Box.3 白い髪の少女
カクヨムで先行掲載β版公開中。
*なろうは挿絵作成の関係で数日遅れです。
https://kakuyomu.jp/works/2912051602729913334
『起きたかーぃ?』入ってきた女性は臆面もなく、軽い感じで呼びかけてきた。
『おはよう、朝霧くん』
『ん?顔が赤いね。どこかにぶつけたかな?』
思わず顔を隠すように頭を下げる。目だけはしっかり相手を見据えて。
「何でもないですよ……あなたは、誰ですか?」
女性は自分のIDカードを示しながら答える。ID番号は指で隠れて見えない。
『橘・サーラ・マイカ。今日は6/12金曜日、君は1日寝ていたわ』女性は笑う。
『私はこの施設の責任者みたいなものね。名前長いからマイカでいいよ』
「施設?」
見透かされるような大きな目が覗く。背中がぞわぞわする。
『ACU: Anomaly Counter Unit付属異能者保護研究施設。通称《箱庭》、の日本支部ね』
最悪だ。その施設のことはよく知っている。調べたことがある。能力者——彼らは異能者と呼んでいる——を保護しているという名目で閉じ込めている、と言われている施設だ。軍事転用なんかもしているらしい。そして自分は学校を壊している。当然けが人もいるだろう。能力で人を傷つけた。そういうやつは例外なく、箱庭送りになるんだ。
「拘束しないんですか」
『拘束?あぁ、自分が何をしたか分かっているのね?』
「僕は教室を吹き飛ばしました」…そしてルドを殺しました。
『ん~。隣の教室は崖の上だけど無事だし、入口のドアは残っていたから、そうね。大体94%くらいね』
「…同じですよ。ここ、犯罪を起こした異能者を閉じ込める場所でしょ?」
「だから僕も」
『あー世間のイメージってそうなのね、残念』
しばらく考えたような仕草の後、大げさにため息をついて続ける。
『で、君さ、私たちにそれができると本当に思って言ってる?』
「出来ないんですか?」
『んー。私たちの仕事の一つは、君の言うような異能者の起こした事故の後始末。そのために君をここに一時的に避難させた。権限があるからね』
『でも正直に言って、君の能力を拘束することは難しいと思うの』
「…難しい?」
『君の能力、普通じゃないのよ』
「異能に普通も何もないでしょう?」
異能者自体が普通じゃないのだから。
『そう言われたら身も蓋もないんだけどさー』
『例えば磁力を操る、なんて能力だったら、プラスチックの牢獄に繋いでおけば拘束できるわけだけど、君の能力は<触れたもの全てを消す>。これは単純なバリア能力なんかと、わけが違う』
「そうなんですか?」
『君が寝てる間に少し調べたからね』
『手錠みたいな拘束具はぜーんぶ消えちゃって無意味だったし、結論としてはこちらから君に協力してください、とお願いするのが<手っ取り早い>のよ』
『手っ取り早い』って?多分、磁力の人は実際にそうして拘束したんだ。『拘束は難しい』とも言っていた。この言い方は、手段はあるってことだろう。この人たちは僕を逃がすつもりはない。面倒事にしたくなければここにいろ、ということだ。
『拘束する方法がない』なんてこの人は言っていない。
ベッド横の椅子に腰掛け、僕を指さして続ける。
『君みたいな特殊な能力者は世間から疎外されるの。心当たりあるでしょ?』
「…痛いほど」頷くしかなかった。
『このまま帰っても、元の学校には戻れない。保証するわ』
『だから私達から君への提案があるの』
「提案?」
『そう。君の後見人への立候補』
「…?」
『私たちが君を監視監督します、って世間的な体面を決めるの』
『平たく言えば私たちと一緒に、ここ箱庭で暮らしましょう、ってこと』
「??」僕は意味が分からなかった。
『実は、君のことは前から知っていたの』
『SNSでも上がってたわよー。変わったやつってね』
『それで今回のことで、昨日改めてご両親にもあいさつしたわ。息子さんをください、って』
「…はぁあ!?」…言い方。
『事情を伝えたら心配はしてたけど、二つ返事だったわよ』
『ご両親は普通の人みたいだから、正直困るわよね』
『学校ぶっ壊せる息子が、何もなかったように帰ってきたら、さ』
目の前が暗くなった気がした。「あぁ。もう帰る場所はないんだ」と思った。僕が僕自身を怖がっていたくらいだ。両親の気持ちも分かる。普通の人からすると、恐怖でしかない。いつ爆発するか分からない爆弾と一緒に暮らすなんて、普通は無理だ。
「…分かりました。でも僕が死ねば全部済むんじゃないですか?」
「んー」
『それされると、さすがに私が君の両親に怒られるわ』
『……多分ね』冷たい言い方だ。
『でも本当に死ぬかどうかは、少しこっちの話を聞いてからでもいいでしょ?』
「…えぇ、まぁ」
『理解が良くて助かるわ。やっぱ君賢いね』
にっこりと笑う。どこまで本気なんだ、この人。
コンコン。今度はノックの音がした。
『入っていいよ』
『はーい』ガチャ。
ドアが開くと青い服を着た少女が立っていた。少しグレーがかかった長く白い髪。身長は僕と同じぐらいだろうか。ずかずかとマイカさんの前に仁王立ちして、右手でピース。
『君がヒカルくんだね!』『わたしはリブ!』
『君に聞きたいこと、話したいこと、いっぱいあってね!』
……なんだか仰々しい、というかわざとらしい。なんだ、こいつ?
この少女は何か余計なことをしているようだ。マイカさんが顔を若干引き攣らせながら言う。
『改めて、この子はリブ。ここ箱庭に住んでる異能者よ』
『私たちが建前上、君の後見人になるためには、そんじょそこらの人材が担当だと、お上が認めないのよ』
『それに私が思うに、この子の能力は君とすごく相性がいいから、君がここに慣れるまでお世話係を頼むことにしたの』
「……相性?」
『試してみる?』いつの間にか少女のピースサインが長く伸び、白い鋭利な刃物になっている。
「…へ?」
『いっくよー!』




