Box.29 少女戦記
「お祝いしたげよっか?」
…どうしよう。どうしよー。あーどうしよー。つい言ってしまった。そうだ、何も二人でお祝いなんて、一言も言っていない。皆でパーティーをやればいいんだ。そうだ、そうしよう。
X-dayまで8日。
『リブ?…そんなのダメ、絶対』
毎月1日の記憶バックアップの日、アズに太い釘を刺された。何も言っていないのに、記憶を覗かれた。昨日の今日だからタイミングが最悪だ。
「えーむりムリ無理むり、アズ助けてよ。皆で遊びに行こ?」
『くぅかわ、じゃなくて、その方が面…でもなくて、このチャンス逃したらまた1年後よ?』
「あ~また、って言った!」
また1年間悶々とするのか。それはやだなぁ。アヤに相談しても『押せ!』としか言わなそうだし。
X-dayまで7日。
昼ご飯の時にプリヤを捕まえた。困ったときのプリヤ様だ。
『で、私ですか?』
『私も誰かとお付き合いしたことないですし、アドバイスなんて…』
「付き合うとか、そういうんじゃないんだけど…」
『そんな、めんどくさいこと言わないでください』グサっ。
『9/9にリブちゃんをハッピーにしてあげますよ。それとも4倍を目指しますか?』
「1/4の運勢になるかもしれないからヤダ」
『そうですけど、成功する確率100%は失敗する確率0%だから、何倍掛けでも確率は同じです』
スプーンを口にくわえながら、説明してくれる。私がやったら『お腹すいてるの?』って言われるやつだ。
「でも、成功する率0%かもしれない」
『ほんとにそう思ってます?』…思ってないです。ゼロではないはず。
『こういうのはきっと当たって砕けろ、ですよ』
「砕けたくはないんだけど?」
『リブちゃんは砕けても再生しますから、大丈夫ですよ。あ、でも相手がヒカル君の場合は、砕けずに消えてしまいますね。その場合は…』…その場合は、その方が楽かもね。
「分かった。取り敢えず当日お願いね!」
『は~い。了解です』
X-dayまで6日の夜。
部屋の窓を開けていると、ふっとルドが入ってきた。
「こんばんは、ルド」
最近よくこっちに来ている。ヒカルの家で寝るより多いんじゃないかな?猫用のクッションとかないんだけどなぁ。マイカちゃんに買ってもらおうかな。
「君のご主人様は何か言ってた?」
『ほにゃ?』
「そうか、楽しみにしてるって?」
『ふにゃー』
「え、何か用意してくれてるって?それは私も楽しみだにゃー」「なんちゃって」
『にゃー』
ルドを抱きしめて呟く。
「君、応援しとかないと、うちに来れなくなっちゃうかもしれないよ?」
X-dayまで5日の夜。金曜日。
9月は前期期末試験があるので、かなちゃん達と勉強の日だ。今日はかなちゃんの家に集まった。
『梓から聞いたわよ。ついにやるのね?』
「…勉強しようよ」
『リブもこっち側か~。おいでおいで』
「…勉強しよ」
『ヒカル君もようやく報われるのね』
「勉強!」
『猫だか犬だか落書きしてた子が、勉強とか。人は変わるねぇ』
今日は皆勉強どころではないみたい。
『服どうする?』
『最近着ないけど前よく着てた、いかにもって感じのフリフリのやつがいいよ』
『特訓は休みにさせないと』
『私がタローのパソコン壊しておこうか?』
「いい加減にしないと…刻むよ?」
『お、やるかー?』『リブとどこまでやりあえるか、一回試したかったんだよ』
『うちが壊れるから、やめなさい!』
『あと、怪我したら私が治すんだから、止めなさい!』
『今晩、食べて帰るでしょ?』
『カレー、カレー』編音がお皿をチンチンと叩く。
『止めないと編音の分、ハチミツたっぷり入れるわよ?』
「かなちゃん、スパイスある?」
『はい、どうぞ』
『叶、辛いの苦手じゃなかった?わざわざリブのために買ったの?』
『…ん、あー。最近辛口もチャレンジしてる、というか』
『へー。なんか心境の変化?』
『ま、そんなとこかな。さ、食べよ食べよ』
「?」
X-dayまで4日、土曜日。
プレゼント買うなら今日か明日しかない。箱庭から出るの嫌いなんだよね。白い髪なんて普通じゃないから、皆ジロジロ見てくるのが嫌い。かなちゃんと行こうかな?電話をかけてみる。
『分かった。じゃあ10時に直通エレベーターで』
