Box.4 Particle
『いっくよー!そっちも構えて!』
「いやいやいやいやいや…」
リブは構えた剣先をふらふらゆらゆら…と思ったら一瞬で踏み込んできた。
「ちょっ!おい!待てって!うわっ!!」
リブの横薙ぎの初撃をベッドから飛び降りて、かろうじて避ける。
『君の能力は、自分への攻撃に、反応する、んんでぇっしょ!?』
とんでもなく重いものを振り回しているように、右手の剣を力いっぱい振り抜くリブ。ドガン!リブの強烈な打ち下ろしが、さっきまで横になっていたベッドを砕く。破片が飛んできたが、僕に当たる前に消えてなくなる。
『おーい、何気楽に壊してるの』『高いのよ?』マイカは頭を抱えた。
(はぁ。でも、このくらいの衝撃でも能力が発動するのね。それにしても武道の経験なんて無さそうなのに、動きへの反応は鋭いわね。とっさの反応が良いというか、小動物的?)
「ちょっとその剣、何キロあんの!?」
『レディーに重さなんて聞くもんじゃないよ!っと』
腕がもげそうなくらい、自分の体ごと振り回す勢いで回転しながら切りつけてくる。
『ぐっるぐっるソー―――ド!』
おいおい、いつの間にか左手も剣になってるし。あっという間に背中が壁に当たる。
「ちょっと、そこの、えっと偉い人!止めてください!」
『マイカ、だよ~。まぁまぁ、一発食らってみなよ』マイカさんはひいきのアイドルでも応援するように、すっかり観戦気分だ。
リブも攻撃をやめない。出口の反対に動かされ、部屋の角まで追い込まれた。
『そうそう、男は度胸、身を捨ててこそ受かるテストが、あるん、だ、よ』
跳躍して思い切り回転をつけながら切りかかろうとするリブ。…これはやばい。逃げられない。
「それは『受かるテスト』じゃなくて『浮かぶ瀬だ!』って違う、君が怪我をするんだ!」
リブの右の剣戟が鼻先でぴたりと止まる。左の剣を僕の肩に押し当てるようにしながら、いたずらっぽく笑うリブ。
『私の心配してくれるんだ?へー。それじゃあ私の身を捨てないと、ね!』
大きく振りかぶった両の斬撃が僕に届く瞬間、走馬灯のようにルドの最期が瞼に浮かぶ。
チリになる体、残された白い前脚。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
ヒュンヒュン、ヒュンヒュン…ズガン!ドガン!僕に触れた剣の根本は消滅し、支えを失った両手の剣先が後ろの壁と彼女が入ってきたドアへ刺さって、ドアはそのまま派手な音を立てて倒れてきた。マイカさんは大きな目を見開いて、ぱちくり。一方リブはなくなった腕先を不思議そうに眺めていた。
『すごいね』リブは一言、そう言った。
マイカさんも我に返り
『あ、私としたことがつい見とれてしまったよ。リブ大丈夫かい?…って大丈夫なんだけど』
『OK、ヒカル君、ここからが君とリブの相性の良さ、だよ』
「いやどこが大丈夫?腕無いんだよ。早く止血しないと!」
でも剣から血は出るのだろうか?
『ん、大丈夫』
心配をよそにリブはこともなげに言った。
リブが答えるや否や、飛んで行った剣先が光りながら形を失い、蛍のような光の粒になって彼女の無くなった両腕に集まる。そのまま全身が光り輝き、光が消えると腕が元通りになっていた。にっと笑うリブ。
え、治ったの?
『これがリブの能力、分解再構築—Particle—だよ』
今度はリブの前に仁王立ちしたマイカさんが、鼻息荒く続ける。なんか似てるなこの二人。
『この子は自分の体を自由に作り変えて、元に戻すことができる』
釈然としない部分もあったけど、納得するしかなかった。自分のパーツ——というべきか分からないが——全部回収したのか、確かにこの子は一滴の血も流していない。
『さて、さっきも言ったけど、ここで君に学んでほしいことがあるんだ』
リブを見せつけたことで大体察しはつく。同じ異能でも、彼女とは熟練度そのものが違う。
『まぁゆっくりでいいよ。じゃあリブ、悪いけど、ヒカル君は動けそうだし、彼の教室と部屋に案内してもらえる?ここのIDは作ってるから』
ぼーっと手を見つめて立っていたリブが、ふと我に返ったように見えた。
『えー、えっとね。私お腹すいちゃった。うん、だからまたね、ヒカル!マイカちゃんも、今日のレポート出しとくから!』
両手を軽く握ったまま、ふりふりと手を振り、彼女は壊れたドアからぱたぱたと出ていった。僕はマイカさんと風通しの良くなった病室に取り残された。あれ、さっき話したいことがあるって言ってなかったか?
