Box.3 白い髪の少女
『起きたかーぃ?』入ってきた女性は臆面もなく、軽い感じで呼びかけてきた。
『おはよう、朝霧くん』
「……誰ですか?」
女性は自分のIDカードを示しながら答える。ID番号は指で隠れて見えない。
『橘・サーラ・マイカ。今日は6/12金曜日、君は1日寝ていたわ』女性は笑う。
『私はこの施設の責任者みたいなものね。名前長いからマイカでいいよ』
『施設?』見透かされるような大きな目が覗く。背中がぞわぞわする。
『ACU: Anomaly Counter Unit付属異能者保護研究施設。通称《箱庭》、の日本支部ね』
最悪だ。その施設のことはよく知っている。調べたことがある。能力者——彼らは異能者と呼んでいる——を保護しているという名目で閉じ込めているといわれている施設だ。軍事転用なんかもしているらしい。そして自分は学校を壊している。けが人もいるだろう。能力で人を傷つけた。そういうやつは例外なく、箱庭送りになる。
「拘束しないんですか」
マイカは少し首を傾げた。
『拘束?』
「僕は教室を吹き飛ばした」ルドを殺した。
『ん~。隣の教室は崖の上だけど無事だし、入口のドアは残っていたから、そうね。大体94%くらいね』
「同じですよ。ここ、犯罪を起こした異能者を閉じ込める場所でしょ?」「だから僕も」
マイカはしばらく考えてから言った。
『世間のイメージってそうなのね、残念』大げさにため息をついて続ける。
『で、君さ、私たちにそれができると思って言ってる?』
『実は君のことは前から知っていたの。変わった能力の子ってね。それで今回のことで、昨日改めてご両親にもあいさつしたわ。息子さんをください、って』
「…はぁあ!?」…言い方。
マイカはベッド横の椅子に腰掛け、僕を指さして続ける。
『私たちの仕事の一つは、君の言うような異能者の起こした事故の後始末。そのために君をここに一時的に避難させた。権限があるからね。でも正直に言って、君の能力を拘束することは難しいと思うの。だから私たちから君への提案があるわ』
『君の後見人への立候補』
「?」
『私たちが君を監視監督します、って世間的な体面』
『平たく言えば私たちと一緒に、ここ箱庭で暮らしましょう、ってこと』
「??」僕は意味が分からなかった。
マイカは続ける。
『君みたいな特殊な能力者は世間から疎外されるの。心当たりあるでしょ?』
「…痛いほど」頷くしかなかった。
『それに例えば磁力を操る、なんて能力だったら、プラスチックの牢獄に繋いでおけば拘束できるわけだけど、君の能力は<全てを消す>。これは単純なバリア能力と、わけが違う』
『だから拘束具は多分ぜーんぶ消えちゃって無意味だし、こちらから君に協力してください、とお願いするのが『手っ取り早い』のよ』
納得した。この人たちは僕を逃がすつもりがない。多分、磁力の人は実際にそうして拘束したんだ。面倒にしたくなければここにいろ、ということだ。拘束する方法がない、なんてこの人は言っていない。
「…分かりました。ここにいます。」
『理解が良くて助かるわ。やっぱ君賢いね』マイカはにっこりと笑う。
『じゃあ早速、施設を案内させるわね。あと、大したこと無さそうだけど、怪我が治ったら能力訓練も兼ねて、箱庭の学校に通ってもらうけど、いい?』
箱庭に学校?そんなのあるのか。正直行きたいとは思わないけど、訓練という言葉に興味を持った。ルドを死なせた事実は、僕に現実を突きつける。
「この力、使いこなせるようになりますか?」
『それはここで過ごしてみればわかるわ』
『少なくとも重荷を一人で抱え込まなくてよくなるはずよ』
コンコン。今度はノックの音がした。
『君の『重荷持ち』が来た』『入っていいよ』
『はーい』ガチャ。
ドアが開くと制服姿の少女が立っていた。少しグレーがかかった長く白い髪。身長は僕ぐらいだろうか。ずかずかとマイカさんの前に仁王立ちして、右手でピース。
『君がヒカルくんだね!』『わたしはリブ!』
『君に聞きたいこと、話したいこと、いっぱいあってね!』
……なんだか仰々しい、というかわざとらしい。なんだ、こいつ?
この少女は何か余計なことをしているようだ。マイカさんが顔を若干引き攣らせながら言う。
『改めて、この子はリブ。ここ箱庭に住んでる異能者よ。私たちが建前上、君の後見人になるためには、そんじょそこらの人材が担当だと、お上が認めないのよ。それに私が思うに、この子の能力は君とすごく相性がいいから、君がここに慣れるまでお世話係を頼むことにしたの』
「……相性?」
『試してみる?』いつの間にか少女のピースサインが長く伸び、白い鋭利な刃物になっている。
「…へ?」
『いっくよー!』
読了ありがとうございます。
本作品はカクヨムに先行連載しております。大体1W遅れでなろうに投稿しています。当面は金土日に1話ずつ更新の予定です。よろしくお願いします。