タクシーに乗って、最寄りのX市のデパートに着く。
『リブ、何買うか決めてるの?』
「かなちゃん、それが…何がいいかなぁ?」
呆れた顔された。すんごい呆れた顔された。
『あんた、そわそわだけして、何も考えられてないんでしょ?』
「えー、だって、さぁ…」
『まさか、ディナー、食堂じゃないでしょうね?』
「…ダメ?」
『駄目に決まってるでしょ』
『あーもう。しっかりしないと、私が取っちゃうわよ?』
「え、ダメ」
『……冗談よ』
…かなちゃんがそんな事言うなんて、びっくりした。
結局、私はお揃いのマグカップを買った。かなちゃんも何か買ってたみたいだった。
X-dayまで3日。
ディナーはヒカルと相談することにした。
「ヒカル、何か食べたいものある?」
『いやー。特にこれと言ってないけど…、ラーメンとかうどんとか?』
頭の中でかなちゃんが『ダメ!』って言った気がした。
「ダメみたい」
『?』
『あ、そうか。誕生日のことでしょ?僕お金ないしさ、なんかすごいお店とか無理なんだよね』
『ならケーキでもいいかなー。なんちゃって』
「…け、けケ、ケーキね、…分かった」
X-dayまで2日。寝る前のマイカちゃんを捕まえた。
「マイカちゃん、ケーキの作り方教えて」
『はい?どうしたどうした。あんた血迷ったの?』
「バースデーケーキ作る」
『ん?おぉ。おおぉ?マジ?』
眠そうだった目が開いた。
『あの子誕生日いつだっけ?』
「…明後日」
『で、ケーキをここで食べるわけ?』
「そうなる…かな」
『食事は?』
「ここで食べる?」
『あ?…食堂行きなさい』
「それはダメ」ってかなちゃんが言ってた。
『あんたが食べる食事用意すんの、大変なんだけど?』
『もう少し前に言ってもらえる?明日しかないじゃん』
って言いながら、怒られると思ってたのに、なんだか楽しそうだ。
X-day前日。
支度のために今日は2人で早く帰ってきた。タローは『悪いが今日は休みだ』と言っていた。アヤ、何かしたのかな?
『まだ仕事あるんだけど。なんでケーキ作らないといけないの?』
「マイカちゃん働きすぎなんだって」
『いや、あんたが家の仕事増やしてんの。燐が授業やってくれることも増えたから、まだ学校はマシなんだけどねぇ』
『さ。下ごしらえ終わったから、後はやりな』
「は〜い」
『こら、髪使ってかき混ぜない』
「楽なのに…」
『料理は愛情だよ』
『美味しくな〜れって思いながら作ると美味しくなるって、パン屋のおじさんが言ってたでしょ?』
「ハムおじさんだね」
型に生地を流し込み、オーブンのスイッチを入れる。40分待ちだ。時間ができてしまった。
『もう、納得できたの?』
「何が?」
『元の自分と今の自分。違うと思ってるでしょ?』
「うん」「前の記憶に引っ張られてるなーって、今でも思ってる」
『嫌なの?』
「最初はね」「でも最近はこれでいいんだって思ってる」「2人の私が一緒にいる、っていうか自分も結局同じ道を歩いて、1年かけて、同じとこに辿り着いた感じ」
『それは、あんたが成長したってことなのかもね。…大人になったってこと』
「そんなに子供だった?」
『そりゃそうよー。記憶障害の影響もあったと思うけど、大分幼かったわ』
「成長、か。…身長止まっちゃったけど」
『何センチ?』
「162」
『160あって何が不満なのよ』
「マイカちゃん、何センチだっけ?」
『173』
「うそ?」
『嘘じゃないでーす』
生地が焼けるいい匂いがしてきた。
「……でもね、何で最初からあんなに彼が気になってたのか、分かんないんだ。今でも思い出せない」
『…思い出せなくても、そのままで自信持ってもいいと思うわ』
「…そう、かな」
『…直情的だったあんたと、ゆっくり考えたあんたが、結局同じ人を選んだ。リブ、それって素晴らしいことじゃん』
チーン。オープンのタイマーが切れた。取り出した生地は熱々でホクホクだ。うまく出来てそう。
そうか。私は自分の気持ちに自身がなかったんだ。
…えっと。これって私、明日彼に宣戦布告する感じ?
29話読了ありがとうございました。
なんかすごい昭和レトロなキッチンですが、きっとマイカの趣味です。




