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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす
中1編

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2/72

Box.2 毛玉

カクヨムで先行掲載β版公開中。 

*なろうは挿絵作成の関係で数日遅れです。

https://kakuyomu.jp/works/2912051602729913334

 …頭が痛い。どこかで頭を強く打ったみたいだ。意識はある。頭を触ってみる。血は出ていない。手も指も動く。目を開けてみる。眩しい。光に目が慣れると、そこはいつかの夕暮れだった。僕は放課後の裏門に立っていた。そこにはいつものようにルドが待っていた。



「…あれは夢か。良かった、お前が無事で」

 ルドを抱きしめ、前脚を傷めないようにそっと下す。いつもポケットに忍ばせていたパンの残りが今日は見当たらない。

「ごめんよ、忘れたみたいだ」

『にゃー!』そんなに怒るなよ。

 


『ねぇ。君、泣いてるの?』

 頭の上から不意に誰かの声がした。淡く光る白い毛玉がこちらを覗き込んでいる。


挿絵(By みてみん)


「誰?」なんだ、こいつ?

『ないしょ』声は答える。『でも、泣いてるよ』

「なんで泣くんだよ」

 頬を触ると、確かにそこは濡れていた。


『きみ、ここに来る前に辛いことがあったんじゃない?』

「……?」

 何を言っているんだろう?僕もルドもここにいる。

『そっか。辛いこと、忘れているんだね』

『頭打った?それとも防衛反応ってやつかな』

「……頭打った、と思う」

 ずきずきする痛みがそれを教えてくれている。



『名前は言える?』

 毛玉は僕の前をふわふわと浮かんだり沈んだりしている。

「僕は…」

『んー、アサギリ、ヒカリ君か』

 お前が言うのか。でも残念、違う。

「ヒカルだよ。言ってないのに、何でわかるのさ」

『そこに書いてるから』

 自分の来ている制服の左胸に名札がついている。<朝霧光>


『ほらね』声が少し笑った気がした。

「…君なに?毛玉みたいだけど」

『だから、な、い、しょ。言っちゃいけないことにしているの』

 変なやつだ。そう思った。


『着いて行っていい?』

 そう言う奇妙な毛玉とルドを連れて放課後の裏門の周りを歩く。いつもなら遊びながら食べ物をあげている時間だ。


『この子は何て名前?』

「ルド」

『ルド…可愛いね』

「普通だろ」

『あ、左手が白いんだね』『そっか』

「そう、最初はそれで見分けてた」

『ちょっと歩きにくそう』

「多分左手をけがしているんだ」

『なんでルドって名前なの?』


 えっと。…改めて聞かれると恥ずかしい。

「……昔読んだ、本から取った」

『えー、あ、あの生まれ変わるやつ?知ってる。そこから取ったんだ。可愛いー』

「うるさい」「毛玉が本読むのかよ」



 誰も来ない裏門の隅に座り、ルドを撫でていると、しばらくして毛玉が口を開いた。

『いつまでこうしているの?』

「いつまで?」「いつもなら日が暮れるまでかな」


 ふと思い出す。日が沈んでも一緒にいたのは、あの日だけ。ルドの前脚の動かし方がまた変になっているのに気づいた日。裏門の石段を消した日。自分という入れ物から力が溢れはじめた日。すり寄ってくるルドはお腹がすいていただけなのかもしれない。いつものように、ご飯をくれると思っていたんだろう。だけど近付いてきたルドへの僕の感情はどす黒い物だった。


「母さんたちを消すわけにはいかない。確かめないといけない」


 …目が無いはずなのに、毛玉と目が合ったような気がして、顔をそむけた。

「毛玉、お前も内緒にしろよ?」話して、楽になりたかった。

『いいよ』


「…僕はルドを殺そうとしたことがあるんだ」

『能力が溢れた日、僕はルドを消してしまってもいいって思ったんだ』

 

 恐ろしい考えだった。でも家に帰る前に、母さんたちに触れる前に試さなければいけなかった。もし消えてしまったら。僕は家に帰れない。僕が消えないといけない。

「そして触れた」

「いつもみたいなふりして抱き上げたんだ」



『…そして、何も起こらなかった?』僕は頷く。

『嬉しかった?』毛玉は続ける。

「……」そんな単純な話じゃない。

『違う?』

「…嬉しかった」言葉を絞り出した。

『……嘘ついたね』


 ルドをぎゅっと抱きしめる。いつもみたいにルドは暴れない。頭を殴られたような気がして、僕は反論できなかった。確かに嬉しかった。安心した。自分は何でも消してしまう怪物じゃない。そう思えたから。だけど…、


「親友だったんだ」「親友だったのに」

 …ルドを殺して確かめようとした。悍ましい考えに吐き気がする。

「ごめん、ごめんよ」

「ルドじゃない!そうじゃなくて、こんな気持ち悪いやつが消えないといけなかったんだ!」


『そう』『罪悪感なんだね』『だから、ずっとルドを守ろうと思ったんだね』

 毛玉は揺れながら言う。

『そっか……。辛いね』



『ルドにも会えたし、そろそろ時間』

 毛玉は寂しそうに言った。

「待てよ」

『なに?』

「お前、誰なんだ?」

『…君の夢だよ』『…またね』





 はっと目を開く。目に入ったのは白い天井だった。病院、にしては静かすぎる。ベッドに横になっている。シーツをまくり、体を起こす。やっぱり頭が痛い。痛みが霧散した記憶を集めてくる。


 あの毛玉。『君の夢だよ』そう言っていた。

 …そっか。今までが夢だったのか。じゃあルドはやっぱり…。


 現実が容赦なく記憶の箱を踏み抜き、溢れる想いが涙と呪詛になって噴きこぼれる。

「…殺した!」「ルドを、僕は殺した!」

「どうしてあいつが消えないといけないんだ!」

「消えないといけないのは……僕だった……!…僕だったのに!!」


「うあぁぁっぁぁ!」「あぁぁぁぁあぁぁっぁ!」

 泣いて泣いて泣いた。顔をゆがめ、擦り潰すように両手で覆う。爪を立て、目でもくり抜いてやろうかとしたところで、病室のドアが開いた。



『起きたかーぃ?』

 ノックもなく入ってきたのは、褐色の肌をしたスーツを着た女性だった。カールがかかった長い金髪をまとめている。僕よりずっと背が高い。


『おはよう、朝霧くん』

 …知らない人だ。

 

「……誰、ですか?」

 泣きはらした顔で僕は答えた。目はまだ両目とも見えていた。

読了ありがとうございます。

本作品はカクヨムに先行連載しております。大体1W遅れでなろうに投稿しています。当面は金土日に1話ずつ更新の予定です。よろしくお願いします。


挿絵つけてみましたが、制服じゃないですね。これ。


9/10 小説紹介欄の更新に伴い、文章の一部を校正しました。

名札付き制服がうまく作成できなかったので初期の絵にしました。

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