『…おほん!』
あ、仕切り直しする気だ。これ。
「えっと、学んでほしいこと、多分自分の力を管理する、ですね」
『正解』
わが意を得たり、という顔。背が高いから距離が近いと首が疲れる。ころころと表情が変わる人だ。この人何歳なんだろう。30歳は過ぎてそうだけど。
『あの子、ずっとここで暮らしているから、ちょっと規格外なんだけど』
『基本的には能力、っていうのは自分ができるってイメージすることしかできない』
『それに、びびって使わないでいると、どんどんコントロールを失っていく』
『嫌なことはあったかもしれないけど、能力は気楽に使っていった方がいい』
『経験的には『こんなことで?』っていうような、ちょっとしたことから使っていく方がむしろいい』
「経験?マイカさんの?」
『おっとそれは、レディーのひ、み、つ』人差し指を口に当て、いたずらっぽくウインクする。
『例えばね』
『巨大化する能力があったとして、どこまで巨大化できるかはイメージ次第』
『5メートル?40メートル?100メートル?ひょっとして10キロかも』
「息が出来なくなりますよ」マイカさんは笑う。
『そういうイメージもあの子は本当にずば抜けているから、勉強になると思う』
『もちろん相性がいい、ってのも本当』
「その相性って…」
『君は誰かに傷つけられるのが怖いんでしょ?だからそんな能力。でも能力が強すぎて誰かを傷つける。それも怖い』
どきっとしたというより、少し寒気がした。合ってると思う。でも、この人はいつから僕のことを知っているんだろう。
『あの子はあの子で問題は抱えてるんだけど、少なくとも君の力が少々あの子を壊してしまうことがあっても元通り大丈夫、ってこと。ね、相性良いでしょ?』
その日の夜、テレビ通話で両親と話をした。父さんも母さんも、僕の異能に気づいていたし、マイカさんに相談していた、と聞かされた。衝撃だった。気づかなかった。僕が怖くなかったのだろうか。僕が学校を壊したことはどうにかなったらしい。(マイカさんの力だろう)重症者が一人。入院中なので詳しくは分からないそうだ。『頑張りなさい』そう言ってくれた両親に感謝を告げて通話を切った。
『その気になったらいつでも出られるあなたに、消灯も守秘義務もないわ』
マイカさんはそう言ってくれた。建前かと思ったけど本当だった。色々な手続きが終わり、寮に案内された。用意された部屋はグレーの冷蔵庫と黒のベッド、木目の勉強机だけの殺風景な場所だったけど、ベッドに入ると疲れからかすぐに眠りに落ちた。そしてまた夢を見た。
『……お疲れ様。待ってたよ』
「またお前か」
毛玉だ。また暗闇に目立って白く光る毛玉が浮いている。そういえばリブも光ってたな。ふと思い出した。
『誰か女の子のこと考えてるでしょ』
思わず吹き出してしまった。
『当たり?』
「別にいいじゃん」「で、なに?」
『今日は会いに来るつもりなかったんだけどね。リハビリ』
「リハビリ?怪我でもしてるのか」
『毛玉だけに。ぷぷぷ』
余裕だな。でも気付く。毛玉の横側の毛並みが両方ともガタガタだ。
「バリカン負けでもしたの?」
『そんなとこかなー。ちょっと強いバリカン』
「気を付けなよ」
毛玉がバリカンの上を跳ねているのを想像した。
『気を付ける』
『…そうそう、ルドの白い脚持ってる?』
そういえばどこに落としたんだろう。教室のがれきに埋もれてしまったのだろうか。
「持ってない。供養してやらないとだけど、がれきの下かも」
『探していい?』
「いいけど、夢の中に持ってきてくれるの?」
『それもいいね。』『じゃあ探してみるよ』
「僕はここから出られないからお願いするよ」
マイカさんは出てもいいと言ってくれたけど、大丈夫と思うまで箱庭を出る気はないんだ。
『わかった。でも期待はしないでね。じゃあ明日も頑張って』
『お休み』
「ありがとう」
「お休み」
読了ありがとうございます。
本作品はカクヨムに先行連載しております。大体1W遅れでなろうに投稿しています。当面は金土日に1話ずつ更新の予定です。よろしくお願いします。




