしく加筆修正しています。設定変更はないので、読まなくても大丈夫ですが、良ければチェックしてみてください。
ピピピピピピピピピ…バン!
朝6時。あーあ、もう朝だ。朝はいつも辛い。テンションが上がらない。でも起きないといけない。誰か起こしに来てくれないかな、朝のコーヒー淹れてくれるとうれしい。でもうちの寝坊助にそれを期待するのは無理だ。あー昨日は酔っぱらって寝てしまったから、身体が縮んでいる。戻さないと。
鏡を見ながら、ダボダボのパジャマがぴったりになるまで調整する。小さいと童顔すぎて威厳がなさすぎるから、やっぱこれくらいにしとかないと。ちなみにこのことを知ってるのはタローとリブだけ。ひょっとしたら司と梓はどこかで知っているかもしれない。
私の母は自由な人だった。自由に恋愛し、外国に渡った結果そこで知り合った父と出会い、私が生まれた。厳格な祖父が激怒したことは言うまでもない。それから10年実家に寄り付かず、最後は不幸な飛行機事故で亡くなった。両親と妹を含め492人が亡くなり、助かったのは事故の衝撃で異能に目覚めた、私一人だけだった。
私の能力は―Supernova―簡単に言うと巨大化能力だ。巨大な着ぐるみをかぶっているようなもので、今なら全長1000mぐらいなら余裕でいける。飛行機事故の時は無我夢中で大きくなった自分の体をクッションにして助かったようだ。
事故後、一人になった私を祖父の橘創玄が引き取ってくれた。彼も異能者だったから、異能者の私を特にかわいがってくれたのだと思う。
私は祖父に報いようと思った。
創玄は異能者の権利向上や有能さの広報に人生を捧げてきた人だった。彼が異能者管理組織の代表になるに当たり、私も当然祖父を支えようと思った。順当に飛び級を重ね、18歳の時には大学卒業資格を得て、箱庭創設メンバーに名を連ねた。そして私の能力を使って、箱庭日本支部の地下空間は作られた。地下に潜って能力発動、解除すると私がいた空間がそのまま空洞になる。それを何回か繰り返すと箱庭の原型の出来上がり。後は壁を補修して完成だ。そもそも死の恐怖と自分の小ささに絶望して目覚めた能力だと思うけど、だから巨大化っていうのは、なんか「違う、そうじゃない」感が拭えない。だが結果的にはオーライだ。
当時(というか今も!)まだ若かった私の立場は、箱庭の建造に貢献したことで、創始者の孫として以上に箱庭で確固たるものになる。今現在は創玄の実質的な引退後に実務を引き継いだ、タローの右腕として、こき使われている。…いつかぎゃふんと言わせてやる。
そう、リブのことは生まれた時から知っている。
—Factor—がまだその名を持たず、箱庭の関係者だったころ、ある異能者が暴走した。箱庭の黎明期であり、対外的なイメージを危惧して秘密裏に処理された彼女の体の中に宿っていた命、それがリブだ。後から振り返れば、この事件はFactor案件の初のケースだった。
<命>という意味で名付けられた、父親の分からないあの子を私は引き取ることにした。自分と同じように両親のいないこの子を哀れんだのか、あるいは幼かった妹をこの子に重ねたのかもしれない。生きられないかもしれないと思った命は、されどたくましく力強く、大きく育っていった。とは言え、生まれつき—Particle—を備えたその子を育てるのは、苦難の連続だったのだが。
ひょっとして、Factorがあの子の父親なのではないかと考えたことは何度もある。今でもその疑いはぬぐえない。だけど、漸く幸せを掴もうとしているリブに「世界の混乱はあなたの父親のせいよ」なんて、そんな重荷は背負わせられない。
祖父が倒れたとき私は一計を講じた。—Factor—に触れることを異能者の禁忌と定め、祖父の施した封印を守ることを主張したのだ。予想通り反対する者はいなかった。これで誰もリブとFactorの関わりを調べることができなくなる。あいつの不活化を待つ必要があるが、そうなればすぐにでも、塵ひとつ残さずあらゆる証拠ごと、この世から消滅させてやる。それが母親としての私の責務だ。
もし私が失敗しても、ヒカルがいるならあの子は大丈夫だろう。今なら義理の息子としても及第点をつけられる。殺すとか殺さないとか、不穏な約束をしてるみたいだけど、何十年も先のことは2人で考えてもらったらいい。
さて、今日は報告を受けないと。朝早いから恐縮だけど、もう1泊したいという彼女らの希望を叶える交換条件だ。
朝7時半、箱庭管理棟執務室。
『失礼します』
ドアがノックされ、司が入ってきた。
「おはよう。お仕事お疲れでした」
『ありがとうございます。朝早かったけど、皆リフレッシュできたと思います。で、今回のFactor案件…そうですね。あれ、正直言って結構大変な部類でしたよ』
『私だから困らなかった、ってレベルです』
「そうみたいね。まさか高高度落下作戦で解決しないのがいると思わなかったわ」
『あぁ、自分でやっといて言うのもあれですけど、叶にも言われましたが、あの方法はやっぱり法律違反ですよ』
「…見る人が見ればね」
悩ましいのだ。今回の案件のように徹底的に体を破壊しないと活動が停止しないケースもある。異能者に向く恐怖と批判の目を逸らすためには、可能な限り迅速かつ確実な対応が必要だ。にも拘らず、どちらの味方なのか知らないが、人権を叫ぶ連中は『人間である異能者への殺人だ』と非難し、結果として異能者の危険性を高め、分断を煽っている。
「プリヤはどうだった?」
『それです。今回の一番の収穫ですよ。プリちゃん、凄かったですね。今言ったような厄介な相手が、—Fortune—でほぼ無力化してました。あそこまでなってたら、誰でも対処できたと思うくらいです』
『あそこまで無法な能力とは思っていませんでした』
「あんたのも、大概無法だけどね」
「未来視の方はどうだったの?予測は当たった?」
『概ね。当日に見たものとは誤差はほぼなかったと思います』
「なら、Factor災害の予見に使えなくもない、か」
『私が無休で働けば、ですね』
「だから、悪いと思って、一泊彼氏と過ごす時間を作ってあげたじゃない?」
「元気とは仲良くやってるの?」
『そりゃあ、もう!』『しっかり充電してきました』
この子たちの仲がいいのに越したことはない。—Ghost—の能力を最大化するには、司と一緒にいさせた方がいいことは、最初から分かっていた。司たちが付き合いだしたのは結果論だけど、まぁキューピッド的なことを何もしなかったわけではないので、願ったりかなったり。それにしても何だか過去の経験上、カップルを作るとお互いの能力が向上するのよね。…切磋琢磨と言うには違う何かがありそう。
「あープリヤの目処がつきそうなのはいい事だけど、日本中を警戒するには手が足りないわー」
「死期が近くなった異能者は、箱庭に集めてしまう方が合理的かしら」
『仕事にかこつけた旅行、いけなくなっちゃいますけどね』
「警戒という名の実質掃討任務を旅行と思えるのは、司くらいよ」
『そうかもしれません。…まぁまた、お呼びくださいな』
「…分かった。ありがとう」「報告お疲れ様」
『はい。では、失礼します』
「…さぁ、行きますか」
今日も授業がある。うちの寝坊助ちゃんは、しっかりと学校にきてるかしら。




