Box.32 事故
10月。
「たっくみ~が帰ってくる~」やばい。顔がにやけてしょうがない。付き合ってから、すぐ箱庭から出て行ったから(どこにいるかは機密なんだってさ)、もう半年も会ってないよ。何しよっかな。ゲームなんてオンラインで一緒に良くやってたし、勿体ないよねー。どっか行こっかなー。ネズミーランドとか?最近料金高くなったらしいけど、何とでもなるしね!
…おや?何か不満そうな女子が一人。
『…ちぅ』
「お、なんだなんだ、ネズミみたいな声出して」
「リブ、君もネズミーランドに行きたいのかー?」
『…口に出てた?』
「なんか出てたよ」
『…ネズミーランドは行ってみたい』『行ったことない』
「行ったことないんだ?私も小さいころ行った切りだけど、ネズミっちーとネズミみー、ダーティーと、トランプぐーず。夢と現実が織りなす、仮想現実空間さ」
『…面白そう。ルドも好きかも』
「…一応言っとくけど、リアルなネズミじゃないから、猫ちゃんは食べれないよ?」
「それにしても」「あんた、いつも悶々と悩んでるね」
『アヤは悩まないの?』
「遠距離ってだけで、悩みしかないけど…」
「で、あんたの悩みは?」
『……ヒカルが何でも<いいよ>って言ってくれること』
思わず額にチョップしてしまった。
『…痛い』
「何が悩みよ?惚気か」
『えー、だってちょっとぐらい、嫌とかダメとか言ってほしい』
「一回『会いたい』って言って『駄目、無理』とか言われてみなさい!」
『…………泣くかもしれない』
ぐぅかわ。目が潤んでる。これ本気で泣くやつだ。アズがお母さんみたいに見守っている気持ちがよく分かるなー。
「ほんじゃ今週末、ダブルデートってことでいいのかな?」
リブは目を輝かしてきた。
『ほんと!やった!初めてお出かけデートだ!』
…初めて?アズのリークによると、漸くこの子らが付き合い始めてそろそろ一カ月。それは、少しあかんのとちゃうかい?ヒカル。
……巧から通信だ。向こうが非表示になっているから、逆にそれでわかる。
『———って言ってるんだよ、ヒカルどうする?』
「…これ前と同じ感じで仕込みだったりする?」
『いや。これはホント』
人の多いところ苦手なんだけどな。ジェットコースターとか無理だと思う。でも、断ったらリブ怒るだろうなぁ。
「…いいよ。試験終わったところだし。僕もネズミーランド行ったことないけど」
『わかった。編音にも伝えておくよ』『じゃあまた週末に』
「ありがとう、連絡よろしく」
あー。どうしよ。取りあえず、人にぶつからないようにしないと…。
…当日。
『すごーーーーーい!』
リブはゲートをくぐった瞬間からキョロキョロ。
へ-、ネズミがどら焼きをかじっているのが、ゲートのモチーフなのか。いろいろギリギリだな。
『全部本物?』
「いや、あのどら焼きは食べられないよ?」
『本物じゃないの?』
『夢の国だからねぇ』
『じゃあ夢なの?』
「夢と現実の狭間ってやつだよ」
『…哲学だねぇ』巧が笑う。
『リブ、ここでは考えたら負け。お金のことも考えちゃダメ』
『了解!』
何だか昔のリブみたいだ。素って変わらないんだな。そう言えば、リブってお金持ってるのかな?僕は…多分この四人の中では一番貧乏だ。何か仕事もらえないかなぁ。
『お金か…考えちゃうよね』
ここは夢と現実の狭間。
『まぁ言い出したの私だし、今日はおごってあげるよ』
『アトラクション壊さなければ大丈夫』
編音、君はここ丸ごと買えるくらいお金持ってるでしょ?
『じゃあまずは記念撮影しとこー』
編音が長い棒をつけたスマホを取り出した。
『はい、並んで』
リブがすっと腕を掴んできた。僕は硬直。横目で巧たちを見る。…自然と腕を組んでいる。…これが年季か。
「……」
『……』
『ヒカル、笑って。腕、疲れちゃう』
『ごめん。笑ってるつもりなんだけど……あはははは』
リブが髪を服の中に入れてきた。パシャ。
『ぐっじょぶ、リブ』
『ヒカル、緊張しすぎ』
『あんまり意識しすぎてもいいことないよ?』
「人ごみ苦手なんだよ。いつ誰かがぶつかってくるか分からないからさ」
…あ、やなこと言ってしまったかな。
『あーそっか。そうだよね』
リブも意味は分かったらしい。
ヒカルは普通が難しいんだ。改めて気付いた。彼の能力からすると、人にぶつかるだけで事故になるから、歩くこともストレスなのか。…すごいな。
さっきもさりげなく腕を組んでたけど、僕なら彼と握手するのも緊張するところだ。リブだけが、恐怖の感情なく彼に近づけるってことなのか。
「…君たち、本当にぴったりはまるピースなんだね」
『ピース?…した方がよかった?』
「いやいや、僕と編音も負けない、と思っただけ」
『は?恥ずかしいから止めてー』
「—Resonance—で周り警戒しておいて」編音にこっそり耳打ちする。
『?、いつもしてるよ』
「オーケー。でもなるべく人の少ない道を通ろうか」
『まぁ、そのくらいなら余裕よゆう』
「リブはヒカルの腕、離しちゃだめだよ」
確か触れたままだと、バリアは発動しないんだった。
『だってさ。ヒカル、離さないからね』
『はーい』
でも、リブはそれなりの勢いで触れても大丈夫そうだ。これは慣れの問題?
ポップコーンコーナーで買った巨大なバケツをリブは首から下げて歩いている。
『ヒカル』
『ん?」
『あーん』
『……』また固まった。
「……リブが待ってるよ?」
『巧、お手本見せたげよう』
「じゃあ、編音、あーんして」
『あー』編音の口に優しく投げ込む。せき込む編音。
『たくみ、そうじゃないでしょ!?』
「あ、違った?ごめんごめん」
『やってみていい?』
『いいけど、ゆっくり投げてよ』
『はい!』ポップコーンを上に投げ上げるリブ
『ちょ、三個は無理!』
一個、二個はナイスキャッチ。三個目はさすがに落とした。
いま落ちたコーンは、ヒカルに当たる前にしっかり消えていた。やっぱり自然落下程度のスピードならバリアは発動するみたいだ。やっぱり慣れ、か。
ネズミっちーと写真を撮ってジェットコースターへ。待ち時間70分。
『長いね』
「並んでおくから、買い物でも行って来たら?」
『んーそうしよっかなぁ。リブ行く?』
『ヒカルが行くなら』
「いいよ、行っておいで」
さて。並びますか。コースターの金属音といい感じに悲鳴が聞こえる。マイカさんに言われてた、―Providence―のテストも今のうちにしとこう。コースターでヒカルとっさにレールとか消してしまわないといいけど…。
その時、ひときわ多い金属音と、悲鳴がした。ポツポツと頭に水滴が当たる。
…あれ、雨かな?……違う、血?
ここはお土産屋さん。非現実と現実をつなぐお店。でも、可愛い。
「これかわいい」
『これ付けるのが夢の国の正装さ』
猫耳、ではなくここではネズミ耳カチューシャ。
『はい、ヒカル、お揃いにしよう』
「イヤなら嫌って言っていいんだよ?」
『私は巧の買ってくけどねー』
『リブはつけたいの?』
「それは…まぁそうだけど…」
ヒカルはこういうの好きそうには思わない。
「あ、ルドにねずみのおもちゃ買って帰ろうかな」
『いいよ、付ける』
やった!…でも、また我慢させちゃったかな。
買ってもらったカチューシャを付ける。ヒカルは恥ずかしいのか顔が真っ赤になる。
『これじゃまた目立っちゃうよ』
「ヒカルみたいに着けてる人いっぱいいるよ。大丈夫」
『いや、僕じゃなくてね…』
その時店の中まで大きな金属音と悲鳴が響いた。
「何だろ?コースター?」
『それにしては音が派手だったけど』
『ヒカル、リブー、巧がすぐ来てって』
「もう順番来たの?」
『いや、そうじゃないみたい。でもすぐ来て、って』
外に出ると、少し先のジェットコースターから、大勢の人がこっちに逃げ出してくる。サイレンを鳴らした救急車も見える。何かあったんだ。
ヒカルを守りながら、人波に逆らってコースターの入口まで行く。何とかたどり着くと巧が手を振っていた。
『コースターの事故みたいでね。何があったのか、よく分からないけど、―Providence―で傍受した感じだと、心肺停止ってやつらしい』
『僕らで出来ることは?』
『叶がいれば、怪我の処置は出来るかもしれないけど、残念ながら僕らで出来ることはなさそうかな』
『巧、肩に血?がついてる』
『あ、飛んできたのかな。多分事故、怪我だったんだろうね』
「仕方ないね。他のとこ行こうか」
その時、さっきとは違う大きな気色の悪い金属音がコースターの方から響く。皆も気づいたみたいだ。
「この音…!?」
『―Factor―!』
これは…事故で亡くなった人のなかに、Factor保持者がいたのか……覚醒が、始まる。
モニュメント、著作権に引っかかるせいで、イメージと全然違うものになりましたが致し方なしです。
8/11山の日も更新します。




